監修
関 洋介 先生 (四谷メディカルキューブ 消化器外科 減量・糖尿病外科センター 副センター長 臨床研究管理部 部長)
食べ過ぎて胃が気持ち悪くなる原因には、以下のようなさまざまな要因があります。
など
食べ過ぎによって、胃が伸び広がること(伸展)による刺激や、十二指腸内への胃酸の流入によって、十二指腸の運動が低下したり胃の知覚過敏を引き起こしたりする可能性が報告されており、むかつきや胃痛などの症状につながると考えられています。
また、食べ過ぎによって胃内の圧力が高まり、胃酸が食道に逆流することもあります。胸やけ、呑酸(どんさん:酸っぱいものがこみあげてくる感じ)、胃もたれ、胸の痛み、せき、声のかすれなどの症状があらわれます。
▼食べ過ぎたときの胃の状態
※粘膜が敏感になることによって、通常であれば自覚症状があらわれるほどではない程度でも刺激を強く感じ、症状があらわれる状態
※以下の症状や疾患は、医師の診断が必要な場合もあります。
心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
胃もたれとは、胃の中に食べ物が長時間残っているように感じたり、胃が重苦しくムカムカした感じがしたりする症状のことです。
食べ過ぎたときや、脂肪の多い高カロリー食・タンパク質に富む食べ物を摂取したときには、食べ物が長く胃にとどまる傾向があり、胃もたれが起こりやすくなります。
また、加齢による胃粘膜の萎縮や胃の弾力性の低下なども、胃の中に食べ物がたまりやすくなる原因となります。
その他、睡眠不足、運動不足、不規則な食事時間などの生活習慣や食習慣の乱れがある場合も胃の働きが低下し、ちょっとした食べ過ぎでも胃がもたれることがあります。
なお、胃痛や胃もたれなどの不快な消化器症状があって医療機関を受診した際に、検査をしても胃にこれといった異常が発生していない場合は、「機能性ディスペプシア(FD)」と診断されます。胃酸に対する胃や十二指腸の知覚過敏が、胃もたれなどのFD症状の発生に関与していることが報告されています。
さらに、FDの方は食道から入ってきた食べ物を、しっかりと胃にとどめて消化を進めるための機能(胃適応性弛緩反応/いてきおうせいしかんはんのう)が低下していることも報告されています。
<こちらの記事もチェック>
胃もたれ
胸やけとは、主に胃酸が食道へと逆流することにより、みぞおちの上のあたりに焼けるようなジリジリする感覚を覚えたり、酸っぱい液体が上がってくるような感じがしたりする症状のことです。
通常は、胃と食道のつなぎ目に位置する下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)や噴門(ふんもん)が、胃酸の逆流を防いでいます。しかし、食べ過ぎると胃の中の圧力が高まったり、食後は一時的に下部食道括約筋が緩んでしまったりすることで胃酸の逆流が生じ、胸やけが起こりやすくなります。
食後には健康な人でも胃酸が逆流することがありますが、健康な人の場合、逆流した胃酸は食道のぜん動運動(食べ物や飲み物を食道から胃に送る働き)によりすぐに胃に戻されます。一方、胃食道逆流症の患者さんでは、食道のぜん動運動に問題が生じていることがあり、胃酸が食道にとどまってしまうことがあります。
胃酸が食道へ逆流することにより、胸やけや呑酸などの不快な自覚症状を感じたり、食道の粘膜がただれたり(食道炎)する疾患です。英語表記(GastroEsophageal Reflux Disease)からGERD(ガード)とも呼ばれています。
胃酸の逆流は、食後2~3時間までに起こることが多いため、食後にこれらの症状を感じたときは胃酸の逆流が起きている可能性を考える必要があります。
胃食道逆流症は、下記の3つのタイプに分類されていて、上2つのタイプを逆流性食道炎、3つ目のタイプをNERD(ナード)といいます。
<こちらの記事もチェック>
胸やけ
胃痛も食べ過ぎによる胃の伸展刺激や、胃酸の逆流などによって起こります。食べ過ぎによって消化までの時間が長くなることによって、長時間胃食道への刺激が続くことから、痛みを生じさせることがあります。
また、十二指腸内への胃酸の流入により、胃や十二指腸の知覚過敏を引き起こす可能性も報告されています。
<こちらの記事もチェック>
胃痛
