とびひ(伝染性膿痂疹)
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とびひ(伝染性膿痂疹)

とびひとは、皮膚に細菌が感染することで、水ぶくれや厚いかさぶたができる皮膚の病気です。けがをしたり、ひっかいたりした部分から細菌が皮膚に侵入することで発症し、全身に広がっていきます。
本記事では、とびひの原因や症状だけでなく、なってしまったときの対処法や家庭での感染対策、日常生活でできる予防法を解説します。

宇井 千穂 先生

監修

宇井 千穂 先生 (やさしい美容皮膚科・皮フ科 院長)

とびひとは?

とびひは、皮膚に細菌が入り込んで水ぶくれや厚いかさぶたができる、感染性の皮膚の病気です。
医学的な正式名称を「伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)」といいます。接触によってうつり、「飛び火」のようにあっという間に全身に広がることから、「とびひ」と呼ばれるようになりました。

季節としては、夏場、2~5歳くらいの子どもに多く、特にアトピー性皮膚炎などの基礎疾患を有する子どもに多いことが知られています。大人でもアトピー性皮膚炎の人や高齢者など、皮膚のバリア機能が低下している人に起こりやすいです。

※ホコリや細菌などの外部からの刺激を防ぎ(外からのバリア)、体内の水分喪失を抑える(内からのバリア)機能。乾燥や加齢、ストレスや疲労で免疫力が低下しているときなどにバリア機能が低下しやすいといわれている

とびひの原因

とびひの原因は「細菌」です。
私たちの体には普段から「常在菌」という細菌が付着しています。常在菌は、日常生活では影響がない存在なのですが、皮膚のバリア機能が低下しているときに、傷や湿疹などから皮膚に侵入して症状を引き起こします。
なかでも、鼻腔にはさまざまな常在菌がいます。鼻を触るくせがあると、鼻の周囲からとびひが始まったり、細菌の付着した手であせもや虫刺されなどをひっかいたりすることでとびひになるのです。

とびひの症状

とびひの症状は、原因となる細菌の違いによって、大きく2種類に分けられます。ひとつは、水ぶくれをともなうもの、もうひとつは水ぶくれをともなわず、かさぶたができるものです。
両方の症状を併発することも多く、水ぶくれの有無だけではっきりと分別できるわけではありませんが、基本的には以下の2種類に分けられます。

・水ぶくれができるとびひ

とびひのなかでも水ぶくれをともなうものは、水疱性膿痂疹(すいほうせいのうかしん)といいます。赤くなり、だんだんと薄い皮のはった水ぶくれができていく初期の症状が特徴で、経過とともに水ぶくれの薄皮がめくれたような状態になります。このタイプのとびひの場合、発熱などの全身症状が現れることはありません。

主に「黄色ブドウ球菌」という細菌が原因で、細菌が定着しやすい鼻や口の周りから発症することが多く、汗をかきやすい夏場に多く発症する傾向もあります。

<鼻の周りにできた水疱性膿痂疹のイラスト画像>

・かさぶたができるとびひ

水ぶくれがなく、分厚いかさぶたのようになる症状のとびひは、痂皮性膿痂疹(かひせいのうかしん)といいます。赤く腫れたところに膿疱(のうほう:膿をもった水ぶくれ)ができ、厚いかさぶた(痂皮)になります。

このタイプのとびひは、夏場以外でも発症する可能性があり、発熱やのどの痛み、リンパの腫れなどの全身症状をともなうのが特徴です。
主に「溶血性レンサ球菌」という細菌が原因ですが、実際には純粋にレンサ球菌によるものだけでなく、ほとんどが黄色ブドウ球菌との混合感染になっています。

