〈話し手〉 奥 恒行 Tsuneyuki Oku(長崎県立大学 名誉教授/十文字学園女子大学 客員教授/日本食物繊維学会 顧問)
食物繊維は五大栄養素に続く“第六の栄養素”ともいわれ、健康保持に役立つ機能を持っていることがわかってきました。意識して取り入れている方もそうでない方も、その機能を詳しく知ると、食物繊維のイメージが変わり、もっと食生活に利用したくなるでしょう。
そこで、食物繊維の研究に長年にわたり第一線で取り組んでいらっしゃる奥恒行先生に、食物繊維の種類や役割、食生活での取り入れ方について教えていただきました。
基礎をかんたんにまとめました。食物繊維とは?
食物繊維は、英語ではdietary fiberと呼ばれます。fiber(繊維)なので、野菜や果物など植物のスジというイメージを持つ人が多いかもしれません。
実は、食物繊維とひと口にいっても、野菜や果物に含まれるもの、海藻に含まれるもの、微生物がつくるものや動物性のものもあります。私たちが考えている以上に食物繊維には多くの種類があるのです。
食物繊維の多くは分子量が大きな多糖類の仲間で、大きく分けると水に溶けやすいもの(水溶性)と水に溶けにくいもの(不溶性)があり、期待される機能に違いがあります(表1)。
表1 食物繊維の分類
日本食物繊維学会監修『食物繊維 基礎と応用』p35, 第一出版を基に作表
食べた後どこで何をする? 食物繊維の働き
食物繊維に共通する大きな特徴は、人が消化・吸収することができない難消化性成分であることです。食物繊維はそのほとんどが吸収されず体の中を通過します。体内に吸収されるわけではないのに、なぜ体によいのでしょうか。摂取したときの体内での動きに沿って確認してみましょう。
食事で口から入ったものはまず胃に入りその後小腸へと移動します。そのとき食物繊維が十分にあると、食べたものが胃や小腸に存在する消化酵素に触れにくくなるので、消化・吸収がゆっくり進みます。さらに小腸では、主に水溶性の食物繊維が食物中のコレステロールやブドウ糖の吸収を抑えることが知られています1,2)。
次に食物が小腸から大腸に移ると、食物繊維が大腸に存在する腸内細菌のエサとなります。そのときに乳酸や酢酸などの酸がつくられるため、大腸内が酸性の環境となります。善玉菌とよばれる乳酸菌やビフィズス菌などは、酸性の環境で増え、腸内細菌叢(腸内フローラ)を健全な状態に維持してくれます。腸内細菌叢が改善されると便の嫌なにおいが減少することが知られており、その機能を活用して食物繊維を配合したペットフードもあるほどです。さらに最も知られている特徴として、主に不溶性の食物繊維は便の量を増やしますので、大腸の粘膜壁を刺激して、排便を促し便通を整えてくれます3,4)。
このように食物繊維は、便通を整えて便秘の解消に役立つほか、コレステロールやブドウ糖などの吸収を抑え生活習慣病予防に役立つなど生理的な機能を持っています。
食物繊維の摂り方
①食物繊維の摂取の目安
食物繊維は栄養素ではありませんが、健康維持のために毎日摂った方がよいとされています。日本人の食物繊維量は年々減少しています。これは背景にカロリーを気にする生活スタイルが定着し、食物繊維の摂取源である穀類食の減少も関係していると言えます(図1)。摂取目安の量として、1日に成人男性なら20g以上、成人女性なら18g以上が目標値となっています(表2)。食物繊維は目標値より多く摂っても過剰症は発生しません。ただし、天然由来であることが重要です(後述)。
日々の食事の積み重ねが腸の健康を通じ体に反映されますので、食物繊維をできるだけ多く摂るよう心がけましょう。
図1 日本人の食物繊維摂取量の変化
日本食物繊維学会監修『食物繊維 基礎と応用』p228, 第一出版
表2 食物繊維の食事摂取基準(目標値)
日本人の食事摂取基準(2015年版)
②食物繊維が配合された保健機能食品
食物繊維をたっぷり摂ることができる野菜料理でも、レタスサラダで0.3g 、コンニャクの煮物で1.2g、きんぴらごぼうで2.1gと食物繊維は期待しているほど多くありません。かなりの量の野菜を食べないと目標値をクリアできないのです。
