監修
叶内 宏明 先生 (大阪公立大学 大学院生活科学研究科 生活科学専攻 教授、管理栄養士、ビタミンB研究委員会 準委員)
サルコペニアとは、加齢にともなって筋肉量や筋力、歩行能力が低下する疾患のことを指します。ギリシャ語で筋肉を意味する「sarx(サルコ)」と喪失を意味する「penia(ペニア)」が由来です。
2016年10月に国際疾病分類に登録されたことから疾患として位置づけられるようになり、内科や整形外科などさまざまな診療科で注視されるようになりました。
サルコペニアには一次性サルコペニアと二次性サルコペニアがあり、原因によって診断が異なります。
まず、一次性サルコペニア(加齢性サルコペニア)は、65歳以上かつ、加齢以外の明確な原因が認められない場合に診断されます。
一方で、二次性サルコペニアと診断されるのは、加齢以外に活動量の低下や栄養不足、疾患などの明確な原因が1つ以上ある場合です。二次性サルコペニアの場合、年齢制限は設けられていないため、若年層でも生活習慣や疾患の影響によって発症する可能性があります。

サルコペニアと関連する言葉として「フレイル」が挙げられます。フレイルは加齢によって心身が老い衰えた虚弱状態の総称です。
以下のうち、3つ以上の症状に当てはまる場合にフレイルと診断されます。
・意図しない体重減少(年間4.5kgまたは5%以上の体重減少)
・疲れやすい
・歩行速度の低下
・握力の低下
・身体活動量の低下
また、図からわかる通り、フレイルは「身体的フレイル」「精神的フレイル」「社会的フレイル」の要素からなります。
サルコペニアは身体的フレイルの中心的な要因でもあり、筋肉量や筋力の減少によって立ち上がる、歩くといった基本的な動作が難しくなるのが特徴です。またサルコペニアの他にも、運動器の障害によって移動機能が低下するロコモティブシンドローム(ロコモ)が含まれます。
さらに、引きこもりや社会的つながりの減少が見られる場合は社会的フレイル、抑うつ傾向や認知機能の低下がある場合は精神的フレイルと呼ばれます。それぞれは深く関係しており、身体の衰えが心の不調や社会的な孤立につながるなど、相互に悪影響を及ぼすことも少なくありません。
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フレイル/サルコペニア

サルコペニアには細かな診断基準が設けられており、主な症状としては次の2つが挙げられます。
・筋力の低下
・筋肉量(骨格筋量)の低下
以下では、これらの診断基準が設けられた背景や基準における具体的な症状について詳しく見ていきましょう。
サルコペニアの診断基準については、もともと欧州老年医学会などの研究グループ「The European Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)」によって提唱されていました。
その後2013年に、アジアサルコペニアワーキンググループ(Asian Working Group for Sarcopenia:AWGS)が組織され、アジア人のための診断基準が提唱されたという流れがあります。
また、EWGSOPが2018年に診断基準の改訂を発表したことを受け、AWGSでは2019年に診断基準を改訂(AWGS2019)しました。この基準は、サルコペニアを筋力、身体機能、骨格筋量の3つの指標によって診断するものです。
さらにその後、2025年11月に再び診断基準が改訂(AWGS 2025)されました。AWGS 2025では、身体機能がサルコペニアの診断基準から除外されたことが最大の特徴です。低筋力+低筋肉量の場合にサルコペニアと診断されます。日本サルコペニア・フレイル学会でも、AWGS2025に基づいた診断を推奨しています。
AWGS2025では、世界保健機関(WHO)の高齢者のための統合ケア(ICOPE)に向けた筋肉の健康(Muscle Health)促進との統合に焦点を当て、症例発見の強化を目指しています。その際に設けられたのが、以下の基準です。
