レム睡眠とノンレム睡眠とは?違いや睡眠のサイクルを知ってより良い睡眠につなげよう

レム睡眠とノンレム睡眠とは?違いや睡眠のサイクルを知ってより良い睡眠につなげよう

忙しい日々の中で、質の高い睡眠を取ることは健康維持の鍵となります。特にレム睡眠とノンレム睡眠について理解することは、理想的な睡眠サイクルを築くうえで欠かせません。本記事ではレム睡眠とノンレム睡眠それぞれの特徴や役割、質の良い睡眠を確保するための具体的な方法について紹介します。健康維持や生活の質向上のために、理想的な睡眠サイクルを築きましょう。
中村 真樹 先生

監修

中村 真樹 先生 (青山・表参道睡眠ストレスクリニック 院長)

レム睡眠、ノンレム睡眠とは?どんな違いがある?

レム睡眠・ノンレム睡眠を簡単に説明すると、眠りについた後に最初に現れる睡眠ステージがノンレム睡眠、ノンレム睡眠に続いて現れるステージがレム睡眠です。ノンレム睡眠は「脳と体を休める睡眠」、レム睡眠は「体を休める睡眠」ともいわれています。

レム・ノンレムという言葉の意味

レム睡眠の「レム」を英語で書くと「REM」です。これは「Rapid Eye Movement」の頭文字で、日本語にすると「急速眼球運動」という意味。実際、レム睡眠中の人を観察すると、眼球が素早く動いていることがわかります。
一方、ノンレム睡眠の「ノンレム」は、「REM」の前にそれを否定する「non-」をつけた「non-REM」。つまり、レム睡眠以外のすべての睡眠がノンレム睡眠に該当します。またノンレム睡眠は、睡眠の深さから、ステージ1(最も浅い睡眠)~ステージ3(最も深い睡眠)の3段階に分けることができます。

レム睡眠とノンレム睡眠で構成される「睡眠単位」

眠りに入るとまず、ノンレム睡眠のステージ1となり、次にノンレム睡眠のステージ2、ステージ3と進んで徐々に深い睡眠となります。そしてその後は、ステージ2、ステージ1と、逆に浅い睡眠となっていき、その次に最初のレム睡眠が訪れます。
ひと晩の睡眠中には、これらノンレム睡眠とレム睡眠が一対になった「睡眠単位」が、36回繰り返されます。1回の睡眠単位は通常90120分周期で、睡眠の後半、つまり朝が近づくに従いレム睡眠が増え、反対にノンレム睡眠のステージ3やステージ2という深い睡眠が減っていきます。

なぜ、睡眠にこのようなステージがあるのかという理由は十分にわかっていませんが、ノンレム睡眠には、脳と体の休息やメンテナンス、疲労の回復、風邪などの感染症に対する抵抗力の維持・免疫力の回復、ストレスからの回復、記憶の定着などの役割があると考えられています。

なお、レム睡眠は浅い睡眠といわれることもありますが、実際には「睡眠の深さ」という尺度で特徴づけることのできない睡眠です。また、目覚めるために必要な刺激の強度で睡眠の深さを測定した場合、レム睡眠であってもそれなりに強い刺激が必要であり、その点でも「レム睡眠=最も浅い睡眠」と表現することは正しくないことがわかります。レム睡眠とノンレム睡眠を一言で表現するのは難しいですが、ともに、健康維持のため脳にも体にも重要な睡眠なのです。

レム睡眠ノンレム睡眠それぞれの特徴

レム睡眠とノンレム睡眠の特徴について、まずは入眠時に先に現れるノンレム睡眠から解説します。

ノンレム睡眠の特徴

ノンレム睡眠は“脳の睡眠”で、副交感神経が優位

ノンレム睡眠中に脳波を測定すると、起きているときと大きく異なり、眠りが深くなるにつれて振幅が大きく、波長が長い(ゆったりしている)脳波が出現するという特徴がみられます。このような特徴のある脳波は、脳が休息していることを意味しているのではないかと考えられています。

また、ノンレム睡眠中には脳脊髄液(脳と脳からつながっている中枢神経のある脊髄を保護する透明な液体)を利用して、脳の活動で発生した老廃物を除去する作業が行われています。「睡眠がなぜ必要なのか」という根本的な疑問には、いまだ明快な答えがみつかっていないのですが、ノンレム睡眠中に行われるこのような脳のメンテナンスが、睡眠の最も重要な役割の一つではないかとする説もあります。
ノンレム睡眠のこの他の特徴として、自律神経のうちの副交感神経が優位になることも挙げられます。自律神経には、心身を活発にする交感神経と、その反対に心身をリラックスさせる副交感神経があって、ノンレム睡眠中には後者が優位になることから、血圧や心拍数、呼吸数が低下します。

