上腹部の中心にあたるみぞおちに起こる痛みは、主に胃腸の異常が原因ですが、ときに胆のう、膵臓や胸部の異常によって起こることもあります。従って、痛いと感じる場所以外に、痛み方や一緒にあらわれる症状・原因をきちんと把握しておくことが大切です。
監修
内藤 裕二 先生 (一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会理事長/日本酸化ストレス学会理事長/京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座教授)
日常生活において、下記のような症状を感じている場合は、何らかの原因がある可能性があります。
まずは日常生活から考えられる、みぞおちに痛みが生じる主な原因を見てみましょう。
過度の精神的ストレスは、自律神経のバランスを崩します。
たとえば、仕事が忙しすぎてうまく眠れなかったり、食欲がわかなかったり、人間関係にひどく悩んだりする場合、自律神経に乱れが生じることがあります。こうしたストレスは抱えすぎないようにできると良いでしょう。その他、進学や就職、結婚、出産といった喜ばしい出来事でも、それにともなう生活や環境の変化などがストレスになることがあります。精神的な不調を感じたら、無理をせず休むことも必要です。
また、エアコンでキンキンに冷えた夏の室内や、暖房で汗ばむような冬の室内など、室内外の温度差による身体的ストレスも、胃や十二指腸の働きをコントロールしている自律神経を乱すことがあります。自律神経が乱れると、過剰に分泌された胃酸が胃や十二指腸の粘膜を傷つけ、みぞおちの周辺に痛みを引き起こします。
自律神経の乱れに関する情報はこちら。 自律神経の乱れ
暴飲暴食をしたり、にんにく、唐辛子など刺激の強い食品を食べすぎると、みぞおちが痛むことがあります。また適量を超えた毎日のアルコールやタバコ、香辛料、果汁、炭酸飲料も胃酸の分泌を促進して胃や十二指腸の粘膜を傷つけ、みぞおちの痛みの原因になります。
腐った食品を食べたり、海外で生水に当たったりすると、激しい胃の痛みとともに、下痢を起こすことがあります。海外の水はマグネシウムとカルシウムが多く含まれている硬水が多く、軟水に慣れた日本人は下痢をしやすいのです。また、日本の地域によっては井戸水や湧水を飲用水としているところもありますが、それらの水は有害物質の地下汚染や野生動物の細菌などの汚染も懸念されるため衛生面で注意が必要です。
※以下の疾患は、医師の診断が必要です。
下記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
<疾患一覧>
疾患 | 主な症状 |
---|---|
逆流性食道炎 | 胸やけ、呑酸(どんさん)、胸やみぞおち周辺が痛む、のどの違和感 など |
機能性ディスペプシア | 胃痛やみぞおちの痛み、胃もたれ などの腹部の不快な症状 |
急性胃炎 | みぞおちが突然キリキリ痛む その他に吐き気、下痢 など |
慢性胃炎 | みぞおちの痛み、胃もたれ など |
神経性胃炎 | みぞおちが痛む、気分がふさぐ、のどがつかえる、胸やけ など |
胃潰瘍 | みぞおち周辺のズキズキとした重苦しい痛み、食事中から食後の痛み |
十二指腸潰瘍 | みぞおち周辺の鈍い痛み しばしば夜間に痛みを感じる |
食中毒 | みぞおち周辺に痛みが起こり、吐き気、嘔吐、発熱、下痢 などの症状が急激に起こる |
胆石症 | 激しいみぞおちの痛み、右肩に響くような痛みが出る、発熱、黄疸が起きて顔が黄色くなったり、尿の色が濃くなる |
膵炎 | みぞおちの辺りに起こる激痛 せきこんだり、活発な動作や深呼吸をするとさらに痛みが悪化する |
心筋梗塞 | 突然、胸やみぞおちの激痛が起こる 吐き気、冷や汗などが見られ、胸の痛みは30分から数時間続く |
胆のう炎 | みぞおち付近に不快感やズキズキとした鈍い痛みが生じる 症状が進むと痛みが右の肋骨の下あたりに移動する |
急性虫垂炎 | 初発の症状はみぞおちの痛み その後時間がたつにつれて痛みが下腹部に移動し、右下腹部が痛くなる |
肥満や早食い、大食い、アルコール、脂肪分の多い食事などの影響で胃の内容物が逆流して起こる、食道の炎症です。胃食道逆流症(GERD)と呼ばれる病気の一種で、胸やけや呑(どん)酸(さん)(胃酸のこみ上げ)、胸やみぞおち周辺が痛むといった症状が生じます。その他にのどの違和感やしわがれ声、ぜんそくのようなしつこい咳などの症状が生じることもあります。