SARC-Fは、握力、歩行、椅子から立ち上がる、階段を上る、転倒の5項目で構成される、サルコペニアのスクリーニングツールです。質問と点数は以下の通りで、カットオフ値※1は4点以上とされています。
またSARC-CalFは、SARC-Fに下腿周囲長を追加したもので、カットオフ値は11点以上です。
※1 カットオフ値:ある検査やスコアで、陰性と陽性(リスクの有無)等を分けるための基準となる数値
| 0点 | 1点 | 2点 | 10点 | |
|---|---|---|---|---|
| 4~5kgの荷物の持ち運び(握力) | 全く大変ではない | 少し大変 | とても大変/全くできない | |
| 部屋の端から端までの歩行移動(歩行) | 全く大変ではない | 少し大変 | とても大変/補助具を使えば歩ける/全くできない | |
| 椅子やベッドからの移動 | 全く大変ではない | 少し大変 | とても大変/助けてもらわないと移動できない | |
| 階段を10段上る | 全く大変ではない | 少し大変 | とても大変/昇れない | |
| この1年で転倒した回数 | なし | 1~3回 | 4回以上 | |
| 下腿周囲長 | 男性:34cm以上 女性:33cm以上 |
男性:34cm未満 女性:33cm未満 |
これらのスクリーニング項目でカットオフ値を超えた場合、サルコペニアの可能性が高いとされ、以下のようにさらに詳細な評価が行われます。
・筋力:握力検査
・骨格筋量:BIA法・DXA法のいずれか
なお、サルコペニアの判定には筋力と筋肉量が低下していることが必須条件です。AWGS2019での診断基準のうちの1つであった身体機能(歩行速度など)は、AWGS 2025では診断基準から除外されており、症状の重症度や経過評価の指標として用いられます。
サルコペニアが疑われる筋力、筋肉量(骨格筋量)の低下の基準について、以下で詳しく解説します。
サルコペニアになると筋力(特に握力)が低下し、物を持ったり握ったりする動作が困難になります。判断の基準は以下の通りです。これまでは65歳以上を対象とした基準が設けられていましたが、AWGS 2025ではサルコペニアの早期発見を目的とし、新たに50~64歳を対象とした基準が設定されました。
・50~64歳:男性34kg未満、女性20kg未満
・65歳以上:男性28kg未満、女性18kg未満
筋力の低下が認められた場合は「サルコペニアの可能性あり(低筋力)」と診断されます。なお、筋力は正常なもののサルコペニアの危険因子が陽性の場合は、「サルコペニアのリスクあり」と診断されます。
サルコペニアでは筋肉量の減少も起こるため、体型や見た目に変化が現れることがあります。
AWGS2025では、身長の2乗で補正した指標に加えて、BMI※2による補正値が新たに導入されました。これは BMIが24以上の場合、身長の2乗での補正では低骨格筋量と判定されにくい傾向があるためです。
BIA※3(身長補正):
・50~64歳:男性7.5kg/m2、女性5.7kg/m2
・65歳以上:男性7.0kg/m2、女性5.7kg/m2
BIA(BMI補正):
・50~64 歳:男性0.90、女性0.63
・65歳以上:男性0.83、女性0.57
DXA※4(身長補正):
・50~64 歳:男性 7.2kg/m2、女性 5.5kg/m2
・65 歳以上:男性7.0kg/m2、女性5.4kg/m2
DXA(BMI補正):
・50~64歳:男性0.80、女性0.55
・65歳以上:男性0.73、女性0.52
これらの総合的な測定により、筋肉量と筋力の両方が低下している場合に「サルコペニア」と判定されます。
なお、これらの詳細な検査は、設備が整った機関でしか受けられないことがあります。設備が整っていない機関では筋肉量と筋力のいずれかが低下している場合には「サルコペニアの可能性あり」と判断され、状況に応じて専門機関への紹介が行われます。
※2 BMI:体重(kg)/身長(m)2
※3 BIA(Bioelectrical Impedance Analysis):生体電気インピーダンス法
