現代の日本は社会の24時間化により、都会だけでなく地方都市でも24時間眠らない“コンビニエンスストア”のような社会になってきています。人間が本来持っていた自然のリズムが崩れ、そこに大きなストレスが生まれています。
就寝時刻もバラバラで、眠りのリズムが失われている人が少なくありません。
現代人は果たして夜の何時に寝て、朝の何時に起きるのが理想なのでしょうか?
その答えを見つけるためにまず、睡眠のメカニズムを知ることが近道です。
健康な人の睡眠のパターンは、一晩の中で、レム睡眠とノンレム睡眠を約90分(1.5時間)1周期として、一晩に何度か繰り返しています。
脳波から見ると浅い眠り
「カラダの睡眠」とも言われる
脳は活発に働いているので夢を見る
脳波から見ると深い眠り
「脳の睡眠」とも言われる
Scammell TE et al. Neuron. 2017: 93(4): 747-65を参考に作成
通常、寝入りばなの約3時間(2周期)に深いノンレム睡眠がまとめて出現し、その後は少しずつ浅くなり、レム睡眠の時間が長くなってきます。深いノンレム睡眠が足りないと、睡眠時間は同じでも、脳の休息が不十分で、ぐっすり眠れた感じがしません。また、深いノンレム睡眠の時に盛んに成長ホルモンが分泌され、成長ホルモンにより睡眠中に成長とカラダの組織修復が促されています。
睡眠の大きな目的は、脳とカラダの疲れをとることです。この目的を達成するだけなら、疲れたときに眠ればいいという事になります。しかし、人は同じ時間眠るにしても、夜の暗い時間帯に眠るほうが良質の睡眠を得ることができます。これは「体内時計」が昼は活動して夜は眠るという生活のリズムをキープしているからです。その体内時計を調節し、眠りのリズムに重要な役割を果たしているのが「メラトニン」という物質です。
体内時計は、いわば寝つき時計で、朝起きて、朝日を浴びると寝つき時計がセットされ、眠る時刻までの秒読みが始まります。朝日を浴びてから約16時間後にメラトニンが分泌されて、眠りにつくようにセットされているのです。
寝る時刻によって起きる時刻が決まるのではなく、起きた時刻によって寝る時刻が決まります。
体内時計を正確に保ち、規則正しい睡眠生活を維持するためには、決まった時刻に寝るより、決まった時刻に起きることを重視すべきです。寝つき時計を朝の光でセットする習慣の獲得が大切なのです。
平日が忙しいので週末に寝だめする、という人も多いかもしれません。土曜日はお昼まで寝てその日は夜更かしし、日曜の朝ものんびり過ごす・・・週末まとめて寝たのに、月曜日にいつもの時刻に起きようとすると疲れが抜けていなくてだるい、ということはありませんか?「寝だめ」というのは医学的には存在しません。疲れがとれるかどうかは睡眠の質(深い睡眠)にかかわることで、長く寝るほど効果があるというわけでもありません。むしろそういった習慣は体内時計のリズムを乱してしまいます。休日でも決まった時刻に起きて朝の光を浴びることが大事です。
「せっかく寝坊できるのに…」という人は以下のようなことを心がけましょう。
こうすれば体内時計を大きく乱すことなく、日頃の寝不足も解消できます。月曜日からも生き生きと活動することができるのです。
仕事上などの理由で規則正しい睡眠がとれない人はどうすればいいでしょうか?
そのような人は以下のようなことを心がけましょう。
3時間では睡眠が不足してはいますが、基本的な睡眠リズムは保たれるので、日中のだるさや眠気もある程度は抑えることができます。深夜の仕事に従事している人には無理な時間帯かもしれませんが、そうでない人はトライしてみる価値はあるでしょう。
「食事・運動習慣」を心がけるように、ぜひ意識して体内時計を上手にコントロールし、よい「睡眠習慣」を獲得しましょう。適切な睡眠時間は人それぞれです。単に十分な長さの睡眠をとるだけでなく、夜の適切な時間帯にぐっすり眠れるような睡眠習慣を改めて身につけましょう。
リズムを失いがちな現代人。睡眠習慣の改善がなかなか出来ず、眠れない…そんな人は一人で悩むよりも医師に相談してみましょう。不眠はこじれる前に治療を始めることが大切です。