監修
中村 真樹 先生 (青山・表参道 睡眠ストレスクリニック 院長)
メラトニンは、主に脳の松果体(しょうかたい)※で分泌されるホルモンです。働きの一つとして、睡眠・覚醒リズムやホルモン分泌リズムなどの概日リズム(サーカディアンリズム)を調整する役割が挙げられます。
またメラトニンは人間を含む霊長類の他、鳥類やげっ歯類(ネズミ、リスなど)といった多くの動物で作られ、繁殖や渡り鳥の飛来などの季節性リズムにも関与しています。
※松果体:脳に存在する小さな内分泌器官
メラトニンには自然な眠りを促す効果の他に、抗酸化作用によって細胞の新陳代謝を促す効果もあります。さらに昨今の研究では免疫機能を向上する効果、がんや頭痛を予防する効果などさまざまな可能性がわかってきています。
以下では、メラトニンがもたらす主な効果について見ていきましょう。

メラトニンは、体内時計を調整する作用のあるホルモンです。覚醒と睡眠を切り替え、自然な睡眠を促す作用があるため、「睡眠ホルモン」とも呼ばれています。
体内時計とは、生物時計とも呼ばれ、24時間周期である地球の昼夜変化に同調できるよう、人間の生体リズムをコントロールしています。
メラトニンの分泌は、目から入る光刺激によって調節されており、夜になるとメラトニンの分泌が高まって自然な睡眠を促進し、入眠後、分泌量は減少し、朝、目覚めたときに明るい光を浴びるとその分泌がリセットされ、約14~16時間後に分泌が再開されることで、睡眠と覚醒のリズムを調節しています。
しっかり睡眠を取るためには、メラトニンを適切なタイミングで分泌させることが欠かせません。
メラトニンは、一般的に睡眠に関するホルモンとして知られていますが、実は強力な抗酸化作用を示すことも明らかになっています。
抗酸化とは、体内で活性酸素が増えすぎないように産生を抑制したり、生じたダメージの修復・再生を促したりする作用のことです。活性酸素は細胞内での情報伝達や免疫機能を調整する役割を持っています。しかし、活性酸素が過剰に作られてしまうと、細胞を酸化させ(さび付かせ)、心血管疾患やがん、糖尿病などをもたらす他、老化や免疫機能の低下を引き起こすことがあるのです。
メラトニンは、フリーラジカルなどの活性酸素を除去する抗酸化作用を持っています。また、メラトニンが活性酸素を除去する際には、強力な抗酸化作用を持つ代謝産物が生成されます。このメラトニンの作用により、DNAや脂質、細胞膜成分などの酸化による損傷を防ぎ、細胞の修復や新陳代謝を助ける働きが期待できるのです。
同じく抗酸化作用を持つビタミンCとあわせて摂取することで、相乗的に酸化ダメージを軽減する効果が期待できます。
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メラトニンの研究では、免疫機能を上げる、がんを予防する、頭痛を予防するといったさまざまな効果が示唆されています。
期待できる主な効果や研究内容について、以下の表にまとめました。
| 期待できる効果 | 研究報告内容 |
|---|---|
| 免疫機能の向上 | メラトニンは免疫が抑制された状態では、免疫を刺激し、活性化させたという報告があります。 |
| がんの予防 | 食事からのメラトニン摂取とがんの関連性を調べた研究では、摂取量が多い人ほど肝がんのリスクが低かったというデータが報告されています。 |
| 頭痛の予防 | 頭痛とメラトニン摂取の関連性を調べた米国の研究では、メラトニンが片頭痛の頻度や症状を和らげる可能性が示唆されました。 ただし、用量や副作用については研究の余地があるとされています。 |
| 糖尿病の予防 | メラトニンと糖代謝に関する研究では、ヒトの糖尿病に近い状態を再現したラット(糖尿病モデル動物)において、メラトニンがインスリン作用を高め、糖の取り込みを促進したと報告されています。 ヒトにおいても血中メラトニン濃度が低い、また減少している状態では代謝異常や2型糖尿病のリスクが高まるとされており、メラトニンと糖尿病の関連性が示唆されている段階です。 |
上記のように、メラトニンには概日リズムを調整する作用や抗酸化作用のみならず、さまざまな効果が期待されています。

