監修:
福渡 努 先生 (滋賀県立大学 人間文化学研究院 教授/日本ビタミン学会 幹事/ビタミンB研究委員会 委員)
年末から年始にかけては仕事納めやイベントなどで忙しく、だるさや肩こり、胃もたれなどの体調不良の経験のある方が多いのではないでしょうか。そんな「正月疲れ」の原因は下記が考えられます。
年末年始はクリスマスや忘年会・新年会など、会食の機会が多い時期です。アルコールにおつまみ、締めの炭水化物など、ついつい食べ過ぎる、飲み過ぎることも少なくないでしょう。
食べ過ぎや飲み過ぎによって消化不良が起こると、胃のもたれや漠然とした不快感が生じることがあります。
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年末年始の会食では、お酒に合うおつまみなどで塩分や脂質を摂り過ぎてしまいがちです。また、おせち料理も塩気が強いものが多く、野菜が不足しやすくなります。
野菜にはビタミンやミネラルなど、健康に欠かせない栄養素が多く含まれています。野菜不足などにより特定の栄養素が不足すると、さまざまな不調が現れやすくなります。
イベントで夜が遅くなる、年末年始の休日に昼まで寝ているなど、生活リズムが乱れることでも体調不良が生じやすくなります。
不規則な生活を送っていると、夜に寝付けない、昼間に眠くなるなどの睡眠トラブルが起こります。これは、体内時計の時刻が現実である外界の時刻とずれてしまった状況ですが、無理に合わせようとすると、眠気、だるさ、食欲不振などの不調が生じてしまうのです。
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年末年始は会食やイベントの他にも、掃除や買い物などしなければならないことが多くあります。休息が十分に取れないと疲れが溜まってしまい、だるさなどを感じることがあります。
年末年始を含む冬は日照時間が短く、日光を浴びることで分泌される「セロトニン」という神経伝達物質や「ビタミンD」が不足しやすくなります。セロトニンが不足すると気分の落ち込みなどの精神的な症状が現れることがあります。また、ビタミンDが不足すると筋肉や骨が弱る原因になります。
気温が低いと血流が悪くなり、冷えや肩こりが生じやすくなります。また、室内と室外の寒暖差が激しいと、体温の調節を司る自律神経が乱れ、疲れやすさや倦怠感などが生じることがあります。
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年末年始に以下のような症状が現れたら、休養する、生活リズムや食事を見直すなどの対策を取りましょう。
多忙による肉体的な疲労、自律神経の乱れ、睡眠障害、栄養の偏りなどがあると疲れやすくなり、体が重い、疲れが抜けないといっただるさ・倦怠感が生じることがあります。
だるさ・倦怠感は、肉体的な疲労によるものと精神的な疲労によるものに大別することができます。肉体的な疲労がある場合は休息や睡眠をしっかり取る、ストレスなど精神的な疲労がある場合は趣味や運動などでのリラクゼーションが主な対処法となります。
肉体疲労時には、ビタミンB1などのビタミンB群が不足している場合があり、だるさ・倦怠感が生じることもありますので、食事の内容を見直すことも重要です。
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塩分を摂り過ぎたりアルコールをのみ過ぎたりすると、体に余分な水分が溜まってむくみが生じることがあります。ただし、むくみの原因はさまざまで、何らかの病気が原因でむくみが起こる場合もあります。セルフケアで改善しない場合やパンパンにむくむなど症状が強い場合は医療機関の受診も検討しましょう。
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正月疲れの症状は、セルフケアで解消・軽減が可能です。食生活などの生活習慣を改善することがセルフケアの基本となりますが、難しい場合はサプリメントや市販薬を活用するのもよいでしょう。
胃腸の調子がすぐれない場合、食物繊維や脂質が少なく消化しやすいものを食べましょう。例えば青菜、じゃがいも、鶏のささみ、白身魚などは消化の良い食品です。
調理方法は、やわらかく調理する、食材を小さめにカットする、油を少なめにすることがポイントです。消化の良い料理の例としては、うどんやお粥、煮魚、鍋、プリンなどが挙げられます。
反対に、塩味・甘味・酸味の強いもの、香辛料を多く使うもの、アルコールやコーヒーなどの嗜好品は胃酸の分泌を促進してしまうため、胃腸の調子が悪いときは避けるようにしましょう。
