監修
川上 洋平 先生 (かわかみ整形外科クリニック 院長、医学博士、日本整形外科学会 専門医/認定スポーツ医/認定リハビリテーション医)
一口に膝の痛みと言っても、どのようなタイミングで痛みが起こるのか、痛みや違和感がどの程度なのかなど、症状はさまざまです。以下を参考に、自分の膝の痛みの特徴を確認してみましょう。
膝が動かし始めに痛む原因の例として、以下のようなものが挙げられます。
※以下の疾患は、医師の診断が必要です。心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
変形性膝関節症は高齢者(特に女性)に多く、膝関節の軟骨がすり減ったり弾力を失ったりすることで膝が変形する疾患です。初期症状として、歩き始めや立ち上がるときなどの動作時に膝に痛みが生じることがあります。初期では休息を取ることで痛みが落ち着きますが、進行すると痛みのために正座や階段の昇り降りができなくなる、膝を動かしていないときにも痛む、膝が変形するなどの強い症状が現れることもあります。
ランナー膝(腸脛靭帯炎)は、主にランニングをする人に発症します。初期症状として、下り坂を走る際に膝の外側が痛くなるスポーツ障害です。悪化すると平地でも歩く際や走る際に痛みが生じます。膝に体重がかかる際に膝が痛み、速く走ったり長距離を走ったりすると痛みが強くなることが特徴です。
活発にスポーツを行う小学校高学年〜中学生に発症し、膝蓋骨(膝のお皿)の下が腫れて痛みが生じます。痛みは安静にしていると落ち着き、スポーツをすると悪化します。一過性の病気ですが、症状があるときは運動を控えましょう。
症状は成長痛と似ていますが、成長痛は小児の繰り返す脚部の痛みのうち骨や関節に異常がないものを指し、主に夜間に強い症状が現れます。一方、オスグッド病はジャンプ動作での膝屈伸時や、ダッシュやキック動作によって症状が強くなるという特徴があります。
膝の腫れは外傷により起こるものもありますが、その他の原因で起こることもあります。また、関節内にある滑膜という組織が炎症を起こすと関節液が過剰に分泌され「水が溜まった」状態となり、生活に支障が生じることもあります。
※以下の疾患は、医師の診断が必要です。心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
スポーツや日常生活において、膝に大きな力がかかった際に膝が腫れることがあります。具体的には、膝靭帯損傷、膝蓋骨脱臼、半月板損傷などが挙げられ、怪我からしばらくして膝に水が溜まることもあります。
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変形性膝関節症、関節リウマチ、急性の関節炎(偽痛風、痛風、化膿性膝関節炎など)といった疾患により、膝が腫れたり水が溜まったりすることがあります。これらの疾患は早急に治療が必要になることもありますので、急に膝が腫れて痛くなった、膝や関節の症状に加えて発熱しているなどの症状が見られる場合は速やかに医療機関を受診しましょう。
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痛みがなくても膝に違和感がある、膝が重い・こわばるなどの症状がある場合、膝に異常が生じていることがあります。例として、変形性膝関節症など膝の疾患の初期症状では膝の違和感が生じることがあります。また、前十字靭帯などは傷ついても痛みを感じにくいため、症状が強くなく違和感程度であっても軽視しないようにしましょう。
膝に異常がなくてもカチカチという関節音がしたり、きしんだりする場合はあります。しかし、なかには変形性膝関節症や半月板損傷、膝離断性骨軟骨炎などが原因となることもあります。例えばゴリッという音がする場合、大きい骨軟骨片が剥がれていることもあります。症状が続く・繰り返す場合や、膝の痛みや違和感など他の症状もある場合は注意しましょう。
膝の内側が痛む場合、内側型変形性膝関節症や鵞足炎などが疑われます。日本人に多い内側型の変形性膝関節症では、初期症状として長時間歩いた後や運動後などに膝の内側の痛みが生じます。
鵞足炎のように、慢性的な膝の使いすぎなどにより鵞足部(太ももの裏側の筋肉が膝の内側に接着している部分)が炎症を起こし、痛みが生じることもあります。特に膝が内側に反るように曲がるX脚では、鵞足部にストレスがかかりやすくなります。
※変形性膝関節症、鵞足炎は、医師の診断が必要です。心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
膝の痛みの原因は、関節の疾患によるもの、外傷によって生じるもの、その他の原因によるものに分けられます。
※以下の疾患は、医師の診断が必要です。心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
膝の疾患の代表例は変形性膝関節症です。変形性膝関節症のリスク要因には加齢、肥満、遺伝的な要因などさまざまなものがあります。
膝以外も含めた関節に生じる病気が原因になることもあります。関節リウマチは指や手首に症状が現れることが多いですが、膝に症状が出ることもあります。
熱感や腫れを伴う激しい痛みが生じた場合は、偽痛風や痛風が原因として考えられます。偽痛風はピロリン酸カルシウム結晶が関節内に形成されることで発症し、膝に発生することが多い疾患です。痛風は尿酸結晶が関節内に形成されることで生じ、発症部位は足の親指の付け根が多いですが、膝に生じることもあります。