メラトニンの生成には、セロトニンが深く関与しています。セロトニンとは、主に精神を安定させる働きを持つ神経伝達物質です。必須アミノ酸のトリプトファンを原料(基質)として体内で合成され、日中に太陽光を浴びることで分泌が活発になります。
日中に生成されたセロトニンは、夜間になると酵素の働きによってメラトニンへと変換され、自然な眠りを促します。反対に、日中の光刺激が不足するとセロトニンの分泌量も減り、夜間のメラトニン分泌も低下するため注意が必要です。
【プチメモ】睡眠ホルモンと食後の眠気
睡眠ホルモンとも呼ばれるメラトニンは、夜になると分泌が増えて体内時計を夜のリズムへ切り替える働きを持っています。そのため「食後に眠くなるのもメラトニンの影響?」と疑問に思う人もいるかもしれません。
しかし、日中の明るい時間帯にはメラトニンの分泌はほとんど抑えられており、昼間の食後の眠気に直接関与している可能性は低いと考えられます。
一方で、覚醒を維持する神経伝達物質として「オレキシン」が知られています。オレキシンは日本人研究者グループによって発見されました。このオレキシンには日中の覚醒状態を保つ働きがあり、メラトニンとは逆に、昼間の活動を支える役割を担っています。
食後の眠気については、血糖値の変化などが関係していると考えられていますが、詳しいメカニズムはまだ完全には解明されていません。
睡眠には免疫機能の維持や疲労回復、ストレス解消、記憶の定着・整理などの役割があり、私たちの生活や健康にとって欠かせない活動です。質の高い睡眠のためには、メラトニンの分泌を促すことがカギです。
以下では、メラトニン分泌に役立つ生活習慣について詳しく解説します。

メラトニンの自然な分泌を促すには、眠りたい時間の14~16時間前に起きるようにしましょう。朝日を浴びると体内時計がリセットされ、その14~16時間後にメラトニンの分泌が起こります。例えば23時に眠りたい場合は7~9時の起床、22時に眠りたい場合は6~8時の起床が目安です。
また、起床時刻を安定させることで就寝時刻と眠気のタイミングがズレにくくなります。休日にまとめて長時間眠ることは避け、平日と大きく変わらない起床時刻を保つことを推奨します。
朝に光を浴びることで、メラトニンの原料となるセロトニンの分泌が促進され、夜の自然な入眠が起こりやすくなります。
夜に眠れない場合は、朝決まった時間に起き、朝日を浴びることを心がけましょう。
合わせて、日中に1,000ルクス(直射日光の当たらない建物の影や木陰の明るさくらい)以上の光を浴びることによって、体内時計が調整され、夜間のメラトニン分泌量が増加することもわかっています。一般的な室内照明の光は300~500ルクス程度であるため、こまめに外を歩いたりカーテンを開けたりして意識的に明るい光を浴びることがポイントです。
一方で、就寝前にはメラトニンの分泌が促されるため、夜間に人工照明やスマートフォンの光を長時間浴びることは避けるようにしましょう。寝る1~2時間前には部屋の照明を暗くする、寝室にスマートフォンやタブレット端末を持ち込まない、といった工夫が必要です。