成長ホルモンの分泌にとって最初のノンレム睡眠が大切

入眠後、最初に現れるノンレム睡眠の深いステージでは、成長ホルモンが大量に分泌されます。
成長ホルモンは、子どもの成長だけでなく、成人の細胞の修復やタンパク質の合成においても、重要な役割を担っています。より身近な例を挙げれば、疲労回復や肌のターンオーバーにも関係しています。そのため、入眠後に最初の睡眠単位となる睡眠が妨げられないようにして、深いノンレム睡眠をしっかり取ることが大切です。

なお、「成長ホルモンの分泌のピークは22~2時ごろ」と話題になったことがありますがこれは誤解で、正確な表現は前述のように「入眠後の最初のノンレム睡眠時」です。

年齢とともに深いノンレム睡眠が減っていく

「歳を取ってから、よく眠れなくなった」とおっしゃる方が少なくありませんが、実際、歳を重ねるにつれて、深いノンレム睡眠の割合が減っていくことがわかっています。また、睡眠の導入に関わる「メラトニン」というホルモンの分泌も、高齢になると少なくなります。この他にも、歳のために日中の身体活動量が減ることなども、高齢者の夜間の睡眠が浅くなりがちな理由として挙げられます。
なお、ノンレム睡眠のなかでも最も深い睡眠であるステージ3は、脳波の振幅が大きくなる一方、周波数は低くなることから「徐波睡眠(深いノンレム睡眠)」とも呼ばれます。睡眠の前半でこの徐波睡眠をしっかり取ることが、睡眠の質にとってとても重要です。

レム睡眠の特徴

レム睡眠は“体の睡眠”で、交感神経が優位

レム睡眠中の脳波は、起きているときに似ていて活発で、脳の領域によっては起きているときよりもさらに活発な脳波が観察されます。また、脳の血流が豊富になっていることも、レム睡眠中に脳が活動していることを裏付けています。

また、自律神経との関連では、ノンレム睡眠では副交感神経が優位であるのに対して、レム睡眠では自律神経のバランスが不規則に変化して、交感神経が優位になったりそうでなくなったりします。そのため、レム睡眠を「自律神経の嵐」と呼ぶこともあります。全般的にレム睡眠中は血圧が高く、心拍や呼吸は速くなりがちで、かつ、それらが不規則に変化します。

このようなレム睡眠は、明け方(起床時刻)が近づくにつれて増えていきます。レム睡眠になったタイミングで目が覚めると、夢の記憶が残ることが多いですが、気にせず、すぐに日常生活に気を向けると、夢の記憶は消えてしまう事が多いです。なお、多忙などのために睡眠時間を削った場合、明け方に出現するはずのレム睡眠が減ってしまうことがあります。

なお、最近、米国で行われた大規模な研究では、レム睡眠が1%増えると心房細動(脳卒中を引き起こすこともある不整脈)のオッズ比(OR0.86と低くなることが明らかにされました。また、深い睡眠の割合が高いほど心房細動(OR0.87)、大うつ病(OR0.93)、不安症(OR0.94)を発症する人が少ないことが示されています。さらに、レム睡眠が1%減少すると認知症のリスクが9%増加するという報告もあります。

※対象となる病気を持つ人のうち、その病気や症状を持たない人と比べてどれくらいの人にその病気の原因があるかをあらわす指標

レム睡眠中は感情をともなう夢を見る

少し前まで、「夢を見ること」がレム睡眠の特徴の一つと位置づけられていました。ただし近年では、レム睡眠だけでなくノンレム睡眠中にも夢を見ることがわかってきています。とはいえ、ノンレム睡眠中に見る夢はぼんやりとしてとりとめのないものが多く、それに対してレム睡眠中の夢はストーリーがあり、感情をともなう夢が多いという差があります。
なお、レム睡眠のときは筋肉が弛緩して(力が入らない状態になって)いて体を動かせません。このことは、夢の内容に応じて体が動き出し危険な行動をとってしまうことの予防になっていると考えられています。

レム睡眠中に「レム」(急速眼球運動)が起きる理由

そもそもレム睡眠は、冒頭で述べたように急速眼球運動(Rapid Eye Movement;REM)が観察されることから、名づけられた睡眠ステージです。それにもかかわらず、この急速眼球運動がなぜ起きるのかが、いまだにわかっていません。一説では、見ている夢の映像の動きを追尾しているのではないか、といわれています。

レム睡眠とノンレム睡眠のサイクルが崩れるとどうなる?

