からだ健康サイエンスホーム
特 集
バックナンバー
検索
からだ健康サイエンスホーム > 特集 > ω3系多価不飽和脂肪酸(EPA・DHA)を効果的に取り入れ、食生活を見直そう

ω3系多価不飽和脂肪酸(EPA・DHA)を効果的に取り入れ、食生活を見直そう

ω3系多価不飽和脂肪酸(EPA・DHA)を効果的に取り入れ、食生活を見直そう

〈話し手〉 丸山 千寿子 Chizuko Maruyama(日本女子大学家政学部食物学科 教授)

 今、話題の成分として必須脂肪酸(ω3系多価不飽和脂肪酸)のEPA・DHAがあげられています。EPA・DHAが青魚に含まれるサラサラ成分とか、生活習慣病の予防によいということは何となく知っているものの、詳しくは知らないという方も多いのではないでしょうか。
 そこで、『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』の食事療法を担当され、伝統的な日本食を推奨していらっしゃる丸山千寿子先生に正しい知識について詳しく話していただきました。

必須脂肪酸とは

 脂肪は体内で効率のよいエネルギー源となりますが、使われなかった脂肪は体内に蓄えられてしまうため、脂肪は悪者扱いにされがちです。ただし、脂肪に含まれる必須脂肪酸は、私たちが健康を保ち、長く生きるために欠かすことができない成分です。
 いわゆる脂肪と必須脂肪酸は、どう違うのでしょうか。
 まず食後に血液検査をすると、食物の脂肪から吸収された中性脂肪(トリグリセリド)が上昇することが知られています。この中性脂肪が脂肪の主成分です。中性脂肪はグリセロールという骨格を軸に3つ脂肪酸が結合したものです(図1)。
 脂肪酸には種類があり、炭素の数と二重結合の数と位置で名称が異なります。二重結合がないものを飽和脂肪酸(二重結合が水素で飽和されている)、二重結合が1つあるものを一価不飽和脂肪酸、2つ以上あるものを多価不飽和脂肪酸といいます。
 脂肪酸は種類により流動性が異なります。飽和脂肪酸は常温ではバターのように固形です。一価不飽和脂肪酸には流動性があり、多価不飽和脂肪酸は冬でも液状のままです(表1)。

脂肪(中性脂肪)

図1 脂肪(中性脂肪)

脂肪酸の特徴

表1 脂肪酸の特徴

 脂肪酸は体内での働きが異なり、飽和脂肪酸は主にエネルギー源として使われます。不飽和脂肪酸の中の多価不飽和脂肪酸のうち、体の中で合成することができず食物から体の中に採り入れる必要があるものを必須脂肪酸と呼び、体に必要な成分の原料になります。
 必須脂肪酸にはω6(n-6)系脂肪酸とω3(n-3)系脂肪酸があります。ω6系脂肪酸は、脂肪酸のメチル基末端から6番目の炭素から二重結合が始まっているもの、ω3系脂肪酸は、3番目の炭素から二重結合が始まっているものです。
 必須脂肪酸は体の中で新しく合成することはできませんが、必須脂肪酸を基にして変換することができます。ω6系もω3系も出発物質が決まっていて、ω6系の出発物質はリノール酸で、リノール酸からはさらにアラキドン酸が作られます。ω3系の出発物質はα-リノレン酸で、α-リノレン酸からはEPAやDHAが作られます。ω6系のリノール酸、アラキドン酸、ω3系のα-リノレン酸、EPA、DHAの5つが広い意味で必須脂肪酸とされています。

コラム

 地中海食が健康によいとニュースになり、日本でもオリーブオイル=健康によいというイメージです。飽和脂肪酸のバターと比べれば、不飽和脂肪酸を含むオリーブオイルのほうが健康によいのは確かです。ただし、オリーブオイルは二重結合が1つの一価不飽和脂肪酸のオレイン酸が主成分。