メラトニンの自然な分泌を促すためには、朝日を浴びることと同じくらい、朝食を取ることも大切です。起床後1時間以内には朝食を取るように習慣化しましょう。
朝食を取らないと体内時計の調整がうまくいかず、遅寝・遅起き化しかねません。さらに朝寝坊によって朝食の欠食が増え、遅寝・遅起きの生活リズムを助長する原因になってしまいます。朝食を抜くことで睡眠休養感が低下するという報告もあるため、起床から1時間以内に朝食を取るよう習慣化しましょう。
メラトニンは、必須アミノ酸であるトリプトファンからセロトニンを経て生成されるため、材料となる栄養素を摂取することも大切です。トリプトファンは、肉類や魚類、乳製品、大豆製品、ナッツ類、バナナなどに多く含まれています。
また、メラトニン生成の際に、ビタミンB6、マグネシウム、ナイアシン(ニコチン酸アミド・ニコチン酸)などが補酵素(酵素の働きを助ける成分)として関与しています。不足するとメラトニンの生成がスムーズに進みにくくなるため、これらの栄養素を十分に摂取することも重要です。
それぞれの栄養素が含まれる食材の例は、以下の通りです。
・ビタミンB6:マグロや鶏ささみ、バナナ
・マグネシウム:ナッツ類、豆類、海藻類
・ナイアシン:肉、魚、きのこ類
なお、ビタミンB群は水溶性の栄養素であるため、毎日の食事から継続的に補う必要があります。もしも普段の食事だけで十分に補えないという場合は、医薬品やサプリメントなどで補給するのも選択肢の一つです。
【プチメモ】睡眠の重要性
睡眠には免疫機能の維持や疲労回復、ストレス解消、記憶の定着・整理などの役割があり、私たちが生きていくうえで欠かせない生命活動です。また、日中の活動でダメージを受けた細胞などを修復させる作用もあります。
睡眠不足は、日中の眠気や疲労感に加え、頭痛や自律神経の乱れ、免疫力の低下などさまざまな症状を引き起こします。海外の調査によれば糖尿病や⼼⾎管疾患、脳卒中など疾患のリスクが上昇することもわかっています。
睡眠の改善を目指す場合、質を高めることはもちろん、十分な睡眠時間の確保や、寝るタイミングを安定させることも重要です。日頃からしっかりと栄養を摂り、日中に適度な運動を行い、毎日十分な量の睡眠を取ることが、より良い生活につながるといえます。
寝つきの悪さや目覚めの悪さ、起床時の疲労感などに悩まされている場合、そういった症状を改善する栄養ドリンクやビタミン剤などを活用するのも一つの方法です。
届出表示:本品にはユーグレナグラシリス由来パラミロン(β-1, 3-グルカンとして)を含みます。ユーグレナグラシリス由来パラミロン(β-1, 3-グルカンとして)には、睡眠の質(眠りの深さ、すっきりとした目覚め)を改善し、起床時の疲労感を軽減する機能、作業時の一時的なストレス(イライラ感、緊張感)を緩和する機能が報告されています。
メラトニンは体内時計に基づいて夜間に分泌されますが、生活習慣によって分泌リズムが乱れることがあります。

特に、以下の行動はできるだけ避けるよう意識することが望ましいといえます。
・夜間のスマートフォンやパソコン、タブレットの操作
・夕方以降のカフェイン摂取
・就寝前の喫煙やアルコール摂取
・就寝前1時間以内の激しい運動
・遅い夕食や夜食、間食
海外では、メラトニンが含まれるサプリメントが販売されているケースもあります。
しかし、日本においては、メラトニンは医薬品成分に分類されるため、サプリメントとしての販売は認められていません。傾眠(軽度の意識障害)や頭痛、肝機能の検査値上昇といった副作用も報告されており、購入や個人輸入などは推奨できません。
ただし、メラトニンの受容体に作用する医薬品は日本でも取り扱われており、睡眠障害などを改善する目的で、医師の診断のもと処方される場合があります。
メラトニンの分泌量は加齢とともに減少することがわかっています。高齢の方は夜間のメラトニン分泌が低下し、入眠困難や中途覚醒などの睡眠リズムが乱れやすくなる傾向にあります。
ただし加齢による変化は個人差が大きく、生活習慣の見直しによって改善が期待できることもあります。
メラトニンは、睡眠と覚醒のリズムを整えるうえで欠かせないホルモンです。夜になると自然に分泌が高まり、朝の光によってリセットされるという体内時計のリズムに従って働いています。一方で、夜間の強い光刺激や不規則な生活、夜間のカフェインやアルコール、喫煙によって分泌が抑えられ、睡眠の質が低下することがあります。
メラトニンをしっかり分泌させるためには、起床や就寝の時刻を一定に保ち、朝の光を浴びて体内時計をリセットすることが大切です。また、セロトニンの材料となるトリプトファンや、それを代謝する際に必要なビタミンB6、マグネシウム、ナイアシンなどの栄養素をバランス良く摂るよう心がけましょう。すぐに食生活を変えるのが難しい場合は、医薬品やサプリメントでこれらの栄養素を取り入れるのも一つの方法です。
参考文献
厚生労働省「メラトニン(めらとにん)」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-062
厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
https://www.dietitian.or.jp/trends/upload/data/342_Guide.pdf