【日本疲労学会 市民公開講座】「脳科学からみる疲れをためないライフスタイル」

【日本疲労学会 市民公開講座】「脳科学からみる疲れをためないライフスタイル」

講師:片岡 洋祐 先生(神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 生体制御学講座 特命教授、日本疲労学会 副理事長)

日本疲労学会は2024年6月15-16日に第20回の記念学術集会を帝国ホテル大阪にて開催しました(大会長:日本疲労学会 理事/事務局長 水野敬先生)。学術集会には約180名が参加し、6月16日には「脳科学からみる疲れをためないライフスタイル」と題した市民公開講座が開催されました。講師は、神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 生体制御学講座 特命教授で、日本疲労学会 副理事長でもある片岡洋祐先生です。以下に、当日の内容や様子をレポートいたします。
*共催:アリナミン製薬株式会社
片岡 洋祐 先生

監修

片岡 洋祐 先生 (神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 生体制御学講座 特命教授、日本疲労学会 副理事長)

≪片岡洋祐(かたおかようすけ)先生プロフィール≫

1996年
医学博士 京都大学
1995-1996年
日本学術振興会・特別研究員
1996-2001年
大阪バイオサイエンス研究所・研究員
2001-2005年
関西医科大学医学部解剖学・講師
2005-2009年
大阪市立大学大学院医学研究科 システム神経科学・講師
2009-2013年
理化学研究所分子イメージング科学研究センター・チームリーダー
2013-2018年
理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター・チームリーダー
(2014-2018年 理研CLST-JEOL連携センター ユニットリーダー兼任)
2018-2023年
理化学研究所生命機能科学研究センター・チームリーダー
(2018-2023年 理研-JEOL連携センター ユニットリーダー兼任)
2024年-現在
神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 生体制御学講座・特命教授

1.疲労とは?

2024年6月に全国10万人調査から発表された「日本の疲労状況2024」によれば、日本人の7割以上が疲労を感じているといいます。私たちが日々当たり前のように感じている「疲労」ですが、その原因は、精神的ストレスに身体的ストレス、睡眠障害や病気、感染など、実にさまざまです。
また、ストレスと疲労はよく混同されがちですが、ストレスは疲労の一因です。ストレッサー(心身にかかる外部からの刺激)によってストレス反応(心身の反応)が生じるのです。このストレス反応が過度に重なること等により、疲労「状態」になってしまいます。日本疲労学会による定義では、「疲労とは、過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた心身の活動能力、能率の減退状態」とされています。

*全国10万人、20~79歳男女を対象としたインターネット調査。「疲れている人(低頻度)」が全体の38.5%、「疲れている人(高頻度)」の39.8%と合算して算出。(データ:一般社団法人 日本リカバリ―協会「ココロの体力測定2024」)

2.疲労の正体とは?

近年さまざまな研究機関、日本疲労学会の多くの専門家によって行われてきた研究により、「疲労の正体」がわかりつつあります。人工的に、肉体的または精神的な疲労状態にさせた動物の体内では、以下の3つが連続して起きていることがわかったのです。

  1. 神経細胞や筋肉など体のさまざまな場所(部品)が酸化する(サビつきを起こす)。【酸化】
  2. 酸化した部品の修復、交換を行うためにエネルギーの産生が追いつかなくなる。【エネルギー産生障害】
  3. 疲労していることを知らせるため、炎症を起こす物質が脳でたくさん作られる。【炎症】

実験の中で、極度の疲労状態に陥ったマウスの体内では、肝臓で行う解毒などの重要な働きを止めてでも、生命維持活動に不可欠なエネルギーの貯蔵と利用に関わるATP(アデノシン三リン酸)という物質を何とか作り続けていることもわかりました。つまり体の働きが生命維持活動だけに使われる「疲労状態」は、エネルギーを作り出すこと以外の機能を犠牲にしている状態であり、病気へ向かうアイドリング状態にあるといえるのです。

3.疲労感は体からの重要なアラーム

疲労の蓄積によって脳内の神経に炎症が起こると、「(疲れて)もう動きたくない」という気分になります。疲労は、独特の不快感や休養の願望、活動意欲の低下を伴うことが多く、これを「疲労感」と呼びます。そして実はこの疲労感こそ、私たちにとってとても重要な「アラーム」のようなもの。疲労感を感じることができないと、人も動物も、体力や気力の限界を超え、死ぬまで動き続けてしまうからです。
片岡先生は、「今日一番お伝えしたいことは、しんどい・つらいと感じる時には必ず体に何かが起こっているということ。その体の声に耳を傾け、疲れを感じたらきっちり休養すべきです」と述べられました。

4.疲労を回復させるには?

これまでの研究により、「エネルギー代謝(体内に摂取した栄養素を代謝してエネルギーにする)を改善する物質」「抗酸化作用のある物質」「抗炎症効果のある物質」「その他、緑の香り」などには抗疲労効果があることがわかりました。具体的には、エネルギーの産生に関わるビタミンB1の誘導体であるフルスルチアミン、抗酸化作用のあるアスコルビン酸(ビタミンC)やクエン酸、抗炎症作用のある茶カテキンやワサビに含まれる成分などが挙げられます。これらの摂取により、疲労を回復する効果が期待できます。

※ショートブレイク

片岡先生から共催企業である当社について、ご紹介をいただきました。会場では参加者に、2024年4月に発売されたアリナミン製品のサンプルと、当社が運営している健康情報サイト(https://alinamin-kenko.jp/)の紹介資料が、配布されました。今年、アリナミンブランドが発売70周年を迎えたことにも触れていただきました。

5.脳疲労とは?