オリーブオイルを冷蔵庫に入れると1時間もするとドロッとして脂肪の塊ができますので、多価不飽和脂肪酸に比べるとバターに近いといえます。
 地中海地域の人々は、オリーブオイルに加えて、1日750gの野菜、多価不飽和脂肪酸を含む魚、多くの果物の中でも抗酸化作用のビタミンCを含む柑橘類などを十分に摂るからこそ、北欧よりも冠動脈疾患が少ないのでしょう。つまりオリーブオイルだけに頼らず、魚や野菜もしっかり摂ることが大切です。

ω3系必須脂肪酸の働き

 ω-3系多価不飽和脂肪酸の研究はデンマーク領グリーンランド・イヌイットの人たちとデンマーク人とを比較した1960年代の疫学調査が発端でした。
 イヌイットは、出血傾向は高いのですが、明らかに心筋梗塞による死亡が少ないことがわかりました。その理由を調べたところ、血液中のEPAが非常に高かったのです。EPAが豊富な魚を主食としているアザラシをよく食べるため、イヌイットもEPAを体内に多く摂りこんでいました。そこからEPAが注目されるようになり、どのような働きを持っているのか、研究が進みました。
 ω3系脂肪酸の中でEPAが最初に医薬品として認められましたが、最近はDHAも注目されるようになりました。以前よりも微量の生理活性分子を測定することができるようになったため、DHAからできる生理活性物質に抗酸化作用もあることがわかり、動脈硬化に対してはDHAもEPAと一緒に摂ったほうがよいのではないかと考えられています。
 ω6系脂肪酸が多過ぎると、アラキドン酸から作られるプロスタグランジンが血圧の上昇などを介して、動脈硬化に影響することが懸念されます。一方、ω3系脂肪酸は、血液中の中性脂肪を低下させることで血液をサラサラにしたり、またω6系脂肪酸の過剰な働きを抑制して動脈硬化を予防することも期待されるなど、ω6系脂肪酸の機能とのバランスを上手くとっていると考えられています。
 さらにω6系脂肪酸は、アレルギーなどの炎症を起こす物質(ロイコトリエン)を作りますが、ω3系脂肪酸はむしろ炎症に抑制的に働いているとされます。つまりω6系脂肪酸が働き過ぎないように、日常生活ではω3系脂肪酸をバランスよく摂取することが重要なのです。またω3系脂肪酸のEPAやDHAは細胞膜や神経細胞の構成成分でもあることから、血管の動脈硬化や認知機能に対する働きも関係しているのではと考えられています(図2)。

食品中の脂肪酸の種類と機能

図2 食品中の脂肪酸の種類と機能

日本医事新報 No.4769 2015.9.19

ω3系脂肪酸の取り入れ方

 必須脂肪酸は摂取する目安が設けられています(表2)。ω6系脂肪酸はサラダ油などに含まれ、食事から比較的摂りやすいのですが、魚をあまり食べない人はω3系脂肪酸が不足しています。また、α-リノレン酸から作られるEPA、DHAの量はそれほど多くないため、ω3系脂肪酸系を摂り入れるためにまずはEPA、DHAを含む様々な魚を食べることが推奨されます。日本人が食べている様々な種類の魚にはEPAとDHAの両方が含まれている魚が多いため、食事に魚を取り入れるとEPAとDHAの両方を摂ることができます(図3)。

ω3系脂肪酸、ω6系脂肪酸の食事摂取基準(g/日)

表2 ω3系脂肪酸、ω6系脂肪酸の食事摂取基準(g/日)

日本人の食事摂取基準(2015年版)

主な青魚のω3系多価不飽和脂肪酸含有量(可食部100mgあたりmg)

図3 主な青魚のω3系多価不飽和脂肪酸含有量(可食部100mgあたりmg)

日本食品標準成分表2015年版(七訂)

