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知っておくと安心ストレスとの付き合い方

知っておくと安心ストレスとの付き合い方

 現代社会では、職場も学校も家庭など日々の生活シーンで大なり小なりストレスにさらされる機会があります。そんな時、どのように対処し健康に過ごしていくのか、ストレスとの上手な付き合い方をご紹介します。

心身ともに健康で過ごすためのストレスマネジメント
漢方でストレス症状に早めの対処
心身ともに健康で過ごすためのストレスマネジメント

〈話し手〉 山本 晴義 Haruyoshi Yamamoto
(労働者健康福祉機構横浜労災病院 勤労者メンタルヘルスセンター長 兼 治療就労両立支援部長)

 2015年12月、従業員のためのストレスチェックの実施が一定規模の事業者に法律で義務化されました。メンタルヘルス対策の重要性を国家レベルで注目しているといえます。
 ストレスの感じ方は人によって異なりますが、過剰なストレスが様々な疾患につながることは数多く報告されています。そこで、ストレスへの気づきを促すサインやストレスの上手なコントロール法について、勤労者のメンタルヘルス対策の専門家・山本晴義先生にご解説をいただきました。

増え続ける心の健康相談

 ストレスに悩んでいる働く人々が増えています。私が勤務する労災病院グループでは、2000年より心の健康相談窓口として、無料で電話とメールによる相談窓口を設置しています。開設当初は年間116件でしたが、2014年は年間8,517件に、また、累計件数は8万件になろうとしています(図1)。

労災病院グループでのメンタルヘルスに関する相談の年度別件数と累計

図1 労災病院グループでのメンタルヘルスに関する相談の年度別件数と累計

(山本晴義先生ご提供)

ストレスチェック制度の開始

 国もメンタルヘルスの重要性に注目しており、従業員の精神的健康度の把握を事業主に義務づける、ストレスチェック制度が2015年12月に導入されました。
 ストレスチェックは、企業が実施する定期健康診断とは異なり、従業員が自分のストレス状況を自己記入式の質問票で評価するもので、そこから高ストレス者を拾い上げ、医療に結び付けようとする取り組みです。病気を見つけることではなく、病気の予防が最大の目的であり、従業員全体のストレス状況を知ることで、職場環境の長所や短所を評価することも可能になります。(厚生労働省Webで簡単にストレスセルフチェックができます。自身のストレス度を確認してみましょう)

http://kokoro.mhlw.go.jp/check

働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト~「こころの耳」(厚生労働省)
URL:http://kokoro.mhlw.go.jp/check(2016年2月9日アクセス)
※外部サイトにリンクします。

 実は、高ストレス者とは仕事を頑張っている人たちと言い換えることもできます。そうした人たちに、元気に働き続けていただくためにも、病気を未然に防ぐことが大切です。しかも、高齢人口の拡大と労働人口の縮小が続くわが国にとっては、その重要性はより大きいといえます。私は、このストレスチェック制度を推進するお手伝いをしていますが、制度導入が、メンタルヘルスケアへの国民全体の意識を高めるきっかけにもなればと願っています。

ストレスにより起こる身体の反応

 ストレスに晒されていると心理面、身体面、行動面の様々な反応を起こします(図2)。
 心理的反応では、不安、イライラ、怒り、恐怖、抑うつ、気力や集中力の低下などが挙げられます。
 身体的反応には、生体の自律神経系、内分泌系、ホルモン系、免疫系の反応があります。過重労働というストレスによって、胃酸が増加し、胃痛が起きているとすれば、それは自律神経系の反応と考えられます。自律神経系ではこのほか、血圧の上昇や頭痛なども知られています。さらに、風邪をひきやすくなるのは免疫系への影響が考えられ、女性の生理不順ではホルモン系への影響が疑われます。
 行動的反応では、喫煙や飲酒の回数(量)の増加や、拒食、過食、夜更かしなどの生活のリズムの乱れが考えられます。また、ギャンブルや薬物の依存症、自閉傾向、怒りっぽいなども見られ、遅刻や欠勤の増加も少なくありません。

ストレスにより起こる反応

図2 ストレスにより起こる反応

 ストレスに対する反応は、外部からの力に対抗して、それを押し戻そうと闘っている状態とも言い換えられます。すなわち、ストレスに対する生体の防御反応でもあるわけです。しかし、その闘いが長く続いたり、ストレスが抵抗し切れないほど強力だったりすれば、本当の病気になってしまいます。
 また、前述の身体の反応の原因が、ストレスとは別の重大な病気が隠れている可能性もあります。あまりに長く続くようであれば、悪化させないためにも医療機関を受診し検査を受け、専門家に自身の状態を診断してもらうことが大切です。

