現代人の抱える悩みに!
「にんにく注射」に再注目


監修:矢澤 一良 先生(早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門(部門長))

疲労回復や滋養強壮などで知られる「にんにく注射」。以前はどちらかというと男性が利用する注射というイメージでしたが、最近はにんにく注射の美容効果も注目され、女性にも人気です。また、眼精疲労や腰痛、ストレス軽減など、忙しくストレスフルな現代人の悩みを解消することを目的に医療機関を訪れる人もいます。

もちろん、疲労や心身の不調は日頃からの栄養、休養、運動を軸としたセルフケアが大切ですが、どうしてもというときには医療機関にかかることもあるでしょう。

そこで、にんにく注射の成分や効果、副作用や気をつける点など、にんにく注射のさまざまな疑問にお答えします。

にんにく注射って知ってる?

「にんにく注射」という名前から、ニンニクがたっぷり入った注射と思われがちですが、実際に注射剤にニンニク自体が入っているわけではありません。にんにく注射は一般的に、ビタミンB1を含むビタミンB群を主成分とした注射剤を、静脈注射または点滴によって投与するものです。

ビタミンB群のほかにビタミンCやアミノ酸、ブドウ糖など、目的に応じて、医療機関が独自に栄養成分を配合しているケースもありますが、共通しているのは「フルスルチアミン」をはじめとしたビタミンB1を25~100mg程度配合していることです。

フルスルチアミンはビタミンB1の構造を改良して腸から吸収しやすい形(これを誘導体といいます)にしたものです。このビタミンB1誘導体は、ビタミンB1にニンニクの主成分であるアリシンが結合した構造をしており、ニンニクを食べたときと同じようなニオイがします。そのため、「にんにく注射」という名前がついたとも言われています。

ビタミンB群などの栄養成分を注射器でダイレクトに血管の中に入れるため、にんにく注射を打てるのはクリニックなどの医療機関だけです。総合クリニックや内科、整形外科、美容皮膚科や美容外科などの美容クリニックでもにんにく注射を打てます。ただし保険適用外のため、どの医療機関でも自由診療扱いで、料金はすべて自己負担です。

注射1回あたりの料金は、安いところでは千円台のところから、高いところでは数千円と、幅があります。注射剤にブレンドした栄養成分の内容や量により、料金が違ってくるようです。

実はビタミンB1は、人の健康に欠かせない栄養素であり、欠乏すると脚気やウェルニッケ脳症※※などビタミンB1欠乏症につながってしまいます。そのような欠乏症が疑われる場合など、医師の診断により治療として注射が打たれる場合は保険適用となります。

  • ※脚気:ビタミンB1不足により、倦怠感、食欲不振、手足のしびれ・むくみなどの症状があらわれる病気のこと。悪化すると心不全により死に至ることもある。
  • ※※ウェルニッケ脳症:ビタミンB1欠乏により、眼球運動障害、錯乱状態などの意識障害、ふらつきなどの運動失調といった症状が急激にあらわれる病気のこと。後遺症が残ることが多く、死亡率も10%以上。

にんにく注射に入っているビタミンB1やフルスルチアミン(ビタミンB1誘導体)って、どんなもの?

私たち人間は、三大栄養素(糖質、タンパク質、脂質)からエネルギーを生み出し、生命を維持しています。しかし、それらは食べて身体に入れるだけではエネルギーになりません。糖質、タンパク質、脂質を体内でうまく活用できるエネルギーに変換するには、ビタミンやミネラルが不可欠です。中でも一番のエネルギー源である糖質を変換するときに必要なのが、ビタミンB1です。

