監修
馬場 敦志 先生 (宮の沢スマイルレディースクリニック 院長)

ホットフラッシュは、更年期に多くみられる代表的な症状のひとつです。特別な疾患などがないのに、突然顔や上半身がカーッと熱くなったり、のぼせたり、大量の汗をかいたりするのが特徴です。
ホットフラッシュの原因は一つではなく、様々な要因が複雑に絡み合っています。
更年期になると、卵巣の機能が低下し、女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減少します。すると、ホルモンの調整をつかさどる視床下部が混乱し、自律神経にも影響を及ぼします。自律神経は、体温や発汗、呼吸や消化、脈拍、血圧などをコントロールし、一定に保つ働きをしています。自律神経の働きが乱れることで、ほてり・のぼせなどの不調が現れるのです。その他の要因を含めて、のちほど詳しく説明します。
ホットフラッシュの主な症状は以下の通りです。
急にほてったり発汗したりすることで、睡眠が阻害されたり、外出が不安になったり、日常生活に支障をきたす場合も少なくありません。
ホットフラッシュの症状は、一般的に45~55歳頃に出やすいといわれています。
この年齢は日本人の平均閉経年齢である50.5歳の前後5年間、いわゆる「更年期」にあたります。
ただし、閉経を迎える年齢には個人差があり、それに伴って更年期も前後します。上記の年齢は、あくまで目安の一つと考えておきましょう。
ホットフラッシュの症状が出やすい特定の時間帯というものは、特に報告されていません。日中の活動時だけでなく、就寝中に突然起こることもあり、時や場所を選ばないのが特徴です。夜間に症状が出ると、睡眠の質を下げる原因にもなります。
ホットフラッシュの症状が出やすい環境としては、緊張した時やストレスを感じた時などが挙げられます。
ホットフラッシュは、前述の通り自律神経の乱れにより、体温調節が不安定になることが主な原因です。そのため、緊張やストレスなどで自律神経に負荷がかかり、症状が現れやすくなります。
また暖房の効きすぎた部屋や、辛い食べ物・アルコールを摂取した際など、体温が上昇した際にも出やすくなる傾向があります。
ホットフラッシュと自律神経の関係については、この後詳しく解説します。
ホットフラッシュは、基本的には季節に関わらず症状が起こります。
ただし、気温が高くなる夏場は体温調節がより難しくなるため、人によっては症状が強く感じられたり、汗が引きにくくなったりすることもあるでしょう。
ホットフラッシュの発症には様々な要因が複合的に影響していますが、直接関わっているのは、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの急激な減少による自律神経の乱れと考えられます。
自律神経は、自分の意思とは関係なく、心拍、呼吸、消化、体温調節などを24時間365日、休むことなくコントロールしています。
自律神経には交感神経と副交感神経があり、二つが交互に切り替わりながらバランスをとっています。
通常は暑ければ血管を拡張させて熱を逃がし、寒ければ血管を収縮させて熱を蓄えます。しかし、自律神経が乱れると体温調節のコントロールが不安定になります。その結果、本来必要のないタイミングで急激な血管の拡張が起こり、ホットフラッシュとして症状が現れるのです。

