変形性膝関節症の人が「してはいけない運動」と「したほうがいい運動」とは?

変形性膝関節症の人が「してはいけない運動」と「したほうがいい運動」とは?

変形性膝関節症は、年齢などにより膝の軟骨がすり減ることで膝の痛みや動かしづらさが生じる病気です。加齢以外にも、外傷や肥満、膝に負担をかける職業などさまざまなリスク要因があり、膝に痛みが出る原因として一般的なものです。変形性膝関節症の改善には運動療法が不可欠ですが、逆に運動が症状を悪化させてしまうこともあります。本記事では、変形性膝関節症の人がしてはいけない運動と日常生活の中でしてはいけないこと、改善のためにしたほうがいい運動や生活習慣などを解説します。

※変形性膝関節症は医師の診断が必要です。心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
中村 格子 先生

監修

中村 格子 先生 (医療法人社団BODHI Dr.KAKUKO スポーツクリニック 院長)

変形性膝関節症の人がしてはいけない運動

痛みが強いときは安静に

変形性膝関節症の改善には運動療法が欠かせませんが、痛みが出ている場合は安静にしましょう。痛みがあるときに無理に運動すると、症状が悪化する恐れもあります。痛みが強い、なかなか治まらないといった場合は医師に相談し、指示に従いましょう。

膝への負担が大きい運動

娯楽程度のスポーツであれば変形性膝関節症を進行させる心配は少ないとされていますが、過度のスポーツは変形性膝関節症の発症要因や進行要因となり得ます。激しいスポーツなどで膝に外傷を受けることも、変形性膝関節症の発症リスクとなります。
特にランニングなど、長時間走る動作を伴う運動は膝に衝撃を繰り返し与え、変形性膝関節症を悪化させやすくなります。膝を大きく曲げ伸ばすスクワットも、自重がかかることで膝への負担が大きくなるため避けたほうがいい運動です。
また、階段の昇り降りや長時間の歩行なども膝への負担が大きい運動です。ウォーキングなどは、休憩しながら無理のない範囲で行うことが重要です。

人工膝関節置換術後にしてはいけない運動

変形性膝関節症などの治療で人工膝関節置換術を行うと膝の痛みや動きが改善しスポーツがしやすくなりますが、どのようなスポーツをするかが術後の経過に影響するため慎重に行いましょう。ラジオ体操、短時間のウォーキング、水泳など膝への衝撃が少ないスポーツは推奨されますが、激しいジャンプや身体の接触をともなう運動は避けるべきとされています。人工膝関節置換術後にスポーツをする場合は医師に相談の上で行いましょう。

変形性膝関節症の日常生活でしてはいけないこと

悪化要因は運動だけではない

変形性膝関節症の悪化要因は運動だけではなく、日常生活上の要因によって症状が悪化することもあります。膝の痛みなどの症状が強い場合や良くならない場合、自身の日常生活に悪化要因がないか振り返ってみるのも良いでしょう。

過剰な体重

肥満は変形性膝関節症の代表的な危険因子です。体重が重いとその分膝への負担が大きくなるため、変形性膝関節症などの関節の疾患が発症・悪化しやすくなります。

和式の生活

正座をする、和式トイレを使用するなど、和式の生活様式は洋式の生活に比べて膝への負担が大きくなります。このような生活の動作は膝関節だけでなく、股関節への負担の増加にもつながります。膝の痛みがある場合は、可能な範囲で洋式の生活スタイルに変更してみることも考慮しましょう(後述)。

筋力の低下

運動不足になると膝を支える大腿四頭筋などの太ももの筋肉量が減ることがわかっています。
膝を支える筋肉の筋力低下は膝痛にもつながります。

体の冷え

関節が冷えると痛みを強く感じやすくなり、症状が強くなります。冷房などによる冷えにも注意しましょう。

この疾患・症状に関連する情報はこちら。

冷え症

変形性膝関節症の症状を改善させるためにできること

変形性膝関節症の症状の改善には、運動療法やライフスタイルの改善など患者自身でのセルフケアが重要です。以下に、自分でできる改善方法の例を紹介します。

ストレッチや膝への負担が軽い運動

軟骨などの組織が運動による適度な刺激を受けると、抗炎症反応が生じることにより痛みが軽減されます。ただし強度が強い運動はむしろ炎症を悪化させるため、運動中や運動後に膝の痛みや腫れが出ない程度の適度な運動を行うようにしましょう。適度な運動の例としては、ウォーキング、水中歩行、ゲートボールなどが挙げられます。また、以下のような運動プログラム(筋トレなど)も推奨されています。

太ももの前側の筋力トレーニング①

椅子に座り、片足の膝を伸ばして床と水平になるように上げ、5〜10秒間キープします。このとき、つま先が天井を向くように足首を直角にします。その後足を元に戻します。

太ももの前側の筋力トレーニング②

足を伸ばして床に座り、膝の下に丸めたタオルを置きます。片足の膝を伸ばしてタオルを押し、5〜10秒間キープした後に元に戻します。

太ももの外側の筋力トレーニング

横向きに寝そべり、上側の足を20cm程度上げて5秒間キープして元に戻します。このとき、膝は伸ばしたままにします。

足全体の筋力トレーニング

肩幅より少し広めに足を開いて立ち、息を吐きながらお尻を下げるように膝を曲げます。このとき、膝は曲げすぎないように(90°より深くならないように)しましょう。その後、息を吸いながら元に戻します。自立して行うのが難しければ、手すりなどにつかまって行っても問題ありません。

