〈話し手〉 玉木 毅 Takeshi Tamaki (国立国際医療研究センター病院 皮膚科医長)
シニアの皮膚は若年者と比べ、乾燥しやすく冬場は特に乾燥に対する注意が必要です。
皮膚が乾燥するとカサカサ肌となり、さらに乾燥の程度が進むと「乾皮症」となります。ただしカサカサ肌と乾皮症の違いは、医学的にはっきり定義されているわけではありません。
そのため、皮膚の乾燥に悩んでいるとき、保湿クリームでよいのか、医薬品の保湿剤やステロイドで対処したほうがよいのか、悩む人も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は皮膚が乾燥するメカニズムや、乾燥の症状別の対処法を皮膚科専門医の玉木毅先生にご解説いただきました。
シニアの皮膚のカサカサはどうして起こる?
私たちの体の表面をおおっているのは皮脂膜と角質層です。外部からの刺激物質の侵入を防ぎ、また、皮膚の潤いを保つ保水機能を持ち、体内の水分が奪われないようにするなど、防御壁(バリア)として機能しています。
皮膚の一番外側を保護しているのは、皮脂腺から分泌された皮脂と汗がまざった皮脂膜です。その下に、角質細胞が層状に並んでいます。角質層をレンガ壁にたとえるとレンガ(角質細胞)を並べて、その間を細胞間脂質という、もう1つの保水機能成分がパテのように埋めています。
ところが加齢に伴い皮脂膜が少なくなると、角質層の水分含有量が低下して乾燥します(カサカサ肌)。さらにレンガ(角質細胞)の間を埋めている細胞間脂質が失われて、レンガ構造が崩れます。これが乾皮症の状態です。
●カサカサ肌を放置するとどうなる?
カサカサ肌では皮膚のバリア機能が低下し、外部刺激に対して非常に過敏な状態で外からのちょっとした刺激でかゆみを感じます。この時に掻くと、さらにかゆみが強くなって掻き壊し、角質層を傷つけてしまいます。すると角質層の下側の表皮細胞に炎症が起きて、湿疹化します(皮脂欠乏性湿疹)。炎症し湿疹が生じ掻くとさらに乾燥が進んでしまいます。こういった負の連鎖『皮膚の加齢性トラブルサイクル』では、状況に応じた対処が必要になります(図)。湿疹が生じると保湿剤を表面に塗るだけでは、炎症を抑えられません。治療では、ステロイドが配合された外用剤を塗って炎症を抑えます。
湿疹が重症化した場合、滲出液でジュクジュクした状態になり、炎症がコイン状に広がった、貨幣状湿疹という状態に至ります。ここまで重症化してしまうと市販薬では手に入らない強いステロイドによる治療が必要になるため受診を勧めます。また、かゆみが強い場合は抗ヒスタミン剤を内服してかゆみを抑えることが必要です。放置していると皮膚科を受診しても治療に長くかかることがあります。
図 皮膚の加齢性トラブルサイクル
カサカサ肌の原因は?
