監修
関 洋介 先生 (四谷メディカルキューブ 消化器外科 減量・糖尿病外科センター 副センター長 臨床研究管理部 部長)
のどの違和感を引き起こす原因は多岐にわたります。本記事ではのどの違和感の原因を「胃酸などの逆流」と「気道の異常」の大きく2つに分けて紹介します。
まずは胃酸など胃の内容物の逆流によるのどの違和感を取り上げます。
胃酸とは、胃で分泌されている、強い酸性の消化液です。その強い刺激に耐えるために、胃の内壁は、胃酸に直接触れないように胃粘液で保護されています。
私たちが食べたものは食道※1を通り、胃まで運ばれ胃酸と消化酵素の働きによって消化されます。
食道では、ぜん動運動※2と呼ばれる収縮と弛緩を繰り返し、食べたものを胃のほうへと運んでいるため、たとえ逆立ちをしていても、のみ込んだものが口に戻ってくることはありません。また、食道と胃のつなぎ目には下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)という筋肉があり、食べ物が胃に入る瞬間のみ筋肉が緩み、それ以外の時間はしっかりと閉じていて、この仕組みも食べ物の逆流を防いでいます。
しかし、何らかの原因でそれらの仕組みがうまく働かなかったり、胃の調子が良くなかったりすると、いったん胃に収まったものが食道のほうに逆流してくることがあり、このときに直接食道粘膜や咽頭が傷つけられたり、知覚過敏状態となっているために咽頭付近でその刺激を感じたりすることがあります。
※1 食道:口から入った飲食物を胃まで送り届ける管状の臓器
※2 ぜん動運動:消化管が収縮と弛緩を繰り返し、食べ物を先へ先へと運ぶ運動
のどの違和感の原因として、食道に起きる胃酸の逆流の次に取り上げるのは、のどにあるもう一つの管腔(管の形をしている)臓器である「気道」です。気道は、鼻から肺の奥へと続く空気の通り道です。
気道の異常によるのどの違和感は、ウイルスや細菌による感染症、花粉やホコリなどに対するアレルギー、空気の乾燥、喫煙、あるいはのどの酷使(声を張り上げることの多い職業やカラオケなど)によるのどの負担などが該当します。
また、受診して検査を受けても原因を特定できないこともあって、その場合は「咽喉頭異常感症(いんこうとういじょうかんしょう)」という病名が診断されたりします。この咽喉頭異常感症の発症には、ストレスが関係しているのではないかと考えられています。
のどの違和感の原因として、食道への胃酸の逆流と気道に起こる病気を挙げましたが、これら以外に、食道の異物、例えば魚の骨が刺さっているといったことや、過剰な飲酒、貧血、食道・気道・甲状腺のがんでも、のどの違和感があらわれることがあります。
ここからは、のどの違和感を引き起こすことのある主な病気を、より詳しく解説していきます。
※以下の病気は医師による診断が必要です。心配な場合には、早めに医師の診察と治療を受けましょう。
胃食道逆流症とは、胃の内容物(胃酸や食べたもの)が食道に逆流して、食道の粘膜が傷つくことと不快な症状の両方、またはいずれかを引き起こす病気です。この病気では、のどまで酸っぱいもの(胃酸)が上がってくる、「呑酸(どんさん)」と呼ばれる症状、あるいは、のどがつかえるような感じ(違和感)といったのどの症状の他に、胸やけ、げっぷ、胃もたれ、声がれ、胸の痛みなどがあらわれることがあります。また、せきや喘息が誘発されたり、虫歯が増えることも知られています。
胃食道逆流症の患者さんは、国内では1990年代後半から大幅に増加してきました。ただ、最近10年ほどは緩やかな増加に落ち着き、現在は成人の10~20%が該当すると推測されています。
このように、比較的最近になって増加してきた原因には、食習慣の欧米化や肥満の増加、ピロリ菌感染者の減少が関係していると考えられています。
胃食道逆流症は、英語(Gastroesophageal Reflux Disease)の頭文字をとって「GERD(ガード)」と呼ばれることもあります。
このGERDは医学的には2つの状態に分けられます。一つは、内視鏡を使った検査によって食道の粘膜に炎症やびらん(粘膜の一部が欠けている状態)が認められる場合で、これは「逆流性食道炎」と呼ばれます。一方、内視鏡の検査でびらんが確認できない場合は、「非びらん性胃食道逆流症」と呼ばれます。後者は、英語(Non-Erosive Reflux Disease)の頭文字をとって「NERD(ナード)」ともいいます。GERD患者さんの半数以上は、非びらん性胃食道逆流(NERD)の患者さんで占められています。
