監修
内藤 裕二 先生 (京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座教授/一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会理事長)
発酵性食物繊維とは、食物繊維のなかでも、腸内細菌によって分解・発酵されやすい(利用されやすい)食物繊維のことです。腸内環境改善に役立つ働きがあることが知られています。
発酵性食物繊維について詳しく解説する前に、まずは、食物繊維そのものについてお話しします。
炭水化物は、人の消化酵素で消化できる「易消化(えきしょうか)性炭水化物」と、消化できない「難消化(なんしょうか)性炭水化物」に分類されますが、このうち「難消化性炭水化物」が食物繊維です。便通の改善や、糖や脂肪の吸収を抑え、血糖値やコレステロールの上昇を抑えるなど、私たちの体に有用な働きをする重要な栄養素です。
| 炭水化物 | |
|---|---|
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そもそも、人は生命の維持・活動のために必要な栄養素のほぼ全てを、食べ物から得ています。通常、私たちが食べたものは、消化され、腸内で吸収されますが、食物繊維は、消化されないまま大腸に到達し、体内に吸収されません。このため、以前は、食物繊維が体に必要な栄養素だとは考えられていませんでした。
しかし、研究が進んで「消化できずに大腸にまで届く」ということが、むしろ健康に寄与していることが判明し、その重要性がますます注目されるようになってきました。
近年では、食物繊維が腸内細菌のエサとして利用されることで発生する、酪酸や酢酸、プロピオン酸といった「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」が脚光を浴びています。
食物繊維は、便秘予防だけでなく、全身の健康状態の改善を目指そうとする際に、欠かせない存在です。
食物繊維は、これまで水に溶ける性質の「水溶性食物繊維」と、水に溶けない性質の「不溶性食物繊維」の二つに分けるという考え方が主流でした。
しかし最近、食物繊維の持つ健康効果の多くは、炭水化物(食物繊維)が腸内細菌によって発酵することで増える、「短鎖脂肪酸」によるものということが明らかになってきました。その結果、水に溶けるか溶けないかという違い以外に、「腸内細菌に利用されやすいか、されにくいか」すなわち、発酵されやすいかという視点も注目されるようになりました。
上述の通り、食物繊維を水溶性と不溶性に分ける方法は、今では少し古い考え方とされるようになってきました。ただし、現在も広く定着しているため、簡単に紹介します。
| 分類 | 水溶性食物繊維 | 不溶性食物繊維 |
|---|---|---|
| 特徴 | 水に溶けやすく、溶けるとゼリー状になる食物繊維 | 水に溶けにくく、水分を吸収して膨張する食物繊維 |
| 主な働き | 糖質や脂肪の吸収速度を緩やかにしたり、コレステロールを吸着し便とともに体外に排出させたりすることで、血糖値やコレステロールを低下させるように働く | 腸の中では、便のかさを増やし、大腸のぜん動運動※1を活発にすることで、排便を促進するように働く (有害な物質を吸着して便とともに排出するため、大腸がんのリスク低下にも関与すると考えられている) |
| 発酵性 | 水溶性食物繊維は、大腸の中で腸内細菌のエサとなって発酵されやすい傾向があり、発酵性食物繊維に該当することが多い | 不溶性食物繊維は、水溶性食物繊維に比べると、腸内細菌のエサになりにくく、発酵されにくい ※不溶性食物繊維の全てが非発酵性というわけではない |
※1 腸の内容物を先へ先へと運ぶための運動
なお、不溶性食物繊維には非発酵性が多いのは確かですが、全てがそうだとは限りません。玄米、米ぬか、トウモロコシ、ライ麦、オーツ麦などに含まれる食物繊維の種類「アラビノキシラン」のように、不溶性でも腸内細菌によって発酵される食物繊維もあります。
発酵性食物繊維に対し、腸内細菌のエサとして利用されにくい、非発酵性(難発酵性)の食物繊維もあります。ここでは発酵性による分類を紹介します。
| 分類 | 発酵性食物繊維 | 非発酵性(難発酵性)食物繊維 |
|---|---|---|
| 特徴 | 腸内細菌のエサとなることで、発酵・分解されやすい食物繊維 | 腸内細菌のエサとして利用されにくく、発酵・分解されにくい食物繊維 |
| 主な働き | 発酵によって、酪酸・酢酸・プロピオン酸といった短鎖脂肪酸が産生され、さまざまな健康効果を発揮 ※後述 |
大腸のぜん動運動を活発にすることで、排便を促進するように働く 一方、ヒトの腸内細菌で分解も代謝もできない「非発酵性」であるため、短鎖脂肪酸はあまり産生されない |
| 食物繊維の種類 | ペクチン、イヌリン、β-グルカン、オリゴ糖など | セルロース、リグニンなど |
| 豊富に含む食材 | りんご、キウイ、ごぼう、玉ねぎ、大麦、大豆、さつまいもなど | ごぼう、枝豆、小麦ふすま、全粒粉パンなど |
【プチメモ】なぜ最近になって発酵性食物繊維という分類ができたの?