膝を曲げ伸ばししやすくするトレーニング

膝を伸ばして床に座り、かかとの下に畳んだタオルを敷きます。タオルを引き寄せるように、踵(かかと)をゆっくり曲げます。その後、ゆっくり元の位置に戻します。浴槽の中で行っても構いません(その場合はタオルは敷かずに行います)。

膝の裏の硬さを軽減するトレーニング

膝を伸ばして床に座り、膝に力を入れながらつま先が床と水平方向を向くように足首を伸ばします。5秒キープした後、膝に力を入れながらつま先が上を向くように足首を直角にして5秒キープします。

トレーニングに関する注意点

トレーニング中は、息を止めないようにして行いましょう。また、運動の内容は医師と相談した上で決定し、症状が改善しなかったり悪化したりする場合はかかりつけ医に相談しましょう。

肥満がある場合は減量

体重が過剰である場合、まずはダイエットで減量することで膝の負担が軽減されます。変形性膝関節症による膝の痛みで運動しなくなり、その結果さらに体重が増えることもありますので、食事制限や膝への負担が少ない運動などで体重コントロールに努めることが重要です。どのように体重を減らすのが良いか、医療機関で相談するのも良いでしょう。

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肥満

洋式の生活にする

敷布団で寝ている場合はベッドに変更する、座布団ではなく足付きの座椅子などに座る、和式のトイレはできるだけ避けるなど、和式の生活環境を洋式に変えると生活の中での膝への負担が軽減できます。

市販薬の使用

痛みにより生活に支障がある場合には、市販薬を使用することで痛みを緩和させるのも一つの方法です。関節痛で使用される市販薬には、内服薬(錠剤など)と外用薬(湿布、塗り薬など)があります。ただし市販薬を使用する際は添付文書をよく読み、用法・用量を守りましょう。また、市販薬を使用しても症状が良くならない、再発するといった場合は医療機関を受診しましょう。

内服薬

痛みを抑えたい場合は「消炎鎮痛剤(痛み止め)」が適しています。さまざまな鎮痛剤が市販されていますが、消炎鎮痛剤は長期間服用し続けると、消化器官の副作用が現れることもあります。そのため、ビタミン剤や滋養強壮剤の内服もおすすめです。これらには関節軟骨の成分であるコンドロイチン硫酸エステルナトリウムや、神経をケアして関節の痛みを和らげるフルスルチアミン(ビタミンB1誘導体)などが配合されたものも販売されています。

外用薬

貼り薬、塗り薬などの外用薬も関節痛の症状を緩和する効果があります。湿布、テープ剤、クリームなどさまざまな形状がありますが、膝に使用する場合はテープ剤や塗り薬が剥がれにくいでしょう。

運動療法で改善しない場合の治療方法

運動療法などのセルフケアを行っても症状が改善しない場合、その他の保存療法や手術などの治療選択肢があります。

運動療法以外の保存療法

物理療法

変形性膝関節症の物理療法としては、皮膚に装着した電極から電気刺激を送る経皮的電気神経刺激や、超音波を照射する超音波治療などが行われます。鍼治療・灸治療は、「変形性膝関節症診療ガイドライン2023」では「実施しないことを弱く推奨する」とされています。

装具療法

変形性膝関節症の装具療法として、膝装具、インソール(足底挿板)、杖、靴などが使用されます。特に、膝装具やインソールは痛みの改善や膝機能の改善に有効であるとされていますが、使用する装具や変形性膝関節症の進行度によっても効果に差異がある点は注意が必要です。

薬物療法(医療機関で処方される薬剤)

医療機関で行う薬物療法としては、主にアセトアミノフェン、NSAIDs(内服薬または外用薬)、COX-2選択的阻害薬、ヒアルロン酸関節内注射などが用いられます。また近年では再生治療としてPRP(自己多血小板血漿)注射なども行われています。ただし、他にかかっている病気の有無や常用している薬剤の量・種類などによって適した薬剤が異なりますので、薬剤の使用にあたっては必ず医師の指示に従うようにしましょう。

手術療法

保存療法で改善されない場合は、手術を行うことが検討されます。筋力が低下していると手術の効果が十分に得られないことがあるため、末期まで進行する前が適切なタイミングとなります。手術の術式としては、代表的なものに高位脛骨骨切り術と人工膝関節置換術があります。

【参考文献】

  • 「変形性膝関節症診療ガイドライン2023」日本整形外科学会(監修)、日本整形外科学会診療ガイドライン委員会(編集)、変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会(編集)
  • 「変形性膝関節症」公益社団法人 日本整形外科学会
  • 「変形性ひざ関節症の人を対象にした運動プログラム」厚生労働省
    https://www.mhlw.go.jp/content/000656473.pdf