医学的には、非びらん性胃食道逆流症(NERD)よりも逆流性食道炎のほうが、より強力な治療(胃酸分泌の強力な抑制)の必要性が高いと判断されます。ところが、患者さんの訴える症状については、逆流性食道炎よりも非びらん性胃食道逆流(NERD)の場合に強い傾向のあることも知られています。その理由について、下記にご紹介します。
非びらん性胃食道逆流(NERD)の原因は、主に酸によるものと、酸以外の胃内容物逆流にともなう食道知覚過敏によるものが挙げられます。
胃食道の知覚過敏とは、通常であれば自覚症状があらわれるほどではないものの、食道の粘膜が敏感になっているために刺激を強く感じてしまう結果、症状があらわれるという状態のこと。そのようなケースでは、胃食道逆流の程度は正常レベルであるにもかかわらず、知覚過敏にともなって胸やけ症状以外にものどの違和感やせきなどの不快な症状を抱えていることが多いことが知られてきています。
胃食道逆流症は、胃酸の過剰分泌が原因ではないかと考えられがちですが、最近では、そうとはいえないことがわかってきました。実際は、胃酸が食道に逆流した際に、すみやかに排出されず、何らかの原因によって長時間食道内に留まり続けているために起こります。
食道内に胃酸が長時間留まり続けてしまう原因として、食べ過ぎや高タンパク・高脂肪食の食事、アルコールやカフェインの摂取など、いわゆる欧米化された食習慣や、過度な運動などが考えられます。なお、胃酸以外の胃の内容物の逆流によっても、慢性的なせきやのどの違和感が引き起こされることもあります。
また、近年、特に男性で肥満の人が増えています。肥満の状態ではお腹の内圧(腹圧)が高くなるために、胃の内容物が押し上げられやすくなります。このようなことも、最近の胃食道逆流症の増加に関係しているといえます。
その他、ピロリ菌に感染している人が減ってきたことも、胃食道逆流症が増えている原因に挙げられます。というのも、ピロリ菌に感染していると胃酸の分泌が抑制されるからです。現在では若年・中年ともにピロリ菌感染率が低いために胃酸分泌が保たれているため、欧米化された食習慣とあいまって、胃食道逆流症が増えてきていると考えられます。
これらの他に、加齢によって下部食道括約筋が緩んできたり、食道のぜん動運動が低下したりすることや、食道裂孔(しょくどうれっこう)ヘルニア※によって胃の内容物の逆流をブロックする働きが低下することも、胃食道逆流症の原因として挙げられます。なにか別の病気にかかっていて、その治療のために服用している薬の影響で、逆流症状があらわれやすくなることもあります。
加えて、ストレスや睡眠時間の減少にともなう食道の知覚過敏も症状を誘発させる原因となっています。
ここまで、この病気の原因として考えられることをたくさん挙げましたが、実際には、原因をこれらのうちのどれか一つに絞り込むことは難しく、複数の原因が絡み合って胃食道逆流症が起きていることが多いと考えられています。
※横隔膜に開いている食道が通る穴(食道裂孔)から、本来、横隔膜の下部にあるべき胃の一部が異常に膨らんで胸部に飛び出してしまっている状態
先ほどもご紹介したように、食道の他に、のどにあるもう一つの管腔臓器(かんくうぞうき:管状の臓器)が「気道」です。気道は呼吸器(呼吸に関する臓器)の一部で、鼻や口から、咽頭、喉頭を通って気管、気管支、肺へとつながっています。この気道を通じて肺に空気が取り込まれ、肺胞という所で、血液中の二酸化炭素と酸素の交換、いわゆる「呼吸」が行われています。このような構造のため、空気とともにウイルスや細菌なども気道や肺に入り込みやすく、呼吸器は感染症が起こりやすい臓器です。
最も一般的な呼吸器の感染症は、風邪です。上気道で炎症が起こることで、のどの痛みやイガイガとして自覚されます。一方、ウイルスではなく細菌による感染症でのどの不調を起こすものとしては、例えばA群β溶血性連鎖球菌による咽頭炎(溶連菌感染症)が挙げられます。この感染症は、重症になると全身に発赤(ほっせき:皮膚が赤くなる現象)が広がって、「猩紅熱(しょうこうねつ)」とも呼ばれます。風邪とは異なる治療が必要であるため、気になる症状があり、保育園・学校などで流行が見られていることがわかったらすみやかに受診しましょう。
花粉やハウスダスト、または食べ物などに対するアレルギーのために、のどに違和感が生じることもあります。
アレルギー反応のために気道の粘膜が炎症を起こして、それを違和感として感じることがあります。特に食べ物に対するアレルギーで生じる気道の炎症では、呼吸困難になり緊急治療が必要な事態も起こり得ます。