食物繊維は他の栄養素のように、物質の構造に基づいて定義づけられたものでなく、人の大腸の中での動態(振る舞い)によって定義づけられた栄養素です。そのため、分析方法の進歩などにより、食物繊維に含まれる範囲(食品中の含有量)も変化することがあります。そのような変化も一例ですが、食物繊維については今でも精力的な研究が続けられていて、「発酵性」という視点も研究の進歩とともに、重視されるようになってきたということです。
栄養素の分類上は、食物繊維は炭水化物に含まれるとされています。食物繊維以外の炭水化物は、1gあたり4kcalのエネルギー(カロリー)があるのですが、非発酵性の食物繊維は消化・吸収されないために、それ自体はエネルギーはありません。ただし、発酵性食物繊維に関しては、発酵の過程でエネルギーが生まれます。
発酵分解率と呼ばれる、食物繊維が大腸に到達してから分解を受ける割合をもとに考えると、そのエネルギー量は、腸内細菌による発酵分解率が25%未満の食物繊維は0kcal、25%以上75%未満のものは1gあたり1kcal、75%以上のものは同2kcalと計算することができます。また、発酵分解率が75%以上(2kcal/g)の食物繊維は、「高発酵性食物繊維」と呼ばれています。
発酵性食物繊維の大きな特徴は、腸内細菌のエサとなる(代謝される)ことで発酵されて、それによって短鎖脂肪酸が生まれることです。
近年の研究により、腸内細菌が作り出す代謝物のなかでも、短鎖脂肪酸はより重要であり、私たちの健康維持とも関わりが深いことがわかってきました。短鎖脂肪酸は、腸内細菌の代謝によって産生される物質のなかでも、極めて重要な存在です。

短鎖脂肪酸とは、脂肪酸に炭素が2~6個ついている構造の脂肪酸のことで、主に酢酸(さくさん)・プロピオン酸・酪酸(らくさん)の3つが該当します。
酢酸は、食物繊維をビフィズス菌などが資化(栄養として利用)することで産生されます。産生された酢酸は、腸内を酸性にして有害菌が増えるのを抑えたり、エネルギー消費量を増やすように働きます。また、腸壁の内側を覆っている細胞のダメージを修復し、有害な物質が体内に侵入するのを防ぐように働くこともわかってきました。
なお、お酢の主成分は酢酸ですが、口から摂取した酢は胃腸で吸収されてしまうため、腸内細菌がいる大腸には到達しません。
プロピオン酸は、食欲を抑制するホルモンの分泌を促す他に、神経保護作用、スポーツのパフォーマンス(持久力)向上作用などが報告されています。また、肝臓などでの糖新生(ブドウ糖〈血糖〉を作り出すこと)にも、プロピオン酸が使われます。さらに大腸では、善玉菌(有用菌、以下善玉菌)の一種であるビフィズス菌を増やすことなどによって、整腸作用を発揮します。
酪酸は、ぎんなんの臭いの元となる成分です。酪酸は、短鎖脂肪酸のなかでも、特に健康効果が大きいことがわかってきています。
例えば、腸の粘膜のエネルギー源となってぜん動運動を助けたり、免疫機能を整えて感染症やアレルギーを抑えるよう働いたりします。
また、大腸のバリア機能に必要な粘液の産生を促して、バリア機能を高めるようにも働きます。さらに、がん細胞の増殖抑制、老化抑制などとの関連も報告されてきています。
長寿国として位置付けられている日本でも、特に長寿の人が多いことが知られる京都府京丹後市では、長寿の原因を探る住民対象の研究が続けられています※。その研究では、腸内細菌に占める酪酸産生菌(発酵性食物繊維などを代謝することで酪酸を生み出す細菌)の割合が高いことが、長寿の関連因子であることが明らかにされています。
2025年ノーベル生理学・医学賞の受賞で有名になった「制御性T細胞」は、この腸内細菌の産生する酪酸によってナイーブT細胞から分化・誘導されることが明らかにされています。
※京丹後長寿コホート研究:京都府立医科大学が中心となり、長寿地域である京丹後市で、65歳以上の住民を対象に長期間にわたる健康調査を行い、健康長寿の秘訣を明らかにする疫学研究。2017年より健康データを蓄積し、全国の13大学と連携している。