『1日決算主義』でストレス軽減

 このような状況を招かないために、ストレス状態に早めに気づき、上手にコントロールをすることに目を向けてみましょう。
 まず心がけていただきたいこととして、健康的なライフスタイルの維持です。現代人は、運動でも休養でも週単位で考えて生活する傾向がありますが、私は『1日決算主義』と呼んで1日単位で考えることをお勧めしています(表1)。これらの項目すべてを毎日クリアすることで、ストレスをためず1日で清算していけると考え、私自身も実践しています。もちろん、あくまで一つの手段であり、「○○をやらなきゃいけない」と別のストレスになっては本末転倒です。生活を送るなかで、自身の生活を振り返ったり、意識してみることから始めてはいかがでしょうか。

ストレス1日決算主義

図3 ストレス1日決算主義

 そもそも、何をストレスと感じるかは、個々の受け取り方や考え方により違います。これを認知的評価といいます。
 例えば、新しい仕事(ストレス)を任された時に、「自分にはとても出来ない」と負担に感じるか、「自分にチャンスが回ってきた」と積極的に受け取るかでストレスに対する反応は違います。このケースでは、前者のほうがストレスと感じていて、後者は適度なストレスとポジティブに受け止めるので、ネガティブなストレスの強度としては前者が大きいということになります。
 そして、このストレスにどう対処するかがポイントです。前者の人はネガティブから逃れようと何らかの理由をつけて問題の解決に背を向け自分で抱えてしまうかも知れません。後者の人は、問題の解決のために情報を集めたり積極的に取り組むかも知れません。この対処の仕方で、心や体のストレス状態も違ってきます。ポイントは、物事を前向きに捉える習慣を心がけることです。もし自身で難しい場合は、家族、友人、仕事仲間など身近にいる人に話を聞いてもらうだけでも気分は随分軽くなるはずです。一人で抱え込んでも状況は何も変わりませんが、誰かに話してみることで、前向きに切り替えるヒントに気がつけるかも知れません。

上手にセルフメディケーションを

 これまでストレスの悪い影響をご紹介してきましたが、そもそも、ストレスは人間にとって悪いだけなのでしょうか。カナダの生理学者セリエは、「ストレスは人生のスパイス」という言葉を残しています。人間には適度なストレスが必要であり、それが新しいアイディアを産む原動力になり、生産性の向上にもつながるというわけです。つまり、適度な励みにできればよいのだと思います。そうした生活の中で、心身を健康に保つため、日々の食欲、快眠、便通であり、良好な社交性、人間関係の維持が基本です。
 逆にいえば、食欲がない、よく眠れない、便秘や下痢でつらい、胃が痛い、頭が痛いなどの症状があれば、心身がストレスに負け始めてる入口かもしれません。
 このような場合は自分の身体の不調は自分で対処するセルフメディケーションが大切です。薬局などで手に入るOTC医薬品の漢方薬の中には、病院で処方する種類もあり、その力は大きいと感じています。薬剤師や登録販売者に相談するのもよいセルフメディケーションであると思います。ご自身の状況に応じて、ストレスと上手に付き合っていきましょう。

漢方でストレス症状に早めの対処

〈話し手〉 花輪 壽彦 Toshihiko Hanawa(北里大学東洋医学総合研究所 教授)

心と体は密接という漢方の考え方

 漢方医学では人の心と体を一つのものと考え、『心身一如しんしんいちにょ』といいます。心(精神的)のわだかまりは体の様々な症状としても現れ、また、その逆もあるという考え方です。
 2011年3月11日に起きた東日本大震災以降は、めまいを訴える方が非常に増えたのですが、これも『心身一如』の例として考えられる部分があります。余震が起きると、また大きな地震に襲われるのではないかという不安感や恐怖感が生まれ、それが「めまい」という身体症状として現れた可能性が考えられるわけです。このような場合、漢方医学では、めまいという身体症状の改善だけでなく、精神面の安定化を図る必要もあると考えます。
 漢方薬は複数の生薬が配合された薬剤です。それらの生薬の中には、様々な臓器の調子を整えるものだけでなく、不安感や緊張感などのメンタル面の問題を改善するものも含まれていますので、漢方薬は心身両面から様々な不調を改善する薬剤といえます。

それでは、具体的にどのような症状にどのような漢方薬が適しているか、みてみましょう。

のどのつかえ感、不安、神経過敏、めまいに「半夏厚朴湯はんげこうぼくとう

 半夏厚朴湯は気剤と呼ばれる漢方薬群の一つです。「気」とは、元気、やる気などの気と考えていただければよいと思います。漢方医学では、「気」が全身を巡っており、その巡りが悪くなると様々な病気になると考えられています。そして、気の巡りを良くする漢方薬が気剤と呼ばれ、半夏厚朴湯はその代表的な薬剤です。