更年期に自律神経の乱れを引き起こす主な原因は以下の通りです。

女性ホルモンは、脳の視床下部からの指令によって、主に卵巣から分泌されます。卵巣機能が低下すると、視床下部がいくら指令を出し続けても、卵巣はそれに応えることができず、エストロゲンは急激に減少してしまいます。
さらに、卵巣が指令に応えない事態に対して視床下部がパニックを起こし、その影響が隣接する自律神経の中枢にまで波及します。これにより、自律神経が司る体温調節がうまくいかなくなり、ホットフラッシュが引き起こされるといわれています。
運動不足の状態が続くと全身の血流が低下しやすくなり、体温を一定に保つための調節機能にも影響を及ぼす可能性があります。適度な運動は、自律神経の切り替えをスムーズにする助けとなります。
また、レジスタンストレーニング※を含む運動を取り入れることで、ホットフラッシュの頻度が減少する傾向にあるという報告もあります。
※レジスタンストレーニング:筋肉に負荷をかける動作を繰り返し行う運動のこと。スクワットや腕立て伏せ、ダンベル体操など。
睡眠不足が続くと、自律神経のうち、心身を活動モードにする交感神経が優位になりやすいことがわかっています。こうした状態では、体が緊張状態から抜け出せないため、深い眠りが妨げられる悪循環に陥る可能性もあります。
そのほか、近年の研究では、夜間に目が覚めること(覚醒)そのものがホットフラッシュを引き起こすという可能性が示唆されています。つまり、「暑い」と感じて目が覚めるのではなく、「目が覚めることがきっかけとなってホットフラッシュが生じる」ケースも少なくないと考えられています。
睡眠は、本来、リラックス状態に導く副交感神経を優位にし、心身を回復モードへ導く大切な時間です。睡眠不足というホットフラッシュの間接的な要因を減らすためにも、日々の生活の中で、睡眠時間と睡眠の質の両方を意識しながら、十分な休息を心がけましょう。
ストレスは、交感神経と副交感神経のバランスを乱す大きな要因です。強いストレスが続くと、自律神経の切り替えがうまくいかなくなり、心身にさまざまな不調を引き起こします。
特に更年期においては、ホルモン変動の影響で自律神経が不安定になりやすく、ホットフラッシュや動悸といった症状が強まることもあるため、意識的にリフレッシュする時間を持つことが大切です。
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・ストレス
更年期症状の一つである「ホットフラッシュ」を和らげるため、日常生活で取り入れやすい対処法をご紹介します。
まずは、三食バランスよく食べることが基本です。特に、「大豆イソフラボン」を意識しましょう。納豆や豆腐などの大豆製品に含まれる大豆イソフラボンは、エストロゲンに似た働きをしてくれるため、積極的に摂るのがおすすめです。
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ウォーキングやストレッチなどの軽い有酸素運動は、血行を促進し自律神経を整えるのに有効です。
睡眠は心身を整える大切な時間です。寝る前のスマートフォンを控えたり、ぬるめのお湯に浸かってリラックスしたりと、スムーズに入眠できる環境を作り、十分な睡眠時間を確保しましょう。

急な温度変化に対応できるよう、以下のような服装の工夫をするのも有効です。
その他、汗をかいてしまった時に備えて、汗が目立ちにくい素材や色の服を選ぶのも外出時の安心感につながります。
腹式呼吸は「深くてゆっくり」とした呼吸であるため、副交感神経を優位にし、リラックスさせる効果が期待できます。ストレスを感じた時やリフレッシュしたい時に最適です。