治療せずに放置していても、自然に治っていくことがありますが、生活習慣を改善しないでいると悪化し、出血したり、食べ物の通りが悪くなったり、合併症を起こしたりすることがあります。胃食道逆流症は生活習慣病の一つと考えられていて、毎日の生活習慣を見直すことにより、症状が軽減します。
ディスペプシアとは、胃痛や胃もたれといった腹部の不快な症状をあらわす医学用語です。
みぞおちの痛みや胃もたれなどの慢性的なディスペプシアの症状を訴えて医療機関を受診する人の中には、胃がんや胃潰瘍などの原因となる病気が見つからないこともあります。そうした状態を、胃の働き(機能)の低下によるディスペプシア=機能性ディスペプシアと呼んでいます。この病気に当てはまる人は意外に多く、健康診断を受けた人の11~17%、病院にかかった人の44~53%に機能性ディスペプシアが見つかるといわれています。
機能性ディスペプシアの原因は、胃や十二指腸の異常や過敏、ストレス、胃酸の分泌過多、生活習慣の乱れなど多岐にわたり、複数の原因が関係していることもあります。
実際の診療ではまず、ディスペプシア症状の開始時期や頻度、症状の程度、食事の様子や体重減少の有無などを確認します。そのうえで胃がん、胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの疾患を除外するための胃の内視鏡検査、ピロリ菌感染の検査の他、必要に応じて血液検査、超音波検査、腹部CT検査などを行っても異常が見られなかった場合、機能性ディスペプシアと診断されます。若年女性で、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)未感染の人の機能性ディスペプシアは、生活の質に影響を与えることも多いため、早めに医師に相談することが必要です。
食べすぎ飲みすぎやストレス、ウイルス、ピロリ菌の感染、食中毒、アレルギーなどが原因で胃の粘膜がただれ、みぞおちが突然キリキリと痛むことがあります。その他に、吐き気や下痢をともなうこともあり、ひどい場合は嘔吐や吐血、下血を起こすこともあります。多くの場合、安静にしていれば2〜3日で治まります。
この疾患・症状に関連する情報はこちら。胃炎
ピロリ菌の感染などにより、胃に慢性的な炎症が起きている状態です。急性胃炎が2~3日で治まることが多いのに対し、慢性胃炎ではそれ以上の期間が経過しても症状の改善が見られません。主な症状はみぞおちの痛み、胃もたれなどで、機能性ディスペプシアと似ていますが、検査の結果、胃に炎症が生じていれば、慢性胃炎と診断されます。ピロリ菌に対するお薬も保険適応され、胃がんのリスクもあるため、放置せずに医療機関を受診すべき病気です。
この疾患・症状に関連する情報はこちら。胃炎
ピロリ菌やストレス、非ステロイド性消炎鎮痛剤、ステロイド薬などが胃粘膜に傷をつけ、さらに消化作用を持つ胃酸・消化酵素が胃粘膜や胃壁を消化することにより起こります。特徴的な症状は、みぞおち周辺のズキズキとした重苦しい痛みです。胃潰瘍は胃に入った食べ物が潰瘍を刺激して痛むので、食事中から食後の痛みが多くなります。その他、胸やけや胃もたれをともなうこともあります。
ピロリ菌やストレス、非ステロイド性消炎鎮痛剤、ステロイド薬などが粘膜に傷をつけ、さらに消化作用を持つ胃酸・消化酵素が十二指腸の粘膜や壁を消化することにより起こります。
十二指腸はもともと胃酸に対する抵抗力が弱い傾向にあります。そのため胃酸の分泌量が増えると、その影響で十二指腸の粘膜が傷つけられ、潰瘍が生じやすくなります。みぞおちの周辺に鈍い痛みを感じるのは胃潰瘍と似ていますが、胃潰瘍では食後に痛みを感じることが多いのに対し、十二指腸潰瘍ではしばしば夜間に痛みを感じることがあります。
細菌に汚染された食品や毒素を含む食品を食べたことでみぞおち周辺に痛みが起こり、吐き気や嘔吐、発熱、下痢などの症状が急激に起こることがあります。原因となる主な細菌は、生肉などに生息するカンピロバクター、鶏や卵などに生息するサルモネラ菌、生の魚介類などに生息する腸炎ビブリオ菌、人の皮膚の傷口などに繁殖する黄色ブドウ球菌などです。毒素を含む食品には、ふぐ、きのこ、じゃがいもの芽などがあります。
この疾患・症状に関連する情報はこちら。食中毒