 たとえば、地震が起きると、家が倒れるのではないかと強い不安感や恐怖感に苛まれたり、親が心筋梗塞や脳卒中で倒れた経験があると、息苦しさを少し感じただけで自分も倒れるのではないかと思ってしまう人がいます。こうした感覚を「予期不安」といい、ストレスに対する一種の防禦反応ともいえます。半夏厚朴湯は、気持ちを穏やかにさせて、不安や緊張感を和らげる作用があるとされ、予期不安の軽減にも役立つと考えられています。
 また、仕事や人間関係などでストレスが蓄積されると、お腹の調子が悪くなったり、動悸がしたり、人によっては飲食物を飲み込みにくい、のどがイガイガする、胸が苦しい、手足がしびれる、といった症状として現れることもあります。
 ストレス性の症状はもともと体の弱っている部位に現れやすいともいわれていますが、西洋医学的な検査を行っても異常を指摘されなかったような場合は、チェックリスト(表1)を参考にされ、いくつか当てはまる項目があれば、ぜひ半夏厚朴湯を一度服用してみてはいかがでしょうか。特に精神的なストレスがかかりやすい30~50代では、半夏厚朴湯を選択できる症状が多いことを覚えておくとよいでしょう。

半夏厚朴湯の効果が得られやすい症状など

表1 半夏厚朴湯の効果が得られやすい症状など

(花輪壽彦先生ご作成)

みぞおちが重苦しい時に「半夏瀉心湯はんげしゃしんとう

 ストレス性の胃腸症状では、半夏瀉心湯という漢方薬も症状により選択されます。半夏瀉心湯の「心」はみぞおちの周辺、「瀉」は取り除くという意味ですので、みぞおちのつかえを取り除く漢方薬と考えていただければよいと思います。漢方医学では、みぞおち周辺を心下しんかといい、そこがつかえている感覚や、指先で押すと圧迫感があれば、心下痞鞕しんかひこうといいます。この心下痞鞕が、半夏瀉心湯を選択する目安となります。
 また、「瀉心」には、「心火を瀉す」という意味もあり、心の火=イライラや怒りの感情を取り除くことも半夏瀉心湯の目標になります。つまり、半夏瀉心湯はストレスによって高ぶった気持ちを抑える漢方薬ともいえます。
 半夏瀉心湯は、みぞおち周辺の症状が主な目標にはなりますが、その改善を通して、消化管全体にも一定の効果が期待できます。たとえば、胸やけ、神経性胃炎、下痢・軟便、腹鳴(お腹が鳴る)、消化不良などのほか、胃の不調やメンタルストレスによって起こる口内炎や口角炎の改善にも期待できます。さらに、お腹が空いていないのにゴロゴロとかキューっと鳴る場合も、半夏瀉心湯によって抑えられることがしばしばあります。

ストレスで胃がキリキリ痛む人に「安中散あんちゅうさん

 ストレスが蓄積されると胃がキリキリ、あるいはシクシク痛む人、ゲップがよく出る人、あるいは胸やけなどの胃酸過多の傾向がある人には、安中散が適しています。
 安中散の「中」はお腹という意味です。心やみぞおちというより、もう少し広い範囲で、お腹全体を落ち着かせる漢方薬です。安中散は基本的に、胃痛や腹痛を伴う消化器症状が目標になり、冷えるとお腹が痛くなるような胃腸の弱い人にも適しています。
 胃腸が弱いかどうかは、その人の寝方を見るとある程度わかります。私が保育園を訪問した時に気づいたことですが、元気で活発な子は昼寝の時間に大の字になって仰向きに寝ますが、顔色が芳しくなく、やや虚弱に見える子はうつ伏せになって寝ていました。お腹が冷えないように、お腹を守るように、自然に自己防衛的な体勢を取っているように見えました。日ごろから、顔色があまり良くなく、自分は胃腸が弱いと感じている人は、仕事や勉強などでストレスを感じ、胃が痛むようであれば、ぜひ安中散を試してみることをお薦めします。

病気を治すよりもならないことが重要

 漢方では、明らかな病気として確立される前段階を「未病みびょう」と呼び、その段階で治すこと、あるいは未病にもならないように予防することが重要と考えます。ストレス社会ともいわれる今の時代には、未病の状態にある人が想像以上に多いはずです。西洋医学では、この未病に対してアプローチすることはあまりありませんが、漢方はこの未病に対しても力を発揮します。原因のわからない不調を感じられた場合は、ぜひ漢方薬をお考えいただきたいと思います(表2)。

ストレスによる症状が現れた時に効く漢方薬

表2 ストレスによる症状が現れた時に効く漢方薬

(花輪壽彦先生ご作成)

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