1. 背筋を伸ばしてお腹に手を当て、鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹を膨らませる
2. 吸った時間の2倍の時間をかけるイメージで、口から細く長く息を吐き出し、お腹をへこませる
3. この動きを1日5回くらいから始め、慣れたら1日10~20回を目安に無理のない範囲で続ける
近年、更年期症状へのアプローチとして漢方薬や生薬製剤が有効であるという報告が増えています。
漢方薬とは、漢方医学の考え方にもとづき、複数の生薬(しょうやく:漢方薬の原料)を組み合わせた薬のことです。1剤に複数の有効成分が含まれているため、多様な症状に効くのが特徴です。
また、婦人科系の悩みに用いられてきた漢方処方の構成生薬を配合した生薬製剤などを活用する方法もあります。漢方薬は複数の生薬の組み合わせで体全体を整えるものであるのに対し、生薬製剤は特定の生薬の作用を期待して用いられます。
ホットフラッシュを含む更年期症状には、以下のような漢方薬やその配合生薬を含有した生薬製剤が用いられます。
このうち、「当帰芍薬散」「加味逍遙散」「桂枝茯苓丸」は“婦人科三大処方”と呼ばれ、更年期症状や冷え、むくみなどさまざまな不調に対応するといわれています。その他、婦人科系の悩みに用いられてきた「四物湯」や、「四物湯」と「苓桂朮甘湯」を組み合わせた「連珠飲」などもあります。
漢方薬単体で用いる他、医療機関での治療としては、ホルモン補充療法と組み合わせて処方されることもあります。漢方薬の配合生薬を含有した生薬製剤については、この後ご紹介します。
前述した当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、連珠飲に含まれる生薬を中心に主な特徴をまとめました。
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生薬名 |
特徴 |
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当帰(トウキ) |
血(けつ:全身を巡り、栄養を与えるもの。主に血液)を補い、巡りを良くして冷えや痛み、月経不順を整える |
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芍薬(シャクヤク) |
筋肉の緊張を和らげ、痛みや月経不順を改善する |
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川芎(センキュウ) |
うっ滞した気を巡らして血流を良くし、頭痛やめまいなどの不快感を鎮める |
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地黄(ジオウ) |
体に潤いと栄養を与え、熱を取り除く |
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茯苓(ブクリョウ) |
余分な水分の排出や水分代謝を促し、むくみや張りを改善したり、胃の水分代謝機能を整える |
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桂皮(ケイヒ) |
いわゆる「シナモン」。気を下げることで熱を体全体に分散させ、のぼせや痛み、月経不順を緩和する |
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蒼朮(ソウジュツ) |
うっ滞した気を巡らし水分の巡りを整え、胃腸機能を高めたり体の重だるさを緩和させる |
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甘草(カンゾウ) |
せきを鎮めたり炎症を抑えたりする作用があり、主に胃腸機能を整え緊張を緩めたり、鎮痛に役立つ |
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香附子(コウブシ) |
気を整え気分の落ち込みを解消する。月経を整え痛みを緩和する |
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人参(ニンジン) |
元気を補う代表格。胃腸機能を高めることで消化を促進し、体力をつける。疲れやすい体や弱った胃腸を元気にする |
婦人科系の悩みに用いられている漢方処方「四物湯」の構成生薬であるトウキ・シャクヤク・センキュウ・ジオウなどを配合した生薬製剤なども選択肢の一つです。
更年期でなくても、ホットフラッシュが起こることはあります。
ホットフラッシュはエストロゲンが大きく減少した時だけでなく、月経周期などの影響でホルモンバランスが不安定に変動した際にも起こることがあるためです。
また、ストレスや過労、自律神経失調症など、ホルモン以外の要因で自律神経が乱れた際にも、ホットフラッシュのようなほてりやのぼせなどが生じることがあります。
さらに、病気の治療薬の影響で症状が出るケースもあります。
ホットフラッシュは男性にも起こることがあります。
これは「男性更年期障害(LOH症候群)」によるもので、加齢に伴い男性ホルモン(テストステロン)が低下することによって、のぼせや発汗などの症状が現れます。ホルモンのゆらぎは、男女問わず自律神経に影響を与えるのです。
ホットフラッシュのせいで日常生活に支障がある、夜眠れない、セルフケアで改善しないといった場合は、婦人科を受診しましょう。
なかには、病気が隠れている場合もあります。我慢せず、相談に行くつもりで受診してみましょう。
なお、医療機関でのホットフラッシュ治療のファーストチョイス(第一選択)は、減少した女性ホルモンを薬によって補う「ホルモン補充療法(HRT)」です。こちらは健康保険が適用される標準的な治療法です。
症状に応じて、ホルモン補充療法と漢方薬を組み合わせて治療することもあります。
ホットフラッシュに似た症状が起こりやすい病気をいくつか挙げます。
※以下の疾患は、医師の診断が必要です。心配な場合には、早めに医療機関を受診しましょう。
甲状腺機能亢進症では、甲状腺ホルモンが過剰になり、代謝が異常に高まります。そのため、多汗や動悸、体重減少などが起こります。甲状腺機能亢進症の原因の一つとして、バセドウ病が知られています。
自律神経失調症では、ストレスなどにより交感神経と副交感神経のバランスが崩れてしまいます。そのため、体温調節がうまくいかなくなることがあります。
高血圧では、血圧の急激な変動が起こります。そのため、顔のほてりや頭重感を感じることがあります。
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・血圧が高めである

ホットフラッシュは、女性ホルモンの急激な変動によって起こる更年期症状の一つで、時間の経過とともに軽快していくケースが多いとされています。一方で、個人差はありますが、症状が長く続く方もおり、つらさを我慢し続ける必要はありません。
生活習慣の見直しや服装の工夫による体温調節、生薬製剤や体質に合わせた漢方薬の活用など、上手なつき合い方を見つけることが大切です。
自分に合ったセルフケアを取り入れて、少しでも快適な毎日を過ごしていきましょう。
ホットフラッシュをはじめとする更年期の症状は、誰にでも起こり得るものです。「年齢のせい」と我慢して一人抱え込んでしまうと、ますますツライかと思います。身近な家族や友人に悩みを話すだけでも、気持ちが軽くなるでしょう。
また、婦人科を受診いただければ、症状や体調に合わせて、ホルモン補充療法・漢方薬・生活改善などを一緒に考えることができます。セルフケアや、悩みに合わせた漢方薬や生薬製剤を用いることも有効です。
自分の体に向き合い、無理のない方法で症状の緩和に向けて取り組んでみてはいかがでしょうか。
参考文献
・日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産科婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編 2023」
・厚生労働省研究班監修「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ|ホットフラッシュ」(https://w-health.jp/climacterium_trouble/hot_flash/)
・厚生労働省研究班監修「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ|更年期障害とは?」(https://w-health.jp/climacterium_alarm/about_climacterium/)
・公益社団法人 日本産科婦人科学会「更年期障害」(https://www.jsog.or.jp/citizen/5717/)
・日本女性心身医学会「更年期障害」(https://www.jspog.com/general/details_76.html)