脂質の消化を助ける胆汁が固まり、胆のう、胆のう管、総胆管に胆石ができると激しいみぞおちの痛みが起きます。右肩に響くような痛みが出るのが特徴で、発熱、吐き気・嘔吐も見られます。また、胆汁の流れが悪くなり、黄疸が起きて顔が黄色くなったり、尿の色が濃くなったりします。発作が起きたときには、ショック症状によって血流が低下し、顔が真っ青になります。中年以降の肥満の人に起こりやすい傾向があります。
急性膵炎の多くは、胆石症やアルコールの乱用が原因です。とくに胆石による膵炎は女性に多く見られます。膵炎を引き起こす人の大部分がみぞおちの辺りに起こる激痛に苦しみます。そしてこの痛みは背中に突き抜けるほどに発展します。せきこんだり、活発な動作や深呼吸をするとさらに痛みが悪化します。こんなとき背筋を伸ばして座るか、前かがみになると痛みがやわらぎます。他に吐き気や嘔吐、発熱をともないます。
心筋梗塞は、心臓の筋肉に血液を送り込む冠動脈が狭くなり、そこに血液が固まってできる血栓がふさいで血流が完全に止まってしまう状態です。心筋の一部が壊死してしまうことから、死に至ることもあります。突然、胸やみぞおちに激痛が起こり、吐き気や冷や汗なども見られ、胸の痛みは30分から数時間続きます。主な原因は動脈硬化ですが、これに高血圧や糖尿病、肥満、喫煙などが重なるとリスクが高まります。
胆のうは、胆汁を一時的に貯めて濃縮しておく、袋状の臓器です。この胆のうと胆管をつないでいる胆のう管が腫れ上がり、炎症が起きるのが胆のう炎(急性胆のう炎)です。最初のころはみぞおち付近に不快感やズキズキとした鈍い痛みが生じますが、症状が進むと痛みが右の肋骨の下あたりに移動し、次第に激痛になっていきます。さらに進行すると、胆のうの壁が壊死することもあります。
虫垂は右下腹部にありますが、初発の症状はみぞおちの痛みから始まることがあります。その後、時間がたつにつれて痛みが下腹部に移動して、右下腹部が痛くなります。原因は不明ですが、早期に治療を開始することにより、手術をしなくてもよい場合が多くなっています。
※以上の疾患は、医師の診断が必要です。
上記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
食べすぎ飲みすぎはもちろん、朝食を抜いたり遅い時間に食事を摂ったりすることも、胃腸に負担をかけます。3食きちんと規則正しい時間に食べ、腹八分目に留めるようにすることが大切です。とくに、寝る前の脂ものは控えましょう。また、アルコールは適量ならば問題ありません。過度の飲酒は控え、楽しくお酒と付き合っていきましょう。
気温も湿度も高く、食あたりが増える6〜9月頃の時期は、食品の鮮度を冷蔵庫で保ちましょう。さらに、まな板や包丁などの調理器具を清潔にする配慮も欠かせません。また気をつけたいのは海外旅行中の飲料です。生水は避け、屋台などでの果汁飲料や氷にも注意が必要です。
食べすぎ飲みすぎによる胃の痛みには胃腸薬を服用しましょう。また、ストレスからみぞおち周辺に痛みが起こる場合は、神経性胃炎に効能のある胃腸薬が効果的です。胃の粘液を増やしたり、血流を改善する胃薬や胃酸分泌を抑える薬(かっては病院で処方されていた薬)も薬局で市販されています。最近では症状ごとに選べる新しいタイプの漢方処方の胃腸薬もあります。
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胃の痛みが長く続くときや、激しい痛みがあるようなときは、重い疾患が隠れている場合があります。主治医に相談するか、内科、消化器科、胃腸科の診察を受けましょう。ストレスによるみぞおちの痛みの場合は、心療内科で相談してみるのも良いでしょう。また、腹痛が強く発熱をともなうときには、呼吸器科や循環器科を受診してみましょう。
病院でピロリ菌検査を受けると、感染の有無がわかります。いくつか検査方法がありますが、吐いた息による検査や血液中のピロリ菌に対する抗体検査など、どれも簡単なものです。このピロリ菌は病院で処方された薬を服用するだけで痛みもなく除去することができます。ピロリ菌の除去は、慢性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍、さらには胃がんを予防することや、潰瘍の再発を抑える効果が認められています。ピロリ菌を除去した場合でも、胃がんのリスクは残りますので、定期的な胃の検診(バリウム検査や内視鏡検査)は必要です。