| 分類 | 食品 | 主な発酵性食物繊維 | 一般的な摂取量(g) | 含有量(g) |
|---|---|---|---|---|
| 主食 | そば(ゆで) | アラビノキシラン | 200 | 3.6 |
| 押し麦めし | βグルカン | 麦めし50+白米100 | 2.3 | |
| オートミール | βグルカン | 30 | 1.5 | |
| 野菜 | ごぼう(ゆで) | イヌリン | 40 | 3.82 |
| じゃがいも(皮付き、ゆで) | レジスタントスターチ | 50 | 0.95 | |
| 果物 | バナナ | レジスタントスターチ | 75 | 2.33 |
| アボカド | ペクチン | 60 | 1.02 | |
| 豆 | 大豆(国産、乾) | オリゴフルクトース | 40 | 2.04 |
| きな粉 | オリゴフルクトース | 16 | 1.22 |

発酵性食物繊維は、多く含まれる一つの食材にこだわらず、さまざまな食品から摂取を心がけるのが、より理想的な摂り方といえます。
発酵スピードの異なる食物繊維を摂取することで、急激なガス発生を抑えるとともに、腸の広い範囲で発酵が起こり、善玉菌が増える範囲も広がることが考えられます。
また、腸内の有害物質の排出には、非発酵性食物繊維も必要です。発酵性食物繊維だけを摂れば良いということではありません。
バランスの良い食事を意識しつつ、多様な食材から発酵性食物繊維を摂るようにしましょう。
腸に届く食物繊維の量を維持していくには、継続的に摂取する必要があります。毎日摂取することで、腸内細菌が食物繊維をエサとして利用可能な状態が続きます。
好ましい腸内フローラ(腸内に多種多様な細菌の集団)のバランスの維持には、短期間だけ集中して食生活を変えるのではなく、健康的な食事スタイルを日々続けることが重要と考えられます。

よく知られているように、ヨーグルトなどの発酵食品には、健康増進につながる善玉菌(乳酸菌やビフィズス菌など)が含まれています。食物繊維(プレバイオティクス)の持つ健康効果の多くは、そのような善玉菌のエサとなることで発揮されます。そのため、発酵性食物繊維の豊富な食品と発酵食品の組み合わせは、健康効果の期待という点で、より適した食事の摂り方といえます。
この、発酵食品などのプロバイオティクスとそのエサとなる食物繊維などのプレバイオティクスの両方を取り入れていくことを、「シンバイオティクス」といい、効率的に腸内細菌を増やしていく方法として注目を集めています。
なお、食品に含まれている善玉菌も、数日で腸を通過していってしまいます。そのため、やはり毎日摂取することがすすめられます。
発酵性食物繊維には健康上のさまざまなメリットがありますが、その一方で、腸が敏感な人はお腹がゴロゴロしやすくなることがあります。
ただしこれは、発酵性食物繊維の影響というよりも、腸内細菌による発酵スピードが速い炭水化物である「FODMAP(フォドマップ)」の影響といえます。
FODMAPとは、発酵性のオリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオール(Fermentable Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides, and Polyols)の英語の頭文字。このFODMAPが短時間で大量に腸に入って発酵が一気に進むと、発酵によってできたガスが腸を刺激するというメカニズムで、お腹がゴロゴロしやすくなります。これは、あくまで発酵スピードの速さの問題によるもので、発酵自体が悪いのではありません。
発酵性食物繊維とFODMAPはイコールではないものの、お腹のゴロゴロが気になる場合には、オリゴ糖などを避けたほうが良いかもしれません。
なお、先ほどお話ししたように、食材の偏りをなくし、発酵スピードが異なる発酵性食物繊維を摂るようにすることで、発酵が急激に進む現象が抑制されます。
食物繊維や発酵食品の積極的な摂取に加えて、規則正しい食習慣を続けることも大切です。例えば、食べすぎたり飲みすぎたりせず、また反対に食べる量が少なすぎることも良くありません。