この他、花粉やハウスダストに対するアレルギーで鼻水が多い場合には、その一部がのどに向かって流れていく「後鼻漏(こうびろう)」という状態になり、のどに流れた鼻水の刺激によって、せきが出たり違和感があらわれたりすることがあります。
甲状腺は、体の発育や成長、新陳代謝などに必要な甲状腺ホルモンを産生している器官で、のど仏の下あたりにあり、蝶が羽を広げたような形をしています。この甲状腺に起こる慢性的な炎症(橋本病)では、のどが腫れて違和感を生じることがあります。
なお、甲状腺ホルモンは新陳代謝を活発にするように働くことが多いため、のどの違和感だけでなく、甲状腺ホルモンの過剰または不足によって、心拍数や体温、体重、あるいはメンタル面など、全身に影響があらわれます。
のどの違和感のために医療機関を受診して一般的な検査を受けたのに、特に異常が見つからないということもあります。このようなときには、「咽喉頭異常感症(いんこうとういじょうかんしょう)」と診断されることも。「のど(咽喉頭/いんこうとう)に異常感があらわれている」という状態をそのまま表現した病名で、要は原因がよくわからないという意味ですが、ストレスが関係していることが多いと考えられています。
原因を特定できない場合には、いったん咽喉頭異常感症と診断し、対症療法(病気の原因に対する治療ではなく、症状の抑制を行う治療)を行い、経過が長引いた場合にはより精密な検査を進めていく、という方法がとられることが一般的です。最終的に、胃食道逆流症やアレルギー、またはがんなどが見つかったケースの報告もあります。
のどの違和感の原因が、がんという可能性もあります。食道がんの他に、気道(咽頭や喉頭、気管)のがん、甲状腺のがんのために、のどの違和感や食べ物をのみ込みにくい、口を開けにくい、舌を動かしにくい、声がかすれる、声が変化した、首にしこりがある、などの症状があらわれることがあります。
なお、先ほど解説した胃食道逆流症が長年続いていると、食道の粘膜の一部が胃の粘膜に置き換わる「バレット食道」という状態になって、このバレット食道から食道がんに進行することもあります。
貧血のために食道の粘膜に影響が生じて、のみ込みづらさやものがつかえる感じなどの違和感があらわれることがあります。閉経前の女性は鉄欠乏性貧血になりやすいため、このような症状が多い傾向があります。
※以下は受診先の目安となります。実際の症状によって受診する医療機関が異なる点にご注意ください。
食道や胃の症状が中心だと考えられることから、消化器内科、胃腸科、気道食道科、または一般内科を受診しましょう。
咽頭や喉頭、気管、肺の症状が中心と考えられることから、感染症の可能性が高そうです。呼吸器内科、耳鼻咽喉科、または一般内科を受診しましょう。
感染症、呼吸器の病気、心臓の病気、アレルギーなど、可能性が考えられる病気が多岐にわたります。まずは早急に、かかりつけ医や一般内科を受診してください。場合によっては、他の専門診療科の医師を紹介されるかもしれません。
のどの中でも声帯の症状が中心となるため、耳鼻咽喉科を受診すると良いでしょう。
かかりつけ医でよく相談することが大切です。ストレスを強く感じていて、そのせいではないかと思うのなら、心療内科の受診も考えてみましょう。漢方薬で改善することもあるので、漢方内科で相談してみても良いでしょう。
のどの違和感で受診した初診時には、一般的に問診と視診が行われ、必要に応じて、疑われる病気に的を絞った検査が行われます。
問診では、問診票や診察によって、いつからどのような症状があるのか、症状があらわれる誘因の有無、のど以外の症状などを把握します。視診では、のどの奥を覗き込んで、赤くなっていないか、腫れていないかなどの異常を確認します。このときに、耳鼻咽喉科では喉頭鏡やファイバースコープといった機器を用いることもあります。
一般的な検査で診断を絞り込めないときや、病気の重症度を正確に把握する必要があるときには、首や胸のレントゲン検査や超音波検査、内視鏡検査、喀痰検査(たんを採取して感染症やアレルギー、がんなどの可能性をみつける)、血液検査(全身性の病気の可能性をみつける)などが行われます。
のどの違和感の原因として胃食道逆流症が疑われ、他に重大な病気が隠れている可能性はかなり低いだろうと考えられるときに、「PPIテスト」という診断方法がとられることがあります。
