膝、腰、肩、手や足の指、肘、足首といった関節に起こる痛み「関節痛」に悩まされている人も少なくないでしょう。関節痛はケガや病気で生じることもありますが、それ以外に日常生活のちょっとした場面で生じることも多々あります。そこで今回は、関節痛が起こる原因をご紹介するとともに予防や対処法まで、関節痛に関するさまざまな情報をご紹介します。関節の痛みにお悩みの方々のセルフケアに、ぜひお役立てください。
監修
中村 格子 先生 (医療法人社団BODHI Dr.KAKUKO スポーツクリニック 院長)
関節とは「2つ以上の骨が連結している部分」と定義されています。人体にはたくさんの関節が存在していて、それらは肩関節や膝関節のように動くもの(可動関節)もあれば、骨盤や頭蓋骨の結合のようにまったく動かないもの(不動関節)もあります。この記事では便宜上、関節=可動関節を指すものとします。
まずは、関節の基本的な構造を、膝関節を例に説明します。関節が動くのは、骨と骨の間にわずかなすき間(関節腔)があいているためです。すき間があることによって骨と骨がぶつからずに動くことができます。
骨の関節面は摩擦を防ぐために軟骨(関節軟骨)で覆われていて、関節包という袋のようなもので全体が包まれています。その内部は、潤滑剤の働きをする関節液(滑液)で満たされています。また関節の周囲には靱帯(じんたい)と呼ばれるひも状の組織があり、骨同士を結びつけるとともに、関節の動きの制御を行っています。
こうした構造により通常はスムーズに動いている関節ですが、何らかの原因によって周辺に不具合が生じ、痛みが起こることがあります。そうした痛みのことを総称して「関節痛」と呼んでいます。
関節痛の原因にはさまざまなものがあり、その中には日常生活で起こりうるものもあります。
日常生活で関節痛を生じる原因として多いのは運動です。例えば、普段あまり運動をしていない人が急に運動をすると、筋力や体の柔軟性の不足により、関節に負担がかかり、痛みが生じることがあります。また逆に、習慣的に運動をしている人や活動的な人では、オーバーユース(使い過ぎ)によって痛みが生じることも…。重症になると常に痛みを感じたり、軟骨の損傷や靱帯や腱(骨と筋肉をつなぐ組織)の断裂が起こったりすることもあります。
加齢も関節痛の要因のひとつです。加齢によって骨の関節面を覆っている軟骨が弾力性・保水性を失ったり、使い過ぎによりすり減ったりすることで関節が変形し、関節に炎症が起こって痛みや腫れが生じることは少なくありません。
また体重が重いことも、腰や膝などの関節にかかる負担を大きくし、痛みの原因となります。とくに長年、肥満や過体重の状態でいることは関節の負担にもつながり、日常生活を過ごしているだけでも痛みを生じることがあるため、注意が必要です。
関節の痛みをともないやすい病気(疾患)を順に紹介します。
※以下の疾患は、医師の診断が必要なものもあります。
症状が続くなど心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
変形性膝関節症は、読んで字のごとく、膝の骨の変形により炎症が生じたり、水がたまったりすることで痛みが起こる疾患です。
男性よりも女性に多く見られ(男女比は1:4)、高齢になるほど罹患率が高くなります。主な原因は加齢による筋力低下や関節軟骨の変性、あるいは使い過ぎですが、それ以外に肥満や遺伝も発症のしやすさに影響していることがわかっている他、靱帯や半月板の損傷といった外傷、骨折、化膿性関節炎などの後遺症として二次的に発症することもあります。
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寝て起きたときに関節が腫れ、痛みやこわばりを感じるのが、関節リウマチの典型的な症状です。最初は手首、足首、手足の指などに生じますが、進行すると膝、肘、肩、股関節などの大きな関節にも広がり、日常生活にも支障をきたすようになります。はっきりとした原因はまだわかっていませんが、何らかの原因による免疫の異常だといわれています。20~50代に比較的多く見られるものの、中には高齢になってから発症するケースもあります。
手足のこわばりについての詳しい情報はこちら 手足のこわばり
細菌やウイルス、真菌などが何らかの原因で関節に入り込み、炎症を起こして痛みを生じさせる疾患です。急性と慢性があり、急性化膿性関節炎にかかると、関節内の軟骨が数時間~数日以内に破壊や損傷を受ける可能性があるため早期の対応が必要です。化膿性関節炎のうち、95%が急性だといわれています。一方、慢性の場合は、数週間かけて徐々に発生していきます。免疫抑制剤を服用しているなど、免疫系のリスクが大きい人に発症しやすいとされています。