ビタミンB1は非常に重要な栄養素であるものの、水溶性で水に溶けやすく熱に弱いため調理の過程で失われてしまったり、体内に入っても腸から吸収できる量が限られています。こうしたビタミンB1の弱点を補うために構造を改良して腸から吸収しやすい形(誘導体)にしたのが、フルスルチアミンです。
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フルスルチアミンの特徴は、ビタミンB1と比べて腸からの吸収率が高いことです1)。また、フルスルチアミンはビタミンB1と比べて組織との親和性が高いので、筋肉や神経などの組織へよく移行することができます。そして、血球を含む組織へビタミンB1が大量に移行するので、細胞内で活性型ビタミンB1を多く産生することができます。
1)糸川 嘉則ほか:ビタミン;66(1),35-42,1992
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フルスルチアミンは医薬品成分であるために、医薬品(医薬部外品を含む)のみに配合が認められ、健康食品(サプリメント)には配合が認められていません。よって、医療機関で打てるにんにく注射だけに含まれる成分ではありません。実はOTC医薬品(市販薬)として錠剤やドリンク剤にも配合されており、誰でもドラッグストアなどで購入することができます。

OTC医薬品のフルスルチアミンは、主に肉体疲労時のビタミンB1補給や疲労回復、眼精疲労や筋肉痛・関節痛、神経痛、手足のしびれの緩和といった効能を有し、それらの目的で使われています。

コラム「にんにく注射を打つと、身体がニンニク臭くなる?」

前述の通り、にんにく注射の主成分であるビタミンB1誘導体は、ビタミンB1にニンニクの主成分であるアリシンが結合した構造をしているため、にんにく注射を打つと鼻にニンニクのニオイが抜ける、錠剤を服用するとなんとなくニンニクのニオイがする、といったことがあるかもしれません。しかし、あくまで注射された本人が体内にめぐる成分を鼻でニオイとして感じるだけで、にんにく注射を打ったからといって身体がニンニク臭くなってしまうことはないので、安心してください。

実は、フルスルチアミンが開発される一段階前のビタミンB1誘導体である「プロスルチアミン」という物質は、戦後、神経痛に効果があるとしてビタミンB1誘導体ブームのきっかけとなりましたが、ニンニク臭が強いことが問題でした。そこで、コーヒーの芳香成分を利用して、ニンニク臭を低減させて開発されたのがフルスルチアミンです。

プロスルチアミン注射液を静脈注射し、注射開始からニオイを感じるまでの時間と、ニオイを感じてから消失するまでの時間を測定して嗅覚を調べる「アリナミンテスト(静脈性嗅覚検査)」というものもありますが、フルスルチアミンの注射液はニオイを弱めた製品であるためこの検査には適していないとされています。フルスルチアミンはそれだけニオイが弱いことを示しています。

また、この嗅覚検査では、嗅覚が正常な人のニオイの潜伏期間は平均8秒、持続時間は平均70秒とされている2)ので、フルスルチアミンよりニオイが強いプロスルチアミンであってもニオイを感じるのはわずかな時間だということがわかります。

  • 2)日本鼻科学会:嗅覚障害診療ガイドライン,p507,2017

にんにく注射の効果は? どれくらい持続するの? 副作用は?

口からのむ市販の錠剤やドリンク剤は腸から成分が吸収されるのに対して、にんにく注射は直接血液中に注射するため、成分を確実に体内に取り込むことができます。にんにく注射の効果の持続は、およそ2~3日程度であると言われています。それは主成分であるビタミンB群が水溶性であるために、尿から体外に排出されやすいという性質があるからです。つまりにんにく注射は、速効性はあるものの持続性は短い一方で、その分、過剰摂取にはなりにくいので、副作用も少ないと言えるでしょう。

疲労をすぐに改善したいというときにだけ打つ人、体調を維持する目的で1週間に数回程度、定期的に打つ人など、さまざまです。注射の回数については症状や体調を考えて医療機関の医師とよく相談しましょう。

一方、フルスルチアミンを配合した市販の錠剤やドリンク剤は、症状に合わせてその日の疲れや蓄積した疲れに対して使われるものです。服用する場合は、製品のパッケージに書かれた用法・用量を守り正しく服用しましょう。

にんにく注射は注射であるため、副作用として注射針の刺入部位の赤味や腫れが出ることがあります。また、まれにアレルギー反応や下痢、頭痛などの副作用が出ることもありますが、その場合はすぐに医師に相談してください。これ以外でも気になることがあれば、すぐに医師に相談しましょう。