食事のバランスとは、エネルギーのバランス、栄養素のバランス、食べる時間帯のバランスの3点のこと。このうち時間帯のバランスという点では、朝食を欠食しないことや就寝前の食事を避けることが大切です。食物繊維を摂取することを意識しすぎて、栄養素のバランスが崩れてしまわないよう、注意しましょう。
便秘対策としての腸活では、水分をしっかり摂ることも大切。それによって食物繊維が水分を吸収し、便のかさが増えて便通が良くなります。

運動を行うと消化管の動きが活発になり、反対に、運動不足やそれにともなう筋力の低下は、腸の正常な活動に悪影響を及ぼしてしまいます。
睡眠の質が腸内フローラに影響を及ぼすことが報告されています。睡眠習慣の改善も、腸活の大切なポイントです。
時間に追われたストレスフルな生活は、消化管の活動を妨げてしまいます。腸は「第二の脳」と呼ばれ、また、腸と脳の間には密接な関連(脳腸相関)があることも明らかになっています。つまりメンタルヘルスのためにも、腸活が大切です。
腸の筋肉のぜん動運動は、自律神経の働きで起こるものであり、自分の意思で腸を動かすことはできません。一方で、お腹の外から刺激を与えることは可能です。
お腹をもんだりさすったりして、外から腸を刺激する「腸マッサージ(腸もみ)」も、腸活として取り入れてみると良いでしょう。なお、腸マッサージの注意点として、食後は避けること、妊娠中の女性や消化器の病気のある人は医師に相談した上で行うことなどが挙げられます。
<腸もみの詳しいやり方は以下の記事をチェック>
腸マッサージ(腸もみ)は便秘解消に効果的?やり方や注意点を紹介
善玉菌のビフィズス菌や乳酸菌、酪酸菌が含まれているサプリメントや整腸剤の活用も、腸内環境の改善につながります。
特に、食物繊維の健康効果の多くに関係している短鎖脂肪酸である酪酸を産生する「酪酸菌」を含んでいる食品はごく限られていて、普段の食事を工夫したとしても十分摂取することは難しいことも。酪酸菌が配合された整腸剤を活用してみるのも良いかもしれません。
届出表示:本品に含まれるビフィズス菌MCC1274(B. breve)は、健常な中高年の方の加齢に伴い低下する認知機能の一部である記憶力※、空間認識力を維持する働きが報告されています。
※記憶力とは、見たり聞いたりした内容を記憶し、思い出す力のことです。
食事に追加して発酵性食物繊維を1日2.9g摂取すると腸内での発酵が高まるという研究報告があります。
また、それとは別の研究では、1日2.1gの追加摂取で短鎖脂肪酸の一種である酪酸や酪酸産生菌が増加すると報告されています。これらをあわせて考えると、現時点では、「いつもの食事に+3g以上」が一つの目安になると考えられます。
発酵食品は食品の分類の一つであり、発酵性食物繊維は栄養素の分類の一つであって、「食品」か「栄養素」かという点で異なります。発酵食品の中には発酵性食物繊維を含むものもありますが、基本的には別物です。
発酵食品とは、微生物の発酵によってつくられる食品の総称です。発酵という手を加えることで、元の食材よりもおいしさや栄養価を高められます。
例えば、大豆を発酵させた味噌、牛乳を発酵させたヨーグルト、野菜を発酵させたぬか漬け・キムチなどが、発酵食品に該当します。

“腸活”に欠かせない食物繊維。その食物繊維に関するこれまでの認識が、大きく変わってきています。
従来は主に便秘の改善効果との関連で、「水に溶けるかどうか」という違いが語られることが多かったのですが、食物繊維には便秘改善以外にもさまざまな健康効果があることがわかってきました。
そして今では、「発酵性があるかどうか」という点が、食物繊維の持つさまざまな健康効果の発現に重要であると考えられるようになりました。さらに、発酵によって生み出される短鎖脂肪酸の役割が、ますます重視されてきています。
ぜひ、これらの新しい知見を日々の腸活に採り入れて、健康づくりに役立ててください。
参考文献
内藤裕二「健康の土台をつくる腸内細菌の科学」,2024