胃の中に食べ物やガスがたまってお腹が張ったような感覚があることを膨満感といいます。
食べ過ぎで一時的に胃の働きが低下して胃の中に食べ物がとどまったり、早食いなどで食べ物と一緒に空気がたくさん胃の中に取り込まれたりすると、膨満感を引き起こしやすくなります。妊娠やお腹の中の臓器が腫れる、肥満でお腹の脂肪が増えるといったことも膨満感を引き起こす一因です。
<こちらの記事もチェック>
膨満感
膨満感とも関連しますが、食べ物と一緒に空気がたくさん取り込まれると、胃の中に空気がたまります。
胃の中にたまった空気を体の外に排出しようとして、げっぷがたくさん出ることがあります。
食べる量が多くなると、その分取り込まれる空気の量も多くなり、げっぷもたくさん出ると考えられます。
※以上の症状や疾患は、医師の診断が必要な場合もあります。
心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
胃もたれや胸やけ、食後の気持ち悪さといった消化器症状は、人々の生活の質(QOL)を低下させ、職場などでの作業効率も低下させてしまいます。そのため、消化器症状の重症度は患者さんがそれぞれ感じる自覚症状と、それに起因するQOLの低下度によって規定されるべきだと考えられます。
そこで、消化器症状に起因するQOLの低下を包括的に評価できる問診票(出雲スケール)が作成されました。現在、多くの医療現場では、消化器症状によって引き起こされる患者さんのQOLの低下を、出雲スケールを用いて確認しています。
出雲スケールは下記の症状に対する設問(例:胃酸の逆流のために困ったことがありましたか?)で構成されており、「まったく困らなかった」「あまり困らなかった」「少し困った」「困った」「かなり困った」「がまんできないくらい困った」の6段階で回答する形式です。
<出雲スケールを構成する症状と該当する設問>
問1~3 胸やけ症状
問4~6 胃痛症状
問7~9 胃もたれ症状
問4~9 FD症状
問10~12 便秘症状
問13~15 下痢症状
まずは食べたものの消化を促すよう、休息を取ることが大切です。座った状態だとお腹が圧迫されて苦しい場合、可能であれば横になって休むと良いでしょう。
横になるときは、普通の仰向けの状態だと胃酸の逆流が起こり、胸やけしたり気持ちが悪くなったりすることがあるかもしれません。上半身をやや起き上がらせて寝る姿勢(頭側挙上)を取ると、胸やけや気持ちの悪さの軽減につながりやすいとされています。
食べ過ぎて気持ちが悪いと「何も口にしたくない」となりがちですが、水を飲むことが刺激になり、胃の活動が促されることもあります。
胃が冷えて活動の妨げにならないよう、常温またはそれ以上の温度の水を摂取しましょう。
ガムを噛むと唾液の分泌が促されます。唾液には消化を促す働きや胃の中の胃酸を中和する働きもあるため、気持ち悪さの軽減につながることも考えられます。食べ過ぎたと思ったときには、食後にガムを噛むのも良いでしょう。
マッサージやツボ押しで胃の働きを促すことが、食べ過ぎによる気持ち悪さの緩和につながることもあります。
まずは両手を重ねて、手のひらでおへその周りを時計回りにやさしくさすってみましょう。胃の働きが促され、気持ちの悪さが少しやわらぐかもしれません。最初は小さく、次第に大きく円を描きながら、なでるように動かしてみてください。緩和されない、さらに気持ち悪さが増すといった場合にはすぐに止めるなどの対応をしましょう。
ツボ押しの場合は、ひざのお皿から指4本分下にある「足三里(あしさんり)」を押すと、止まっている胃を動かし、消化を促進できます。また、みぞおちとおへその間にある「中脘(ちゅうかん)」も、消化のリズムを整えてくれるツボといわれており、おすすめです。
ツボを押すときは力を入れ過ぎず、気持ちいいと感じる程度の加減で刺激しましょう。特に中脘は、骨に守られていない場所にあるため、やさしく押してください。
前かがみの姿勢は胃の圧迫や腹圧の上昇を招き、胃酸の逆流を引き起こして気持ちの悪さや胃のむかつきを生じさせます。重い荷物を持つことも同様です。できるだけ避けましょう。
普段からお腹を締め付けるような服装をしていると、腹圧の上昇により下部食道括約筋が緩んで胃酸が逆流しやすくなり、食後に気持ち悪くなることが多くなります。なるべくゆったりした服装を選ぶと良いでしょう。
