手のしびれ
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手のしびれ

しびれとは「ビリビリする」「ジンジンして動かない」といった感覚の異常のことです。手のしびれは、痛みや不快感を引き起こすうえ、仕事や家事などの作業がしづらくなるなど、つらさをもたらすこともあります。ここでは手のしびれが起こるメカニズムや、しびれをともなう疾患(病気)について専門医監修のもとに解説。しびれを緩和する方法も併せてご紹介します。

手塚 正樹 先生

監修

手塚 正樹 先生 (高砂慶友整形外科 院長)

手のしびれの原因は血行の悪化や神経の圧迫などが考えられる

日常生活での一時的な手のしびれの原因として、まず考えられるのは、無理な姿勢をとることです。例えば一日中、猫背や前かがみなど、体に負担のかかる姿勢をとり続けていると、手にしびれが生じることがあります。しびれが一時的なもので、姿勢を正すことですぐに症状が改善するようであれば、心配はいらないでしょう。

また、手術を受けた直後は、麻酔の影響で手にしびれが生じることがあったり、服薬中の薬の副作用や病気(疾患)の影響でしびれたりすることもあります。病気を原因とする手のしびれについては、後ほど詳しく解説します。

血行の悪化

手足の血管が圧迫され血液の流れが悪くなることでも、しびれや痛みが起こります。朝起きたとき、体の下側になった手がしびれたり、正座をした後に足がしびれたりするのは、これにあたります。一時的な血流の妨げによるもので、すぐにしびれが治るようであれば、とくに心配はいりません。

神経の圧迫

長年の神経の酷使や加齢の影響などによって、神経の通っている管(くだ)が細くなったり、背中の骨が変形したりして神経が圧迫され、しびれや痛みとなって現れることもあります。とくに背骨の変形(異常)が神経を圧迫することによって生じるしびれは、日常的に起こるしびれの中で、最も多い原因の一つといわれています。

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ビタミン不足

ビタミンB1が不足するとエネルギーが不足し、脳や神経に障害を起こすことがあります。ひどくなると脚気(かっけ)になり、しびれの症状が生じることも。また、ビタミンB12の欠乏により、脳と脊髄の神経線維が集合している白質や、末梢神経に障害が起こり、しびれの症状が出ることも考えられます。

手のしびれに加えて痛みや麻痺などをともなう場合に考えられる病気(疾患)

※以下の疾患は、医師の診断が必要です。 下記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

糖尿病性神経症

糖尿病は、すい臓でつくられるインスリンの分泌量や働きが低下し、血糖値が慢性的に高くなることにより、体にさまざまな悪影響が生じる生活習慣病です。悪影響の中には長期間、血糖値の高い状態が続くことで運動神経・知覚神経系が損なわれ、手足の先にしびれや痛みが起こるものがあり、それを糖尿病性神経症といいます。症状が進行すると足の筋肉が萎縮して力が入らなくなったり、顔面神経麻痺が起きたりすることもあります。

手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)

手首にあり、手や指の神経が収まっている管(くだ)のことを手根管(しゅこんかん)といいます。この管の内部に何らかの影響が生じ、詰まったり、神経が圧迫されたりして、手指にしびれや痛みが生じるのが手根管症候群の主な症状です。

はじめは人差し指と中指にしびれや痛みを感じる程度で、手を振ったり、指を曲げ伸ばしすると症状が改善することが多いです。しかし最終的には親指~薬指までにしびれが広がり、親指と人差し指とで丸(OKサイン)が作れなくなる神経麻痺が生じます。原因は不明ですが、妊娠・出産期や更年期の女性に多いという特徴があります。また、骨折などのケガの影響、仕事やスポーツで手を使う頻度が多い人、透析をしている人などにも生じやすいといわれています。

肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん)

加齢やスポーツの影響、子どものときの骨折などによる肘の変形、神経を固定している靱帯(じんたい)の硬化やガングリオン(※1)などの腫瘤(しゅりゅう)によって、肘の内側にある尺骨(しゃっこつ)神経が圧迫されたり、引っ張られたりして生じる神経の障害を、肘部管症候群といいます。

最初は小指と薬指の一部にしびれが生じ、その後、症状が進行していくと、手が麻痺したり、手の筋肉がやせて、小指と薬指がかぎ爪のように変形したりします。肘の内側を軽くたたいて、小指と薬指の一部にしびれた感じがすると、肘部管症候群の可能性があります。

(※1)なかにゼリー状の物質の詰まった腫瘤のこと

橈骨(とうこつ)神経麻痺

橈骨(とうこつ)神経とは、手首を反らしたり、指を伸ばしたりするときに働く神経です。この神経が、骨折などのケガ、ガングリオンによる圧迫、運動のしすぎなどで損なわれ、手首を反らせなくなったり、指を伸ばせなくなったりするのが、橈骨神経麻痺の主な症状です。親指と人差し指の間あたりにしびれが生じることもあります。「指が曲がるのに手首が反らせない、指が伸びない」という状態があれば、この病気の可能性が考えられます。

胸郭(きょうかく)出口症候群

鎖骨のあたりを走り、腕や手指に繋がる末梢神経の束や血管(動脈や静脈)が、胸郭の出口付近にあたる鎖骨と肋骨の間で圧迫され、肩や腕にしびれや痛み、血行障害が起こる疾患が、胸郭出口症候群です。