明らかな怪我などの原因がないのに、突如足の親指のつけ根が赤く腫れて痛くなる「痛風発作」が代表的な症状の関節疾患です。「風がふいても痛い」というほどの痛みから「痛風」という名前がついています。血中の尿酸値が高くなり、関節内に溜まった尿酸塩結晶を白血球が処理する際に炎症が起こるもので、足の親指のつけ根以外に、足の甲、アキレス腱のつけ根、膝関節、手の関節にも同様の発作が起こったり、耳(外耳と呼ばれる場所)に痛風結節や尿路結石ができたりすることもあります。暴飲暴食が影響したり、肥満や高血圧などの生活習慣病を合併することも少なくありません。
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筋肉を骨につないでいる組織「腱」を包む袋のようなものを腱鞘(けんしょう)といいます。加齢や使いすぎなどにより腱が損傷されると腱と一緒に腱鞘も腫れて炎症を起こします。これが腱鞘炎です。とくに手首にある、親指を広げる役割の腱は炎症を起こしやすく、この部位に起こる腱鞘炎を「ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)」といいます。妊娠~出産期や更年期など女性ホルモン値の変化で生じやすい他、最近ではスマートフォンの操作や、マウスやキーボードの長時間使用による親指の使い過ぎで起こるケースも増えています。
インフルエンザウイルスへの感染がきっかけで起こる疾患です。一般的なかぜと同じ、のどの痛み、鼻汁、せきの他、倦怠感、筋肉痛、関節痛などの全身症状があるのが特徴です。こうした全身症状が生じるのは、体内のプロスタグランジンという物質が関係しています。プロスタグランジンには、痛みを脳に増幅して伝える作用があります。病気やケガがあると、体内ではプロスタグランジンが多くつくられるようになり、痛みがより強く伝わるため、関節痛を含む全身の痛みを強く感じるようになります。
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肩関節周囲炎は「四十肩」「五十肩」という通称で呼ばれています。とくに50代前後に多く見られ、レントゲンなどの画像検査では明らかな原因はないのに、肩関節の周辺に炎症を生じ、強い痛みや動きの悪さを感じるのが特徴です。炎症が強くなり動かなくなった状態を「凍結肩(frozen shoulder)」や「拘縮肩」といいます。一度なった側は二度ならないと言われています。
強い痛みを感じて動かせなくなる炎症期、関節が固まったようになる拘縮期(こうしゅくき)、徐々に動きが出てくる寛解期(かんかいき)と3つのステージを経過しながら改善していくことが多く、数ヵ月から数年かけて徐々に痛みが改善していくことが多いです。炎症期や拘縮期は無理に動かすと、かえって痛みの原因になることがあるため、一度整形外科を受診して相談するのが良いでしょう。
寛解期になったら少しずつ動かしていきます。あまり長期間動かさないでいると肩の動きが悪くなり、日常生活が不自由になったり、関節が癒着(ゆちゃく)して動かなくなったりすることもあるため、「たかが四十肩」と侮らないほうが良いでしょう。
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肘関節の脱臼は、肩に次いで2番目に多いといわれています。小さな子どもは肘の周りの組織がまだ柔らかいため、橈骨頭(とうこっとう)が輪状靱帯(りんじょうじんたい)から簡単に外れてしまう脱臼を起こしやすい傾向があります。これを「肘内障(ちゅうないしょう)」といい、例えば小さな子どもが手を強く引っ張られた後などに、痛がって腕を下げたまま動かさなくなるのは、肘内障の可能性が高いです。成人の場合は、腕を伸ばした状態での転倒によって生じることが多いようです。肘関節を正しい位置に戻し、安静にしていると症状は落ち着いていきますが、中には骨折をともなったり、脱臼を繰り返したりすることもあり、注意が必要です。
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「寝違え」は、起き抜けに、首の後ろから肩にかけての筋肉に痛みが生じることの通称で、正式な病名ではありません。外傷(ケガ)ではなく、軽い病気の一種と考えられていて、正しい原因についてはわかっていませんが、不自然な姿勢が続いて一部の筋肉の血流が妨げられたり、スポーツや労働で一部の筋肉が痙攣(こむら返り)したり、頸椎の椎間関節の関節包に炎症が起こったりといった、上肢の使いすぎや同じ姿勢の持続によることが多いようです。
股関節の変形によって痛みが生じる変形性股関節症は、比較的女性に多く見られます。一次性のものと二次性のものがあり、一次性のものは明らかな原因となる疾患がなく徐々に関節軟骨が変性し、すり減るのが特徴です。欧米人に多くみられますが、最近は日本人の生活も欧米化し、徐々に一次性の股関節症が増えているといわれています。