ノンレム睡眠とレム睡眠が乱れることによる睡眠障害

レム睡眠中にはしばしば、ストーリーがあって感情の変化をともなう夢を見ます。このとき、レム睡眠中は全身の筋肉が弛緩しているおかげで、夢の内容に反応して体が動いてしまうようなことはありません。
ところが、「レム睡眠時行動障害」という名前の睡眠障害があり、これは、レム睡眠中にもかかわらず筋肉が弛緩しないことによって起こるものです。夢の内容にあわせて、暴れたり声を出してしまうため、寝ぼけて怪我をしてしまう危険性もあります。

レム睡眠中は、筋肉は弛緩しているため体は動かせない状態ですが、レム睡眠のときに目が覚めたにも関わらず、筋肉が弛緩したままになっているのが「睡眠麻痺」で、これは一般的に「金縛り」と呼ばれています。

【プチメモ】乖離したレム睡眠によって起こる金縛り

金縛りは、医学的に「睡眠麻痺」と呼ばれています。金縛りと同時に「幽霊に見つめられた」、または「幽霊が胸に乗ってきて息ができなくなった」といった体験談などがよく語られるようですが、もちろん心霊現象ではなく、夢を見ているレム睡眠のときに覚醒したことで夢と現実が混乱しやすいために「幽霊が見えた」と感じ、同時に「睡眠麻痺」のために体が動かないため「幽霊が胸に乗ってきた」という錯覚を起こしたものと考えられています。

レム睡眠中のため、筋肉は弛緩し体に力が入らない状態で、脳だけが突然、覚醒に近い状態になったとき、つまり、筋肉と脳の状態が「乖離」したとき、金縛りと呼ばれる現象が起こります。入眠後には通常、ノンレム睡眠になるのですが、入眠直後にレム睡眠が発生した場合、あるいは起床間際のレム睡眠が増える時間帯が、このような「乖離」が発生しやすいタイミングです。生活習慣が乱れていたりすると、このような状態になりやすいことが知られています。

もし金縛りにあってしまったら、あせらずに深呼吸をして完全な覚醒を待つか、そのままもう一度眠ってしまうまでリラックスしながら過ごすと良いでしょう。

<金縛りの予防策などもっと詳しく知りたい方はこちらをチェック>
金縛りが起こる原因は?仕組みや解き方・予防法、睡眠環境と睡眠の質を整える生活習慣について解説

レム睡眠とノンレム睡眠のバランスはどのくらい?

睡眠不足になると、まずレム睡眠の割合が低下することが知られています。レム睡眠が減ると、レム睡眠中に本来なされるはずの記憶の整理・重みづけ作業が十分でなくなる可能性があります。また、感情のコントロールをしにくくなったり、認知機能が低下したりするなどの影響が生じると考えられています。

睡眠時間に占めるレム睡眠の割合は、赤ちゃんや子どもの時期は多く、成長とともに減っていきます。赤ちゃんの夜泣きは、大人よりレム睡眠が多いことが関係していると考えられています。成人になるとレム睡眠の割合は2割程度で、高齢期に入るとまたレム睡眠の割合が増えてきます。

レム睡眠とノンレム睡眠のバランスを保つためにできること

十分な睡眠時間を確保する

ノンレム睡眠とレム睡眠は、どちらか一方を確保すれば良いというものではなく、両方の睡眠ステージをしっかり取る必要があります。そのためには、全体の睡眠時間自体を、十分に確保する必要があります。
最適な睡眠時間は年齢などにより個人差がありますが、日中に眠気を感じずに快活に過ごすことができているかどうかが、睡眠が足りているかいないかを判断する一つの目安となります。

なお、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」では、成人向けの推奨として「適正な睡眠時間には個人差があるが、6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する」、高齢者向けの推奨として「長い床上時間(眠っているか否かにかかわらず、ふとんやベッドの上にいる時間)が健康リスクとなるため、床上時間が8時間以上にならないことを目安に、必要な睡眠時間を確保する」と書かれています。

質の良い睡眠を得るための準備をする

睡眠環境を整える

良い睡眠を得るためには、環境を整えることが大切です。なるべく静かで照明のない環境にして、リラックスできる寝衣・寝具で眠ることが良い睡眠につながります。また、気温や湿度を確認し、エアコンなどを利用して自分が快適に眠れる環境に近づけるようにしましょう。

情報機器が発するブルーライトが、睡眠の妨げとなる可能性が指摘されています。対策として、ベッドやふとんから手の届く範囲にスマートフォンなどを置かず、寝る前に使わないようにしましょう。