※4 DXA(Dual Energy X-ray Absorptiometry):二重エネルギーX線吸収法
サルコペニアには診断基準が設けられていることを紹介しましたが、早期発見のためにはセルフチェックも大切です。
以下では、簡単にできるセルフチェック方法である「指輪っかテスト」について解説します。

指輪っかテストは、筋肉量の減少を手軽に確認できる方法です。
まず両手の親指と人差し指で輪っかを作り、利き足ではない方のふくらはぎの一番太い部分を、力を入れずに軽く囲んでみてください。このとき、指の輪っかとふくらはぎの間にすきまができる場合は、筋肉量が減少していると考えられます。
ふくらはぎが細く感じられる人ほどサルコペニアのリスクがあると考えられるため、気になる場合は整形外科やサルコペニア外来などの医療機関に相談してみてください。
先述の通り、一次性サルコペニアの原因は加齢による筋肉量の減少に限られます。しかし、二次性サルコペニアの場合、栄養不足や運動量の減少といった原因が考えられます。
以下で詳しく解説するので、参考にしてください。
筋力を維持するためには、栄養が不可欠です。エネルギー源となるタンパク質や糖質、脂質だけではなく、ビタミンやアミノ酸も欠かせません。
特に以下の栄養素は、加齢にともなって不足しやすいため、筋力や筋肉量を維持するうえでも意識して摂取することが望まれます。
ビタミンB群は、エネルギー代謝や筋肉量の維持に深く関わる栄養素です。
ビタミンB1はエネルギー源となる糖質等をエネルギーに変える過程で重要な役割を果たす栄養素で、不足が疲れやすさに関係する可能性や筋肉量・筋力低下のリスクになる可能性があります。
また、ビタミンB6はアミノ酸代謝に欠かせません。タンパク質を摂取するとアミノ酸に分解され、筋肉などのそれぞれの細胞でエネルギー源となったりタンパク質に再合成されたりしますが、その際に必要になるのがビタミンB6です。
ビタミンCも、筋肉量を維持するために積極的に摂取したい栄養素です。女性を対象にした研究では、血液中のビタミンC濃度が高い人ほど筋力や身体能力が高いことがわかっています。
ビタミンCは体の中での消費量が多く、尿から排泄されやすいため、毎日こまめに摂取することが大切です。
ビタミンDはカルシウムの吸収を助けます。カルシウムは筋肉収縮に必須なため、ビタミンD不足はカルシウム不足による筋力低下につながります。また、ビタミンDは筋タンパク質合成の促進に関与する性質があります。ただし、ヒトを対象にした研究はまだ限定的で、一貫した結果が得られていません。ビタミンDは魚類から摂取できる他、日光を浴びると体内で合成されるのが特徴です。
しかし、高齢の方は日光を浴びる時間が短くなったり、皮膚でのビタミンD産生能力が低下する傾向があるため、食事から積極的に摂取することが望ましいといえます。
アミノ酸は、筋タンパク質を構成する重要な要素です。
アミノ酸のなかでも重視したいのが「分岐鎖アミノ酸(BCAA)」です。BCAAとはバリン、ロイシン、イソロイシンの3つの必須アミノ酸の総称で、筋肉に多く含まれており、筋肉のエネルギー源となったり、筋タンパク質の合成を促し、また分解されにくくする働きがあるといわれています。
特に「ロイシン」は、筋タンパク質を作り出しやすくする機能があることがわかっています。BCAAを含む必須アミノ酸は体内で作り出せないため、意識して食事から摂ることが大切です。
運動量の減少も、サルコペニアの主要な原因の1つです。運動量が減ると筋肉を使う頻度が減り、筋線維の委縮や筋力低下が顕著になります。
筋タンパク質は、合成と分解を繰り返しています。若い頃は合成される量と分解される量がほとんど一定であるため、食事や運動量を意識していなくても極端に筋肉が減ってしまうことはありません。
しかし、高齢になると合成される量が減少します。そのため、若い頃と同じような普通の生活を送っているだけでも筋肉が減りやすいのです。

前の項目で解説した通り、二次性サルコペニアは栄養不足と運動量の減少による筋力低下によって引き起こされます。