<痂疲性膿痂疹のイラスト画像>

<とびひの特徴>

水ぶくれができるとびひ
(水疱性膿痂疹)
かさぶたができるとびひ
(痂疲性膿痂疹)
特徴 かゆみのあるやわらかくて破れやすい水疱ができる 黄色くて厚いかさぶたができる
かゆみ ともなう ともなわないことが多い
全身症状の有無 基本的にはない
(幼児や新生児で全身に症状が広がってしまったときには発熱をともなうことがある)
発熱やのどの痛み、リンパの腫れなどの全身症状をともなうことがある
主な原因菌 黄色ブドウ球菌 溶血性レンサ球菌(黄色ブドウ球菌と同時感染の場合も)
なりやすい時期 初夏~夏、暑い時期 季節を問わず発症
なりやすい年代 乳幼児~小学校低学年の児童 世代に関係なく、大人でも発症

とびひの治療法

薬での治療

とびひの治療は塗り薬(抗菌薬)と内服薬を用いることが多いです。
範囲が狭く、症状が軽い場合は塗り薬のみで治療できる場合もあります。
その際、症状の範囲が狭ければ、抗菌薬の軟膏を塗って治療を行います。塗り薬は抗菌薬の濃度が高く、効果が高いですが、症状が広範囲に広がっている場合は塗り薬と内服薬を併用します。

かゆみのためにかきむしってしまう場合には、症状の悪化を抑えるために抗ヒスタミン剤などを使ってかゆみを抑えることもあります。

医療機関を受診

とびひは接触によってうつる「感染症」です。放置すると知らず知らずのうちに家庭や学校で感染を広げてしまう恐れがあるため、早めの診断と適切な治療、感染対策が必要になってきます。
医療機関では、とびひの原因となっている細菌を調べる検査をすることもできます。皮膚の状態や全身症状の有無などから、原因となっている細菌が「黄色ブドウ球菌」なのか「溶血性レンサ球菌」なのかを判断し、治療薬を選択する必要がある場合には、医師の診断が必要です。

また、腎炎などの合併症を予防するために、細菌を最後までなくし切る必要があるため、もらった内服薬は医師の指示を守り、症状が軽快したとしても最後まで飲み切るようにしましょう。

とびひになってしまったときの注意点

とびひは、接触によってうつる(感染する)病気です。適切な治療をすれば治る病気なので、そこまで神経質になる必要はありません。しかし、つぶれた水ぶくれのなかに含まれている液体や、かいた場所から染み出した体液で感染するため、学校生活や家族との生活で人にうつさないように気をつける必要があります。

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群や敗血症などの合併症に注意

とびひは基本的に皮膚の病気ですが、とびひの原因となる細菌が影響して、他の病気に移行することがあるので注意が必要です。気をつける必要があるのは、以下の3つです。

  1. ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS):黄色ブドウ球菌の産生される毒素(表皮剥脱性毒素)が血液を介して全身に移行し、やけどのような赤みや水ぶくれを起こす病気です。乳幼児に多くみられます。
  2. 敗血症(菌血症):感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされることをいいます。細菌が体内で増殖し、発熱やけいれんなど、深刻な状態に陥ることがあります。
  3. 急性糸球体腎炎:溶血性レンサ球菌が産生する毒素によって、2~4週間後に腎炎を発症する可能性があります。とびひの症状が治ってからも、数週間後に尿検査をします。

保育園や学校での感染対策|登園・登校しても大丈夫?

とびひは、学校保健安全法という法律のなかで、第三種学校感染症(その他の感染症)として扱われています。
ガーゼや包帯で症状のある部分をきちんと処置をして覆っているか、皮膚が乾燥している状態であれば、保育園や学校を休む必要はありません。
症状が広い範囲にある場合や、発熱などの症状がある場合は、医師に状態を判断してもらい、無理せずに休みましょう。

プールの水を介してとびひがうつることはありませんが、症状のある場所をかいてしまった手で他の人と接触してしまう危険があります。そのため、プールでの水遊びや水泳はお休みしましょう。
なお、米国小児科学会では治療開始から24時間以内までの隔離を推奨しています。

家庭での感染対策|家族にうつさないために気をつけること

とびひになってしまったときに家庭でできる感染対策には、以下のようなものが挙げられます。

  • 湯ぶねには入らずシャワーで全身を洗い、皮膚の清潔を保つ
  • 感染して症状がある部分を洗うときは、刺激しないように泡立てた石鹸でそっと洗う
  • 接触感染するため、タオルや衣服は共用しないようにする
    (洗濯した後の清潔なタオルは普通に使ってかまいません。)
  • 兄弟や姉妹がいる場合、感染した子どもはお風呂に入る順番を最後にする
  • 爪を短く切り、さらに皮膚を傷つけないように気をつける