おせち料理をはじめとした年末年始の食事では、野菜が不足しがちです。野菜には皮膚や骨の形成にかかわるビタミンCや、塩分の排出を助けるカリウムなど、欠かせない栄養素が多く含まれています。
野菜不足を補うには、お雑煮に野菜を多めに入れる、筑前煮や煮しめなど根菜料理も一緒に食べるなど正月ならではの料理で工夫するのも良い方法です。ただしビタミンCは熱に弱い性質があるため、生の野菜や果物も摂るようにしましょう。
「会食で夜が遅くなることが続く」「年末年始休暇で昼まで寝ている」など生活リズムが乱れているような場合、朝は決まった時間に起きて夜に眠るといった規則正しい生活をするようにしましょう。朝の起床後に日光を浴びることで体内時計が整い、睡眠トラブルの解消や疲労の回復につながります。屋外に出られない場合はカーテンを開ける、照明をつけるだけでも効果が見込めます。
また、食べ過ぎや飲み過ぎ、就寝直前の食事は避けるようにしましょう。
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適度な運動は抗うつ効果のあるホルモンの分泌を促し、ストレスを軽減させます。屋外で運動することで日光にあたり、セロトニンを分泌させることもできます。
また、運動やストレッチ、入浴は血行を良くするため、冷え症やむくみの解消にも効果的です。ただし就寝直前に運動や入浴を行うと寝つきが悪くなってしまいます。入浴は熱い湯を避け、就寝の2〜3時間ほど前に済ませておきましょう。
忙しくてセルフケアの時間が取れない場合などは、サプリメントやビタミンを含有する市販薬を活用するのも一つの方法です。食事から摂りづらい栄養素を補うこともできます。ただし市販薬の服用にあたっては添付文書をよく読み、症状が改善しない場合や悪化する場合は医療機関を受診しましょう。
ビタミンB群は疲労と関係があるビタミンです。特にビタミンB1は密接に関係しており、アルコールの代謝にもビタミンB1が使用されるため、飲酒量が多い場合はより積極的に補給するようにしましょう。
ビタミンB群にはさまざまなビタミンが属していますが、なかでも豚肉や玄米などに多く含まれるビタミンB1は糖をエネルギーに変える働きを持っており、疲労と関連が強いビタミンです。
ビタミンB1が不足すると、細胞でエネルギーが十分に作られなくなり、だるさなどの原因となってしまいます。また、ビタミンB1は食事から摂った場合に、一定の量しか体に吸収されないという難点があり、不足しやすいビタミンと言われています。市販薬では体に吸収されやすく改良したビタミンB1誘導体であるフルスルチアミンが配合されているものもあります。
その他、ビタミンB2は主に脂質の代謝に、ビタミンB6は主にアミノ酸の代謝にかかわっています。ビタミンはそれぞれが協力しなから働いており、不足すると疲れが生じやすくなります。
市販薬のなかには、疲労を効果的に回復できるよう複数のビタミンを組み合わせた製品もあります。
ビタミンCは皮膚や骨の形成・修復にかかわるビタミンで、不足するとだるさや疲れやすさ、歯ぐきなどから出血しやすくなります。野菜や果物に多く含まれていますが熱に弱く調理で失われやすい性質があります。食べ物からビタミンCを補給する場合は生で食べることが重要ですが、食物だけで目安量を摂取できない場合、サプリメントや市販薬を活用してみましょう。
ビタミンDには骨・筋肉の形成、カルシウム・リンの吸収といった働きがあり、不足すると骨や筋肉が弱くなり、筋力が低下したり痛みを感じたりすることがあります。
ビタミンDは食事(特にきのこ類や魚介類など)から摂取できる他、日光に当たることにより皮膚で生成されます。ただし日焼け止めを塗ったり皮膚を服で覆ったりすると生成できなくなります。そんなときは、サプリメントや市販薬も活用してみましょう。
ただし、ビタミンDを大量に摂取すると中毒を起こすこともあるため、服用にあたっては注意が必要です。
市販薬では用法・用量を守り、添付文書をよく読むようにしましょう。
肉体疲労などの栄養補給に(※15歳以上)
カルシウムやマグネシウムなどのミネラルも、疲労や気分の落ち込みに関係があります。塩分の排出を助けるカリウムも、特に塩分過多になっている場合は積極的に摂りたいミネラルです。
ミネラルは体内で作り出すことができず、また吸収や作用には相互に関連し合うため、食品などからバランスよく補給する必要があります。
複数のミネラルが配合されたサプリメントや市販薬も販売されていますので、活用してみましょう。ただし過剰に摂取すると中毒を起こす危険もあるため、添付文書をよく読んで服用するようにしましょう。
肉体疲労などの栄養補給に(※15歳以上)