疲労には肉体疲労と脳疲労の捉え方がありますが、肉体が動いている時には脳も指揮をしているので、両者は関連し合っていて明確に区別することは難しいものです。ただ、イメージをするならば、脳疲労とは、筋肉疲労などの肉体活動による疲れとは区別して、「神経活動による疲れ」のことになります。「脳の疲労は、同じ神経回路を酷使し、過度な神経活動をすることで起こる。簡単にいうと、同じことを繰り返すことで、脳は疲れていくんです」と片岡先生。同じ作業を繰り返し続けていると、飽きてしまって、あくびが出るような経験は誰にでもあること。「あくびが出るということは、その神経回路はちょっと疲れてきていますよ、という初期のサインです。いったん違う作業をして別の神経回路を使えば、また集中することができます。どういう仕事を脳にさせるかという「ペース配分」を考えていただくと、脳疲労を避けることができるかもしれません」。 
また先生は、脳を健康に保つカギは、シーソーのような関係にある2つの神経伝達物質にあることを強調されました。脳を満足させ精神状態を落ち着かせる「セロトニン」と、前向きな気持ちや意欲を高める「ドーパミン」のバランスがとれていることが、とても重要なのです。

<関連記事>

6.脳を疲れさせないため/脳疲労から回復するためには?

脳疲労に陥らないために、私たちにできることはあるのでしょうか? 片岡先生は、「まず第一に休む時は休む、働く時はしっかり働くという、メリハリのある生活を送ることが大切です」としたうえで、以下のとおり睡眠・食事・運動の3つ、+αを提案されました。

① 質の高い睡眠

睡眠により、脳の働きを疲れからリセットしたり回復したりすることができます。質の高い睡眠をとるためのコツは、実際に寝ようと思っている時間の1時間半~2時間前に入浴を済ませること。シャワーや湯船につかることで体温を上げ、逆に入浴後に窓を開けたりクーラーをつけたりして涼しい環境に身を置き、少しずつ体温を下げていきます。すると自然と眠気が出てきて、深い眠りにつくことができます。また、睡眠に支障をきたしてしまう昼夜逆転した生活はできるだけ避けるようにしましょう。

<関連記事>

② バランスのとれた食事

エネルギー源となる三大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)に、エネルギー産生に関わるビタミンB群、そして抗酸化食材や抗炎症食材なども十分に摂取できるよう、多様な食材を摂ることが大切です。特に日本人は海外の方に比べ、傷ついた細胞を修復するためのタンパク質の摂取量が少ないため、肉や魚に加えて大豆製品を摂るとよいでしょう。カップラーメンばかり食べているような食生活には、注意が必要です。

<関連記事>

③ 適度な運動で、神経回路を休ませる

運動をすると、安心感が得られて不安が和らぐことがわかっています。スポーツジムなどで一生懸命に走ったり、歩いたり、ダンベルを上げている間は、余計なことをくよくよと考えている暇がありません。運動している一瞬だけでも、悩み事などから離れ、神経回路を休ませることが大切です。さらに運動をした後の爽快感が疲労の原因となるストレスも軽減してくれるため、週に3回くらいは何かしらの運動をするようにしましょう。

<関連記事>

④ +α:切り替えの意識と脳を鍛えること

性格的に疲労を解消しやすい人と解消しにくい人がいます。解消しやすい人というのは、「自己志向型」と呼ばれ、適度に切り替えて、楽しみを見出すことを考えます。片岡先生は「目的を達成するためのプロセスや方法を臨機応変に変えていくことをおすすめします。物事を違う側面からみてみると、とても気持ちが楽になります」と述べられました。
また、脳を若々しく保つためには、脳を鍛えることが重要です。そのためには、歩きながら計算をしたり、料理をしたりして、脳に情報を「並行処理」させることが効果的とのことです。

7.~デジタルうつに注意!~

今、現代病ともいえる「デジタルうつ」が問題となっています。スマートフォンなどを寝室にまで持ち込み、眠る直前まで動画をみたりゲームをしたりして、絶えず脳に情報を送り続けることで、脳が疲れてしまうのです。現代のような情報過多の時代こそ、ボーッとする時間が必要です。ボーッとしている間に、脳内の情報が整理されることが科学的に証明されているといいます。

<関連記事>

最後に片岡先生は、今後はより一層、脳の疲労を慢性化させないための食事・医薬品・健康食品・生活・サービス・環境・文化・教育が必要になってくると述べた上で、「皆様どうか疲労を蓄積させずに、元気でお過ごしください」と本講演を締めくくられました。  

疲労を第一線で研究されている先生方が集う日本疲労学会は、第20回の記念学術集会を迎えました。20年間を経て、疲労の正体がわかってきた、抗疲労に関わる物質が見出されてきた、ということで、まさに今がターニングポイントといえます。セルフケア・セルフメディケーションの推進には、生活者の皆様が自らの「疲れ」に目を向け、疲労対処を行っていくことが重要です。
私たちアリナミン製薬は「明日の元気を変えていく」というコーポレートメッセージに基づき、生活者の皆様が疲労対処をされて元気になっていくお手伝いができるよう、これからもこのような市民公開講座の共催や講演内容の情報発信を含めて、健康情報を提供してまいります。