「細菌」というと、消毒が効きそうに思えますが、とびひの原因となる細菌はバイオフィルムをもっていて、アルコールなどの消毒で壊すことはできません。症状がある部分には痛みをともなうため、消毒はしないようにしましょう。

※微生物の集合体。例として、歯垢が挙げられる

とびひの予防法

とびひを予防するポイントを5つご紹介します。

  1. 皮膚を清潔にしておく
    毎日シャワーを浴び、皮膚を清潔にしておくことは、皮膚のバリア機能を保つために重要です。特に、皮膚と皮膚が触れやすい場所(ひじの内側や脇の下など)は汗をかきやすく、汚れが溜まりやすいので注意するようにしましょう。肌を清潔にして皮膚のバリア機能を高めておくことは、とびひに限らず、皮膚の感染症全般の予防にもなります。
  2. 濡れた状態を避ける
    濡れた状態の皮膚はやわらかくなっていて、皮膚が傷つきやすい状態になっているため、細菌が侵入しやすい状態です。水遊びの後やお風呂上がりなどはきちんと水分を拭き取り、汗をかきやすい人は通気性、吸水性が高く乾燥しやすい衣類やシーツを使用しましょう。
  3. 爪を短く切る
    爪が伸びていると、かいたときに傷を作りやすくなってしまいます。普段から短く切っておき、伸びていないかこまめにチェックしましょう。
  4. 手をよく洗う
    細菌は手指から感染します。こまめな手洗いをして、手を清潔に保つことで、皮膚の感染症だけでなく、風邪やインフルエンザなどのあらゆる感染症の予防につながります。
  5. 保湿・日焼け対策をする
    アトピー性皮膚炎の子どもは手洗いの後やお風呂の後に、ワセリンやクリームで適切な保湿をしてあげることが必要です。また、日焼けによる刺激で起こるかゆみは、皮膚をひっかく原因になってしまうので、皮膚のバリア機能を維持するためにも、日焼け対策をしっかりと行いましょう。日焼け止めは、種類によっては刺激になる場合があるため、紫外線吸収剤不使用の日焼け止めがおすすめです。

※紫外線防止剤は、「紫外線吸収剤」と「紫外線散乱剤」の2種類に分類される。

「紫外線吸収剤」は、吸収剤そのものが紫外線を吸収し、肌への紫外線の影響を防ぐ。

例:メトキシケイヒ酸オクチル(あるいはメトキシケイヒ酸エチルヘキシル)、ジメチルPABA オクチル(あるいはジメチルPABA エチルヘキシル)、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタンなど

「紫外線散乱剤」は、主に粉体で、肌表面に受ける紫外線を乱反射させて、肌への紫外線の影響を防ぐ。

例:酸化亜鉛、酸化チタンなど

日本化粧品工業会ホームページ「紫外線防止剤」より

最後に

とびひは感染症ですが、ウイルス感染のように免疫によって体を防御することができないため、何度でも繰り返すことがあります。
本来、皮膚はバリア機能を保ち、細菌や汚れ、紫外線や乾燥などさまざまな外的要因から私たちの体を守ってくれていますが、日焼けやあせも、乾燥などの理由でバリア機能が低下すると、とびひを始めとした肌トラブルの原因になります。特に子どもは我慢できずにかいてしまうことがあるため、重要になってくるのは普段からのケアです。まずは、バリア機能を維持できるように、生活を整えること、皮膚を傷つけないことを意識していきましょう。

参考文献

・皮膚疾患ベスト治療 臨床決断の戦略・エビデンス 宮地 良樹 学研メディカル秀潤社
・皮膚疾患 最新の治療2019-2020 南江堂
・スキントラブルケアパーフェクトガイド 学研メディカル秀潤社