つり革につかまるときのように、腕を上げる動作をすると、手や肩の周囲にしびれや、ときには刺すような痛みが生じることがあります。なで肩の女性や、重いものを持ち運ぶことの多い人に上記のような症状があれば、胸郭出口症候群の可能性があります。

頚椎症(けいついしょう)

頚椎(けいつい)とは首のことです。頚椎の中には、脊髄(せきずい)という太い神経が走っています。加齢などにより、この頚椎の骨と骨をつなぐ椎間板がつぶれて椎間板組織が飛び出したり、椎骨の縁に骨の棘が生じたりして神経を圧迫し、肩や腕にしびれや痛みが起こる状態を「頚椎症」といいます。

頚椎症はさらに、脊髄そのものに障害が出ることで起こる「頚椎症性脊髄症」と、脊髄の枝・神経根(しんけいこん)の障害によって起こる「頚椎症性神経根症」とに分かれます。

頚椎症性脊髄症

頚椎症性脊髄症とは、加齢などによる頚椎の変化によって、頚椎の脊柱管(せきちゅうかん)内部を通る脊髄の前方部分が圧迫され、症状が出る疾患です。手足のしびれの他、ボタンの掛け外し、箸の使用、文字を書くことなどが難しくなる、歩くときに脚がもつれやすくなるなどの症状が現れます。日本人は脊柱管の大きさが欧米人と比較して小さいため、脊髄に影響が生じやすいといわれています。比較的若年層であれば、生じた異常を自覚しやすいですが、高齢者では気付くのが遅れてしまうケースがあります。

頚椎症性神経根症

頚椎症性神経根症とは脊髄症と同じく、加齢による頚椎の変化(頚椎症)によって、脊髄から左右に枝分かれする「神経根」という細い神経が圧迫されて、腕や手にしびれ、痛みなどの症状が生じる疾患です。例えば遠近両用眼鏡でパソコンの画面などを見るとき、無意識に首を反らせて見ることがありますが、そうした動きを長期にわたって続けると、頚椎症性神経根症を患うことがあります。

頚椎椎間板ヘルニア

ヘルニアとは、体の臓器の一部が本来あるべき場所からはみ出してしまう状態をいいます。頚椎の骨と骨とをつなぐ椎間板が、加齢などの影響でつぶれたり飛び出したり、硬くなった靱帯が神経や血管を圧迫したりするのが、頚椎椎間板ヘルニアです。肩や腕にしびれや痛みを引き起こす他、肩こりや頭痛を発症することもあります。

脳血管障害(脳卒中)

脳の血管が詰まることで血流が妨げられてしまう脳梗塞、脳の血管が破れて出血する脳出血、くも膜下出血を合わせて、脳血管障害といいます。突然起こることが多いですが、前触れとして頭痛、めまい、舌のもつれ、手足のしびれなどが生じることもあります。

※以上の疾患は、医師の診断が必要です。 下記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

軽い手のしびれはストレス発散やマッサージなどで対処、症状が長引く場合は病院へ

ストレス発散

しびれや痛みの症状は、ストレスなどの不安や心配ごとがあると悪化し、反対に心が穏やかなときには軽快する傾向があるといわれています。したがって、手にしびれを感じるときは、意識的に気分転換やストレス解消をすると良いでしょう。そうすることで、しびれの症状も改善されていくことが考えられます。

マッサージやストレッチなどで血流を改善

血流を改善すると、しびれの症状が緩和されることがあります。蒸しタオルなどを使って患部を直接温める他、マッサージをしたり、手のひらを開いたり閉じたりして動かしたり、ストレッチやウォーキングなどの運動をするのも、血流の改善に効果的です。自分の体調や体力に合わせた方法を選びましょう。

市販薬の活用

市販薬で、しびれの症状を軽減できることもあります。しびれへの効果が期待できる市販薬としては、神経の働きを助ける成分が配合されたビタミン剤(ビタミンB1B12補給)、血流を改善するビタミンEが配合されたもの、漢方薬などがあり、どの薬を選べば良いのかは、しびれの原因によっても異なります。薬剤師に相談して選ぶのが良いでしょう。

ただし、服用し続けても症状が思うように改善しない場合は、頚椎の変形、脳血管障害、糖尿病などの疾患が影響しているかもしれません。自己判断で薬の服用を続けず、医療機関を受診して、医師の診断を仰ぎましょう。

病院で診察を受ける

しびれが長引く場合や強い場合、または徐々に痛みが強くなるようなときは、医療機関を受診することが大切です。しびれが一時的なもので、すぐに症状が改善するようであれば、心配ないことが多いですが、そうでない場合は、思わぬ病気が隠れていることも考えられます。新規に受診される場合は整形外科や神経内科を、かかりつけ医がある方は、まず主治医に相談すると良いでしょう。

参考文献

  • 日本臨床内科医会 一般のみなさまへ(https://www.japha.jp/general/)
  • 日本整形外科学 一般の方へ(https://www.joa.or.jp/public/)
  • 日本脊髄外科学会 せぼねの病気とは(http://www.neurospine.jp/original.html)
  • 日本神経学会 脳神経内科について(https://www.neurology-jp.org/public/disease/index.html)
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)
  • 厚生労働省 eJIM(https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/index.html)