改善するための大切なポイントについて、以下で詳しく見ていきましょう。
筋肉量を維持するためには、バランスの良い食事を心がけることが大切です。
まず、肉類・魚・乳製品・卵・大豆製品など、さまざまな食品からタンパク質をしっかり摂取するようにしましょう。特に高齢の方は朝食や昼食のタンパク質摂取量が足りていない可能性があるため、意識的な見直しが必要です。
また、タンパク質とあわせてビタミンB群やビタミンC、ビタミンD、アミノ酸を摂取することも大切です。それぞれの栄養素が多く含まれる食品については、以下を参考にしてください。
・ビタミンB1:豚ヒレ肉、豚もも肉、大豆、玄米ごはん
・ビタミンB6:動物性食品(魚や肉)、赤ピーマン、バナナ、玄米ごはん
・ビタミンB12:レバー、サンマ、アサリ、プロセスチーズ
・ビタミンC:ブロッコリー、ピーマン、ミカン、イチゴ
・ビタミンD:サケ、イワシ、うなぎ、タチウオ、ニシン、きくらげ
・アミノ酸:動物性食品(魚や肉)、卵、大豆
なお、ビタミンB1は糖質の代謝に欠かせない栄養素ですが、ニンニクやニラなどに多く含まれている「アリシン」という成分と一緒に摂取することでビタミンB1の吸収がさらに促進されるといわれています。
また、日本の高齢者を対象にした調査では、ビタミンB6を十分に摂取することが、プレフレイル発症リスクの低下と関係があると示されています。
以上のことからもわかるように、筋肉量を保つためには全体の栄養バランスを見直すことが大切です。どれか1つの食品を多く摂るのではなく、栄養バランスを考えて肉類、魚類、野菜、果物、乳製品、大豆製品など多様な食品を摂るようにしましょう。
食事の内容をすぐに変えるのが難しい場合の一助として、栄養ドリンクやサプリメント、ビタミン剤を活用するのも1つの選択肢です。ビタミンB1を吸収しやすい形に改良した「フルスルチアミン」(ビタミンB1誘導体)が配合されたビタミン剤などさまざまな製品があるため、選択肢に取り入れてみてはいかがでしょうか。
筋肉量の維持や筋力低下のためには、運動を習慣化することが欠かせません。特に、太もも前面の筋肉(大腿四頭筋)やお尻の筋肉(大殿筋)などの抗重力筋を強化することが重要です。
筋肉を鍛えるためには、有酸素運動と下記のようなレジスタンス運動を組み合わせるのがおすすめです。
・ひざをついて腕立て伏せを行う
・椅子から立ったり座ったりする
・椅子に座り、片足ずつ持ち上げる
・仰向けになり、おへそをのぞき込むように上体を起こす
・机や椅子の背につかまりスクワットを行う
これらのうち、無理なくできるものを中心に取り入れましょう。ただし運動によって筋量・筋力が改善されても、継続しなければ半減、または消失してしまうため、習慣化が必要です。
また、腰痛や膝関節痛がある場合、かえって症状が悪化してしまう可能性があります。気になる症状がある場合や心配な場合は、医療機関などに相談してください。

サルコペニアは、加齢や栄養不足、運動量の減少などによって起こりえる疾患です。放置すると転倒や寝たきりになるリスクが高まるため、早めの予防と対策が重要です。予防のためには無理のない範囲で運動を継続し、日々の食事ではタンパク質やビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、アミノ酸を意識的に摂取しましょう。食事内容や食事量をすぐに変えるのが難しい場合は、栄養ドリンクやサプリメント、ビタミン剤を活用するのも選択肢の1つです。また、指輪っかテストなどのセルフチェックを行い、サルコペニアが疑われる場合は医療機関に相談してください。
■参考文献
・叶内 宏明「老化に伴うビタミンB6代謝の変化およびフレイル予防に必要なビタミンB6摂取量」・厚生労働省「サルコぺニア(さるこぺにあ)」・健康長寿ネット「サルコペニアとは」・Nature Aging「A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update」・荒井 秀典「1.サルコペニアの科学と臨床 1)サルコペニア診療ガイドライン」