●加齢
年齢とともに皮脂腺の能力は低下し、皮脂が減少し、角質層の保水機能が低下します。
皮脂腺の機能は10代後半~20代前半がピークで、その後は低下していきます。
●環境(季節、湿度)
特に冬季は外気が乾燥します。湿度の低下により角質から水分が奪われて、カサカサ肌になります。最近は湿度が高い夏季もエアコンなどで湿度が低くなると言われてます。
●乾燥が引き起こすかゆみ
老人性乾皮症、皮脂欠乏性湿疹、老人性皮膚瘙痒症などは、いずれも皮膚の乾燥が根底にあることがほとんどですが、この時掻くことにより角質層が傷つき、さらに乾燥が進みます。
カサカサから脱出するために
●乾燥しやすい部位の保湿
日頃から予防と、早めの手当てが大切です。女性が毎日顔に化粧水をつけるように、顔以外の皮膚も乾燥予防の保湿が必要です。顔は足などと比べると皮脂腺が多く、全身の皮膚の中では比較的乾燥しにくく、むしろ顔以外の皮膚のほうが乾燥しやすいのです。腕よりは足が乾燥しやすく、背中の下側と腰回りやお尻も乾燥しやすい部位です。顔や首、背中の上の方は皮脂が多いので、比較的乾燥しにくい部位です。
●保湿の方法
基本的には顔と同じように、皮膚に水分と油分を補います。入浴後やシャワー後の皮膚がまだ湿っている間に、なるべく早く保湿クリームや医薬品の保湿剤を塗ると効果的です。
保湿剤は強く擦り込むのではなく、たっぷりの量を優しくまんべんなく塗るようにします。擦り込むと成分が皮膚に入りやすくなると思われがちですが、こすっても皮膚の中に吸収されやすくなるわけではありません。ヘパリン類似物質など保湿効果が高い成分が配合されている医薬品もあり、医療では保湿に使用します。
●日常生活で気をつけたいこと
①室内の加湿は必要
昔の石油ストーブやガスストーブでは、炭素が燃えて二酸化炭素と水が発生するので湿度が下がりすぎなかったのですが、いまはエアコンや床暖房が多くなり、冬は加湿器で十分に加湿する必要があります。
夏も室内でエアコンを使用していると、乾燥することもあります。
②入浴時の注意点
・こすりすぎない
皮膚のかゆみに困っている人の中には、不潔だからかゆいのではないかと思い込んで一生懸命に洗い、そのためにさらに皮脂膜や細胞間脂質が失われてかゆみが強くなることがあります。まさに、かゆみが招く悪循環です。
ほとんど室内で過ごし、汗もかいていない場合は、毎日石けんを使って洗う必要がない場合もあります。肌が乾燥気味ならぬるま湯で流すだけにする、一日おきに石けんを使うなど、状況に応じた洗い方でよいでしょう。
また、ナイロンタオルでこするとあかのようなものが落ちますが、必要な角質までもはぎ取っているので皮膚にダメージを与えます。
・熱すぎる湯の温度
シニアには、42~43度くらいの熱いお風呂が好きな方が多いのではないでしょうか。しかし、熱いお風呂では皮脂膜が失われてしまい、さらにタオルでこすると角質をはぎ取ってしまい、細胞間脂質なども流れ出してしまう心配があります。皮膚の乾燥予防のためには、熱いお風呂に慣れた人でも、普段よりもやや低めの温度を心がけるようにしましょう。
・コーヒー、強い香辛料、アルコールなど
(末梢の血管を拡張させる)
・チクチクする衣類
(素材によって直接触れると肌を刺激する)
・鮮度の落ちたサバやアジ
(時間が経つとかゆみの原因となるヒスタミンが増える)
カサカサ対策指導のポイント
●スキンケア方法の選択
スキンケアの際、症状の程度に応じて化粧品や医薬品を選ぶ必要があることを、患者さん自身にもある程度理解してもらう必要があります。
乾燥初期のカサカサ肌にはボディークリームなどの保湿用化粧品、乾燥が進んだ粉吹きや乾皮症にはヘパリン類似物質や尿素配合の外用剤を勧めます。ただし、角質を除去する尿素は皮膚が薄いシニアには、適さない場合が多いので留意してください。
湿疹がある場合には、副腎皮質ステロイドを含有する外用剤を勧めます。副腎皮質ステロイドを含有する外用剤は、薬効の強さで5段階に分類されています。※作用がマイルドなものから使って、一定期間様子を見て、症状が改善しないようだったら、強いステロイドへの切り替えや、抗ヒスタミン薬を内服するような治療が必要になります。重症化した湿疹や、かゆみがおさまらない場合「一度病院に行かれたほうがよいですよ」と受診を勧めます。
※ 日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」
皮膚の加齢性トラブルサイクルの症例写真と対処法
写真提供:玉木 毅先生