これは、診断的治療と呼ばれる方法の一つです。胃食道逆流症の治療薬であり、胃酸の分泌を抑制する「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」という薬を試験的に用いて、それで症状が改善したら、胃食道逆流症だったと診断するという手法です。診断後はそのまま治療が継続され、経過が長引いた場合などには改めて詳しい検査を行います。
のどの違和感に限らず、何かしらの症状があらわれたときには、なるべく早めに医療機関を受診したほうが安心です。ただ、そうはいっても、「そこまでひどい症状ではない」、「時間がとれない」といった理由ですぐには受診しない、できない場合もあります。そんなときに、少しでも症状を軽くする方法について、ここでは主に胃食道逆流症の症状と、風邪の症状について解説します。
胃酸の分泌が高まるような食習慣を改めましょう。具体的には、食べ過ぎ、脂肪分の多い食事、寝る前の食事、アルコールやカフェインの摂取などを避けてください。また、横になるときは上体を少し起こした状態にすると、胃酸が逆流しにくくなります。
この他に、腹圧(お腹の内圧)が高まると胃酸や胃の内容物が逆流しやすくなるため、きつすぎる服は着ないほうが良いかもしれません。また、すぐに効果があらわれるわけではないですが、肥満は腹圧を高めるため、肥満の人は減量しましょう。
のどがヒリヒリする感じや胸やけなどの、胃酸の逆流によると思われる症状に対しては、胃酸の分泌を抑制する薬(H2ブロッカーや前出のプロトンポンプ阻害薬など。ただしプロトンポンプ阻害薬は処方薬のみ)の効果が高いとされています。また、胃の粘膜のダメージは、胃酸による粘膜の攻撃に対する粘膜を保護する働きが不十分になることで生じると考えられています。そこで、前者を抑制するために胃酸の分泌を抑制する薬が用いられ、後者に対しては粘膜の傷の修復を促したり保護するように働く成分が用いられます。その他に、強い酸性の消化液である胃酸を中和するように働く薬も、胃酸の逆流症状の改善に役立つことがあります。
胃酸の逆流以外の症状、例えば胃がもたれる、お腹がはる、食欲低下などには、胃の働きを助ける健胃薬と呼ばれる薬(主に漢方薬)や、消化液(消化酵素)の成分(胆汁酸など)、胃痛に対しては胃のけいれんを抑える成分などを含む薬が向いていると考えられます。
呼吸器の感染症に対しては、のどに潤いを与えることが大切です。それによって、気道の線毛運動※が助けられ、異物をたんに絡めて排出しやすくなります。のどを潤すには、水分摂取やうがいをこまめにするとともに、室内を適度に加湿し、マスクをすると良いでしょう。
また、十分に睡眠をとり、体を温かくして抵抗力を保つことも大切。特に首筋が冷えないようにしましょう。
のどの痛みという症状には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と呼ばれる薬がよく使われています。具体的な成分名としては、例えばイブプロフェンなど。NSAIDsは痛みを抑えるとともに熱を下げる作用もあります。NSAIDs以外に、トラネキサム酸も粘膜の炎症を抑える成分で、総合感冒薬(風邪薬)の成分としてよく配合されています。
また、せきに対しては、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、dl-メチルエフェドリン塩酸塩など、たんに対してはグアイフェネシンなどが配合された薬があります。この他に、鼻水や鼻づまりもある場合には、ジフェンヒドラミン塩酸塩などの抗ヒスタミン薬の有効性が知られています。
なお、市販のせき止めや風邪薬によって症状が治まらない場合には、他の呼吸器系の病気が隠れていることもあるため、すみやかに医療機関を受診しましょう。
※線毛とは、細胞の表面に存在する細い毛のようなもの。線毛運動とは、気道の内側に存在する線毛が、気道に入ってきた病原体や異物を体外に排出するための運動
のどに違和感があるときに考えられる主な原因についてお話ししてきました。
違和感の原因はさまざまですが、もしそれが何週間も続く場合、風邪などの感染症は少し考えにくく、例えば胸やけ症状などもともなっている場合には、胃内容物の逆流が食道に影響している可能性が高いかもしれません。いずれにしても、思い当たる生活上のことがあれば改善することが大切です。
また市販薬を使っているのに症状が悪化したり長引いたりする場合、思い当たる原因や身体の中で異変が起こっていると思えるような具体的な症状がない場合は、放っておかずにしっかり診察を受けなければいけません。呼吸、摂食、会話という、生きていくために欠かせない大事な役割を担っているのどを、ぜひ大切にしてください。