食物繊維が少ない食生活は、脂肪やタンパク質が多くてエネルギー摂取量が高く、逆に野菜の摂取量が少ない傾向にあります。野菜不足と思ったら、特定保健用食品(以下、トクホ)などの保健機能食品を利用することも食物繊維の摂取に役立ちます。
ただし、化学的に合成された食物繊維の仲間(難消化性デキストリン、ポリデキストロースなど)は目安量より摂り過ぎると、おなかがゆるくなることがあるので注意が必要です。
③注目される食物繊維、アルギン酸
食物繊維の生理学的機能を利用できる、食物繊維配合のトクホがあります。たとえば、コンブなどの海藻に含まれる天然由来のアルギン酸を配合したトクホのドリンクは、コレステロールの吸収を抑える水溶性の食物繊維の働きと便通を整える不溶性の食物繊維の働きの二面性があることがわかっています。また、天然由来のアルギン酸は分子量が大きいのですが、それを低分子化した食物繊維が使われています。
・コレステロールの吸収を抑える5,6)
アルギン酸は、コレステロールを包みこんで、吸収を抑制すると考えられています。体内に吸収されなかったコレステロールはそのまま便といっしょに排出されますので、アルギン酸の摂取を続けることによって血中のコレステロール濃度を抑えることが期待できます。アルギン酸を配合した飲料はトクホとして認められた製品もあり、コレステロールが気になっている人に適しています。
・排便を促し便通を整える7)
排便にはある程度の便の量が必要で、便の量が少なすぎると便秘気味になります。アルギン酸は便の量を増やすことで、排便を促してくれます。
さらに大腸で低分子化アルギン酸は一部腸内細菌に分解され、善玉菌の腸内細菌を増やします。
食物繊維が配合されたトクホを上手に利用するポイントとしては、コレステロールやブドウ糖の吸収を抑えるためには、食事の直前あるいは食事と一緒に摂ることです。コレステロールやブドウ糖がおなかにないときに食物繊維を摂っても期待した機能は発揮されません。
また、トクホは効果があるからといって1回摂取するだけで変化を自覚することはありません。摂取を続けることで、健康保持の機能が発揮されます。さらにトクホを摂るからといって、食事量を増やしたり、カロリーの高いものを食べることは避けましょう。
食物繊維はおなかの調子を整えるイメージが強いと思いますが、食物繊維にはいろいろな生理作用があります。今回取り上げた生活習慣病のほか、虫歯やがんなど食物繊維摂取との関連性も明らかにされています。
食物繊維を上手に利用しながら、日々の食事の栄養バランスを改善したり、適度な運動をするなど、健康な生活を送るために取り入れていただきたいですね。
昔は、食物繊維は消化されない体の役に立たないものと考えられていました。
しかし食物繊維が病気に関わると考えられるようになり、1970年代になって研究が進み、いまでは健康に役立つ機能があることが認められています。
さらに研究が進むなかで、食物繊維と同じような生理機能を持つ成分が他にもあることがわかってきました。そこで日本食物繊維学会では、食物繊維をはじめオリゴ糖や難消化性デキストリンなどの新しい成分も幅広く含めて「ルミナコイド」と呼ぶことを提唱しています。
ルミナコイド(Luminacoid):ヒトの小腸内で消化・吸収されにくく、消化管を介して健康の維持に役立つ生理作用を発現する食物成分。luminal(消化管腔内)、accord(調和)、-oid(―のようなもの)からの造語。
【参考文献】
1)Brown L, et al.: Am J Clin Nutr 69: 30-42, 1999
2)Post RE, et al.: J Am Board Fam Med 25: 16-23, 2012
3)Dukas L, et al.: Am J Gastroenterol 98: 1790-1796, 2003
4)Saito T, et al.: J Nutr Sci Vitaminol 37: 493-508, 1991
5)浅岡 力, ほか: 栄養評価と治療 13(4): 92-96, 1996
6)田中 一成, ほか: 日本食物繊維学会誌 8: 13-20, 2004
7)奥 恒行, ほか: 日本食物繊維学会誌 56: 89-99, 1998