その他、細菌性の関節炎が原因になることもあります。
スポーツ中に起こる他者との接触や跳躍時の着地、日常生活での事故などの出来事があって膝が痛む場合、膝蓋骨脱臼、膝靭帯損傷など外傷による膝の損傷が考えられます。怪我をした場合はまずRICE処置と呼ばれる「Rest(安静)」「Icing(冷却)」「Compression(圧迫)」「Elevation(挙上)*」の4つの処置を行い、医療機関で診察を受けましょう。
* 外傷を受けた部位を心臓より高く上げること
はっきりとした病気や外傷がない場合でも、膝の使いすぎなどにより痛みが生じる場合があります。スポーツをしている場合、ランナー膝やジャンパー膝(膝の曲げ伸ばしを繰り返すことで膝蓋腱に負荷がかかり痛みが出る状態)と呼ばれる故障が生じることもあります。筋力が弱かったり靴が合っていなかったりすると、これらの故障が起こりやすくなります。
また、肥満の方は膝に負荷がかかり、痛みが生じやすくなりますので減量することも重要です。
変形性膝関節症や肥満、膝の使いすぎによるものは、安静、運動・食事といった生活習慣の改善、ストレッチ、マッサージなどのセルフケアにより症状を改善させることが可能です。一時的なものであれば、市販薬で痛みを抑えることも選択肢になります。
ただし、外傷により膝が痛む場合や、急性関節炎、関節リウマチなどが疑われる場合は医療機関で診察を受けましょう。特に、痛みが激しく耐えられない、痛みだけでなく発熱や熱感がある、症状が続いている・繰り返すといった場合は早急な受診がすすめられます。
膝のトラブルがある場合、まずは整形外科を受診しましょう。整形外科では、体を動かす骨、筋肉、関節、神経などの運動器に関わる病気・外傷を扱っています。さらに細分化された診療科には、膝関節外科、スポーツ医学科、リウマチ科といった科もあります。よりご自身に適した診療科がある場合、そちらを受診するのもよいでしょう。
自分でできる膝の痛みの軽減方法として、ストレッチやマッサージ、サポーターの活用、テーピングなどがあります。以下では、具体的な方法などをご紹介します。ただし、これらのセルフケアで症状が改善しない場合は医療機関の受診も検討しましょう。また、すでに診断がついている場合は医師の指示に従いましょう。
ストレッチは筋肉の柔軟性を向上させることができます。以下は、加齢などに伴う膝の痛みを軽くするストレッチの例です。ストレッチは膝の痛みを感じない範囲で行いましょう。筋力がつくと膝の負担が軽減されるため、筋力トレーニングと組み合わせて行うとより効果的です。
マッサージを行うと筋肉がほぐれ血流が良くなるため、痛みの軽減に有効です。温めながら行うとより効果的ですが、運動の後など冷やした方が良い場面もあります。また、膝に熱感がある場合、水が溜まっている場合、関節リウマチが疑われる場合は、マッサージを行わないようにしましょう。
※痛みや違和感がある場合は、無理をしないようにしましょう。
膝がぐらついて痛みが出る、体を支えづらいなどの症状がある場合、サポーターなどの装具をつけることで安定し、症状を軽減できることがあります。また、中敷のように靴の中に入れる足底板という装具もあり、O脚などで膝の片側に力がかかりやすくなっている場合に使用すると症状が軽くなることがあります。
近年はスポーツをする場合だけでなく、医療の場でもテーピングを行うことが増えてきています。なかでも、キネシオテーピングと呼ばれる伸縮性のあるテープは痛みなどの症状を緩和する効果があり、肌に直接貼ることができるため使いやすいテープです。ただし、皮膚がかぶれた場合は使用を中止しましょう。また、テープを伸ばして貼る場合は皮膚への負担が大きくなるため、長時間貼りっぱなしにすることは避けましょう。
膝の痛みを緩和させるツボ(経穴)はいくつかあり、揉む、指圧するなどの方法で刺激します。以下にツボの例を紹介します。
一時的な膝の痛みであれば、市販の内服薬や外用薬、サプリメントで様子を見てみるのもよいでしょう。膝が少し痛むが一過性のものかもしれないので様子を見たい場合などにおすすめです。
ただし、膝の痛みなどの症状が改善しない場合や悪化する場合、再発する場合は漫然と使用し続けることを避け、医療機関の受診を検討しましょう。
市販薬には内服薬(のみ薬)と外用薬(湿布や塗り薬など)があります。
痛みを抑えたい場合に適している内服薬は「消炎鎮痛剤(痛み止め)」です。例えば、アセトアミノフェンなどが代表です。
また、関節軟骨の構成成分であるコンドロイチン硫酸ナトリウムや、フルスルチアミン(ビタミンB1誘導体)などを配合したビタミン剤には「関節痛の緩和」の効能があります。
湿布や軟膏などの外用薬は、皮膚から成分を浸透させることで痛みを緩和します。外傷などで熱感がある場合は、湿布で冷やすことで痛みが和らぐこともあります。
膝に関連のある機能性食品成分としては、N-アセチルグルコサミンやプロテオグリカンなどが挙げられます。
N-アセチルグルコサミンは、骨・軟骨・靭帯といった体を支える組織(結合組織)を形成する「ムコ多糖類」を作り出すのに不可欠な成分です。また、プロテオグリカンには関節を滑らかに動かしたり、クッションのように衝撃を吸収したりする働きがあります。
これらを配合したサプリメントを試してみるのもよいでしょう。ただし効果が見られない場合は市販薬や他のセルフケアなどの対処をする、それでも改善しなければ医療機関を受診するなど別の方法も検討しましょう。