コラム「アスリートとにんにく注射」

アスリートの場合、早く疲れを取ったり、運動パフォーマンスを高めるために、にんにく注射を打ちたいと思うかもしれませんが、ドーピング違反となる場合があるので、注意が必要です。

にんにく注射にはドーピングの禁止表に掲載されている禁止物質は基本的に含まれていませんが、医療行為ではない一定量以上の静脈注射・点滴の行為そのものが、ドーピング違反とみなされることがあります3)

一方、OTC医薬品(医薬部外品を含む)の錠剤・ドリンク剤であれば、注射ではなく経口服用ですので、上記の心配は無用です。ただし、フルスルチアミンなどのビタミン類以外に生薬成分などが配合されている製品もあり、配合成分によっては注意が必要です。各競技団体によって規定が異なる場合があるため、詳しくは各競技団体へ確認するのが安心でしょう。また、アンチ・ドーピング認証(インフォームドチョイス認証など)を取得している製品もあるので、参考にするのも一手です。

  • 3)日本アンチ・ドーピング機構,2023年禁止表国際基準,p13,2023

にんにく注射はどんな人が打つといいの?

1.疲れや倦怠感を早く改善させたい人

肉体労働や激しい運動をする場合、多くのエネルギーが必要になりますが、エネルギーの産生が十分でないと疲労の原因になり、疲労感が解消されないと倦怠感にもつながります。フルスルチアミンはエネルギー産生を高めるので、注射であれば速効性のある疲労回復が期待できます。

2.病み上がりの疲労感を早くなくしたい人

風邪をひいて熱が出ると、その後に倦怠感や疲労感が残り、なんとなく元気がでない症状が続くことがあります。フルスルチアミンはこうした風邪などの病後の回復を促進する可能性があります。

3.高い運動パフォーマンスが必要な人

ビタミンB1やフルスルチアミンの補給は、筋肉への電気的信号の授受が行われる「シナプス」の活性化を促すとされています。したがって、フルスルチアミンを体内に取り込むことで、運動パフォーマンスの向上が見込める可能性があります。
関連コンテンツ:ビタミンB1(チアミン)の運動神経への作用


4.肌荒れで悩んでいる人

ビタミンB1は肌の新陳代謝を促し、皮膚や粘膜を強化するため、肌のトラブル、肌荒れの改善が期待できます。

5.肩こりや腰痛を治したい人

フルスルチアミンは傷ついた神経を修復し、神経や筋肉の機能低下を回復します。したがって、肩こりや腰痛などの症状を和らげることが期待できます。

6.眼精疲労を緩和したい人

パソコンやスマホの画面など、目を酷使しがちな現代人は、慢性的な眼精疲労に悩まされています。フルスルチアミンは加齢や使いすぎにより低下した目の神経や筋肉の機能を回復して、眼精疲労を緩和します。

7.夏バテから早く立ち直りたい人

夏バテ解消といえば「うなぎ」ですが、うなぎにはビタミンB1が豊富に含まれています。にんにく注射なら、体内に効率よくビタミンB1を取り入れられるため、夏バテ解消が期待できます。

にんにく注射が気になる! でも、あと一歩が出ないときは?

にんにく注射は自由診療のため、医療機関によっては価格が高かったり、逆に安いところは予約がなかなか取りづらかったりして、にんにく注射が気になりながらも、なかなかクリニックまで足を運べない人もいるのではないでしょうか。

また、そもそも注射が苦手な人や、病気でもないのに血管内に直接お薬を入れることに抵抗がある人もいるかもしれません。

そのような人は、まずは基本的な生活習慣(食事、運動、睡眠)を見直し、特に食生活ではバランスよくビタミンやミネラルの摂取を心掛けた上で、それでも悩みが続く場合は、フルスルチアミンの入ったOTC医薬品の錠剤やドリンク剤を試してみてはいかがでしょうか。ドラッグストアやコンビニエンスストアなどには、さまざまなフルスルチアミン配合の製品が並んでいるので、医療機関に行かずとも、試してみることができます。

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