二次性のものは何らかの原因により生じるもので、日本人には多くみられます。
その原因の多くは、先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全、ペルテス病など、子どものときの病気の後遺症だといわれています。男女比は1:7と女性に多いのが特徴です。
初期は長時間の歩行後や運動後などに腰や太ももの痛みを感じる程度ですが、進行すると脚の付け根の痛みが強くなり、立ち上がりで痛んだり、場合によっては何もしなくても痛むこともあります。また、動きが悪くなり椅子に座ることも難しくなる場合があります。
関節痛を生じさせる要因のひとつとして、筋力不足や筋力のアンバランスが挙げられます。筋肉は関節の支えになっているため、その力が足りなかったり、バランスが悪かったりすることで関節に負担がかかり、痛みが生じることが多々あります。適度な運動で筋力を鍛えることは、関節痛の予防として有効な対策です。
体重を支えている腰や膝などの下肢の関節には、大きな負担がかかっています。体重が重いと、関節にかかる負担が増えて軟骨の摩耗や関節の変形が引き起こされ、痛みや腫れが生じやすくなります。肥満や過体重を改善し、体重をコントロールすることは関節への負担を減らすことにつながり、関節痛の予防に効果的です。
例えばイスに座る場合には、背すじを伸ばした正しい姿勢で座るより、猫背で前かがみになって座るほうが、腰椎への負担が大きくなります。このように姿勢の取り方によっては関節に負担をかけ、痛みを引き起こすことがわかっています。正しい姿勢で過ごすと関節への負担が減ると同時に、自然に筋肉も鍛えられるため、結果的に関節痛の予防につながります。
足に合わない靴を選ぶと不自然な歩き方になることも少なくありません。その結果、足の関節、筋肉、靱帯などへの負担が増加して足の痛みや転倒などを引き起こすことがあり、注意が必要です。また、タイトなパンツも膝や腰に負担がかかります。自分の足に合った靴やウエストや脚にゆとりのある服を選ぶなど、身に着けるものに気を配って、関節に余計な負担がかかるのを防ぎ、痛みを予防しましょう。
体が冷えて血流が悪くなると、関節に痛みが生じることがあります。冷房の効いた場所や気温の低い場所に長くとどまらないようにする、薄着をしないようにする、冷たいものの食べすぎ・飲みすぎに気を付けるなどして、体を冷やさないようにしておきましょう。また、冷えの予防には、毎日湯船につかって血流を改善することも有効です。
ストレッチをすると筋肉や靱帯がしなやかになり、柔軟性が増し関節を囲む筋肉のバランスが整います。柔軟性不足は関節痛の一因です。まだ痛みが軽いうちであれば、無理のない範囲でストレッチを取り入れることで、痛みがやわらぐ可能性があります。ストレッチで柔軟性を高めることはすでに生じている関節痛への対処だけでなく、痛みの発生予防にもなります。
1.内服薬
痛みが強いときは、通称「痛み止め」と呼ばれる消炎鎮痛剤を服用し、痛みを抑えることがあります。ただし、消炎鎮痛剤は長期間服用し続けると、消化器官への副作用が出ることもあります。そのため、ビタミン剤や滋養強壮剤の内服もおすすめです。これらには神経を修復するように働くビタミンB群や、血行改善に関与するビタミンEなどの有効成分が配合されています。ビタミン以外に、軟骨に弾力性や保水性を与えるコンドロイチンが配合されたものも良いでしょう。
2.外用薬
湿布やテープ剤などの貼り薬や塗り薬を使用するのも、炎症をしずめ、痛みをやわらげるのに効果的です。湿布が最も一般的に使われていますが、関節のようなよく動く場所には、薄いテープ剤や塗り薬が使われることもあります。
関節の痛みは、安静にして湿布や塗り薬を使ったり、痛みの程度によっては消炎鎮痛剤を服用したりすることで改善することが多々あります。しかし、それでも痛みが改善しなかったり、ひどくなったりする場合は、整形外科など医療機関を受診しましょう。レントゲンやMRIといった精密検査で痛みの原因を特定し、適切な治療を受けることが大切です。
参考文献
・公益社団法人 日本整形外科学会(https://www.joa.or.jp/public/index.html)
・厚生労働省 e-ヘルスネット(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)
・公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット(https://www.tyojyu.or.jp/net/)
・日本フットケア学会雑誌 2019:17(1);1-6
関節痛の原因はさまざまです。
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