 動脈硬化が気になる人、また血圧やコレステロールの検査値が高めで気になる人は、特に意識して魚を食べることに取り組みましょう。

栄養バランスのとれた食生活の意義

 日本人は、日本の海や山にあるものを食べて飢饉などの困難を克服し、現代まで遺伝子を受け継いできました。もともと栄養状態が悪い、食べるものが少ないところで生きてきたため、エネルギー量の多い欧米化した食事は日本人にとっては糖尿病や脂質異常症、心筋梗塞を招くリスクとなります。
 1960年代、日本は先進諸国の中で動脈硬化に関連した死亡率が低かったため、日本の食事が世界で注目されましたが、高度成長とともに食事の欧米化が進みました。そこで日本動脈硬化学会は、1960〜70年代の食事を現代に取り入れようと、『動脈硬化性疾患診療ガイドライン2012年版』で「日本食(The Japan Diet)」の推奨を始めました。実際に、大豆を食べている人たちは心筋梗塞の死亡率が低い、野菜と果物を食べている人は脳卒中の死亡率が低い、魚を食べている人たちは心筋梗塞の死亡率が低いなどの研究結果が出ています。日本人が昔から食べ続けているものを、毎日の食事に取り入れましょう。
 残念なことに、10年前と比べると最近では日本人のすべての世代で魚の摂取量が減っています(図4)。まずは食事で魚や野菜、大豆などを食べる工夫をすると、生活習慣病などの薬物治療が必要となる時期をできるだけ先に延ばすことができるのではないでしょうか。
 自分の健康を守るために、男女を問わず、体に必要な食事を見分ける力と知恵を身につけることは大切です。魚は買ってきて焼く、新鮮なお刺身を盛り付けるなど、魚を食べることは難しいことではありません。量の目安は1日に切り身1切れ、あるいは小さいあじ1尾、より小さいいわしだったら2尾で十分です。ただし妊婦の場合は、特に水銀汚染が疑われる魚を避けるよう、注意が必要です。
 体は食べた物だけで成り立っています。その毎日の繰り返しで自分の体が作られていることを意識して、体によいものを選んで食べることが、健康の基本です。食事から必要なものを摂ることは、目的とする成分のほかに様々な栄養素を摂ることができます。例えば魚のタンパク質にはタウリンが含まれていますし、骨ごと食べられる小魚ではカルシウムも摂ることができます。
 また、家族で暮らしている場合はなるべく家族が一緒に食事することも大切です。何よりも食事の時間は心の栄養になるでしょう。

魚介類の1日摂取量の平均値(20歳以上、男女計・年齢階級別)

図4 魚介類の1日摂取量の平均値(20歳以上、男女計・年齢階級別)

コラム

動脈硬化性疾患予防のために
日本動脈硬化学会が推奨する『日本食』のポイント

肉の脂身、乳製品、卵黄の摂取を抑える
魚類、大豆製品の摂取を増やす
野菜、果物、未精製穀類、海藻の摂取を増やす
食塩を多く含む食品の摂取を控える
アルコールの過剰摂取を控える

 大豆製品としては納豆が勧められ、十分な量の野菜、そして甘すぎない果物を選ぶようにします。海藻はノーカロリーで、血圧を下げてくれるミネラルを豊富に含み、ω3系脂肪酸も含むため積極的に摂り、その他にこんにゃくや、ビタミンDやナイアシンが豊富なキノコも摂取を増やしたい食品です1)

 我々の研究グループは、40代の33名に日本食に挑戦してもらいました。すると6週間後には肉の摂取量がやや減り、魚や大豆が倍増し、その結果、体重やBMI、腹囲、MDA-LDL(酸化LDL)が減少し、中性脂肪やLDL-コレステロール、血圧、血糖値も改善傾向が見られるという期待以上の手応えが得られました2)。食事を見直すことで健康寿命を延伸させることが示唆されました。

1)日本動脈硬化学会 一般の方々向け 動脈硬化の病気を防ぐガイドブック 食事療法

2)Maruyama C, et al. : J Atheroscler Thrombo, 2016 DOI:105551/jat36780

からだ健康サイエンスホーム特集バックナンバー
このページの先頭へ
Copyright © Alinamin Pharmaceutical Co.,Ltd.All Rights Reserved.