食べ過ぎによる気持ち悪さやむかつきの解消には、胃薬の服用が効果的な場合もあります。
市販の胃薬によるセルフケアで、まずは様子を見てみるのも良いでしょう。
胃薬にもいくつかのタイプがありますが、胃もたれや胸やけ、胃痛、むかつき、気持ち悪さの改善には以下の成分を含むタイプがすすめられます。
など
など
など
など
など
ドラッグストアの薬剤師や登録販売者などに相談し、自分に合うタイプの胃薬を選ぶのがおすすめです。用法・用量を守って服用しましょう。
前日の食べ過ぎにより、胃腸に負担がかかっているため、胃腸を休ませる意味でも消化の良い食べ物を食べることを心掛けましょう。
食物繊維や脂肪分が少なく柔らかい食べ物、例えば、野菜の煮物、白身魚、鶏ささみ、豆腐、納豆、ヨーグルト、食パン、おかゆ、うどんなどは消化に良いといわれています。
反対に、胃を刺激するアルコール・にんにく・チョコレート・香辛料や、揚げ物などの脂質を多く含む食べ物、豆類・きのこ類・根菜類といった食物繊維を多く含む食べ物などは控えましょう。早食いも胃腸に負担をかけるので避けてください。
食べ過ぎて気持ちが悪いときは「水を飲むのも嫌」と思うかもしれません。しかし、脱水にならないためにも、水分補給を心掛けましょう。水を飲むことが刺激になり、胃の活動が促されて、食べ過ぎによる気持ちの悪さがやわらぐこともあります。
できれば胃酸の分泌を促すカフェインなどが含まれていない、水や白湯がおすすめです。冷た過ぎると胃腸が冷えてしまうため注意しましょう。
運動は、胃など消化器の働きに影響を与えるストレスの解消につながり、お腹の調子の改善にも役立つといわれています。
ストレスは、食後の気持ち悪さや胸やけを引き起こすGERDの一因にあげられています。運動には、ネガティブな気分を発散させたり、こころと体をリラックスさせたりする効果があり、ストレスの解消にぴったりです。
頑張り過ぎると疲れてしまうので、買い物ついでの散歩や近隣へのサイクリングなど、軽い運動がおすすめです。
食べ過ぎた翌日には軽い運動をして、ストレスを解消するとともに胃腸の調子も整えましょう。
寝不足が続くと自律神経のバランスが乱れ、内臓機能の低下につながってしまいます。また、食べ過ぎに加えて睡眠不足にもなると、肥満や生活習慣病を引き起こしやすくなってしまいます。個人差はありますが、6~8時間程度を目安にしっかりとよく寝て、生活習慣病のリスクを少しでも下げていきましょう。
ただし、食べてすぐ寝るのは避けましょう。胃酸の逆流を招き、気持ち悪さを引き起こすことがあります。
食べ過ぎて気持ちが悪いときには、いっそのこと吐いたほうが楽になると思うかもしれませんが、無理やり嘔吐するのはやめたほうが良いでしょう。
嘔吐をすると水分も排出され、脱水状態になる可能性があります。体内のミネラルバランスが崩れ、別の体調不良を招くことも。また、嘔吐物による誤嚥※が起こり、そこから肺炎を起こすこともあります。
※誤嚥(ごえん):食べ物などが誤って喉頭と気管に入ってしまう状態
食べ過ぎにつながりやすい習慣を改善できると良いでしょう。
例えば、早食いは食べ過ぎにつながりやすいといわれています。早食いをすると満腹感を得る前にたくさんの量を食べてしまうため、食べ過ぎになりがちです。ゆっくり時間をかけて、よく噛んで食事をしましょう。
また、間食(おやつ)の摂り過ぎにも要注意です。おやつを食べることには喜びや楽しみがありますが、おやつとして食べる機会が多いお菓子は、基本的に脂肪や炭水化物で構成されています。脂肪の多い食べ物は消化に時間がかかり、胃もたれや胸やけなど気持ち悪さを生じさせる症状のきっかけにもなります。
ゆっくりよく噛んで食べることを心掛けつつ、日々の食事の内容にも気をつけていきましょう。
食べ過ぎや飲み過ぎによる気持ちの悪さやむかつきには、さまざまな原因があります。食べ過ぎて気持ちが悪くなった場合は、しっかり休息を取ることを基本にし、胃腸を休ませつつ、消化の良い食べ物を食べるようにしましょう。
また、早食いは食べ過ぎの原因となります。その他、脂肪の多い食べ物を控える、おやつを食べ過ぎないなど、普段の食生活に気をつけることが大切です。
場合によっては市販薬を使うのも一つの方法です。用法・用量を守り、正しく服用しましょう。