この他、就寝の約1~2時間前に入浴してリラックスした後、上昇した体温が下がってくるときに床に入ると、眠りにつきやすくなることが知られています。日中に適度な運動を行って、ある程度の疲労感をためておくことも、寝つきやすさにつながります。

毎日同じ時間に起床、就寝する

眠りのリズムをコントロールする脳内物質がメラトニンですが、十分な睡眠時間を確保して目覚めたときに光を浴びると、その14~16時間ほど経ってからメラトニンが分泌されはじめ、その2時間後あたりに自然な眠気が生じます。つまり、0時頃に入眠し7時頃に起床し朝日を浴びると、その14~16時間後、つまり21~23時頃からメラトニンが増えはじめ、0時頃に眠気が生じます。一方、夕方以降に強い光を浴びてしまうとその後のメラトニンの分泌が抑えられてしまうため、夜になってもメラトニンが十分に分泌されていないために深夜になっても眠気が生じず、眠りのリズムが後退(夜ふかし)する原因になります。
また、睡眠の時間帯が不規則な生活では、このメラトニンの分泌のリズムが乱れてしまうことで睡眠が妨げられてしまい、レム睡眠とノンレム睡眠のバランスが崩れやすくなる可能性があります。

<メラトニンについて詳しく知りたい方はこちらの記事をチェック>
体内時計を調節するホルモン、メラトニン

食事から体内時計を調整する

起床後に日光を浴びることと同様に、朝食を取ることも体内時計の調整に役立ちます。反対に、朝食を食べないと、体内時計がずれて時差ボケを作り出し、寝つきが悪くなったり、集中力や作業効率が低下したりすることが報告されています。また、就寝間際に夜食を取るような習慣も、朝食の欠食と同じように体内時計が乱れてしまいます。

<体内時計について詳しく知りたい方はこちらの記事をチェック>
体内時計と睡眠のしくみ | 体内時計とは?
自分の体内時計わかっていますか?

摂取するものに気を配る

睡眠を邪魔する成分として、カフェインが該当することはご存じのとおりです。カフェインの影響力の大きさは人それぞれですが、どんな人でも夕方以降はコーヒー、緑茶、カフェイン含有エナジードリンクなどを控えたほうが良いでしょう。また、アルコールは寝つきをよくすることがあるものの、眠りを浅くするので中途覚醒が増えて、睡眠の質が低下してしまいます。

一方、質の良い睡眠に関与する栄養素として、グリシンやトリプトファンなどが挙げられます。グリシンはアミノ酸(タンパク質を構成している成分)の一種で、食品としてはカジキマグロ、ホタテ、エビなどに多く含まれています。トリプトファンは、精神を安定させる働きがある「セロトニン」の合成に必要な必須アミノ酸(体内で合成できないため食品からの摂取が欠かせないアミノ酸)です。食品としては、魚介類や鶏肉、卵、大豆製品、ゴマなどに多く含まれています。
また、セロトニンだけでなくメラトニンの合成や代謝にも関わるビタミンB6、マグネシウム、ナイアシン(ニコチン酸アミドとニコチン酸の総称)なども意識して摂取するようにしましょう。

レム睡眠とノンレム睡眠はどちらも大切な睡眠ステージ

睡眠中に急速眼球運動(REM)が起きるという発見から名づけられた「レム睡眠」。そして、急速眼球運動が起きない「ノンレム睡眠」。その違いは、単に急速眼球運動が起きるか起きないかの違いではないことを、おわかりいただけたのではないでしょうか。睡眠についてはまだわかっていないことがたくさんありますが、レム睡眠とノンレム睡眠がともに大切な睡眠であることも、既にわかっている重要なことの一つです。

レム睡眠とノンレム睡眠のサイクルが正常に現れ、深い睡眠を得るためには、紹介した内容の他に日中の適度な運動や栄養バランスの取れた食事に気をつける必要もあります。栄養バランスを考えて、私たちのエネルギー源となる炭水化物(糖質)、タンパク質、脂質といった三大栄養素、ビタミンやミネラルなども含む五大栄養素を意識した食事を取るようにしましょう。前述の通り、睡眠にとって必要な、セロトニンやメラトニンの合成や代謝に関わるビタミンB6、マグネシウム、ナイアシン(ニコチン酸アミドとニコチン酸の総称)なども重要です。その他、糖質からエネルギーをつくる際に必要なビタミンB₁も意識して摂れるとなお良いでしょう。

基本的な生活習慣に留意しつつ、適切な睡眠時間を確保し、質の高い睡眠を取れるようにしていきたいものですね。

参考文献

  • 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」