腹痛
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腹痛

みぞおち辺りから下腹部までの痛みを総称して腹痛と呼びます。しかし、その痛み方や痛む場所によって、原因はさまざまに異なります。腹痛の中には、重大な疾患が隠れている場合がありますから注意が必要です。

井上修二 先生

監修

井上修二 先生 (いのうえしゅうじ) (共立女子大学名誉教授、医学博士)

腹痛の原因はストレスや下痢、食べすぎなどが考えられる

ストレスや温度差による自律神経の乱れ

過度の精神的ストレスだけでなく、エアコンでキンキンに冷えた夏の室内や、暖房で汗ばむような冬の室内など、室内外の温度差による身体的ストレスが原因で、胃や十二指腸の働きをコントロールしている自律神経が乱れることがあります。すると、過剰に分泌された胃酸が胃の粘膜を傷つけ胃痛を引き起こします。

便秘、下痢

便秘や下痢の中でもとくに、精神的ストレスや過労によって腸が過敏に痙攣する痙攣性便秘では、下腹部に強い痛みがあらわれます。また、冷たい飲み物を一気に飲んだり、とりすぎたりすると腸が刺激されて、腹痛をともなう下痢を起こすことがあります。

食べすぎ飲みすぎ、刺激の強い食べ物

暴飲暴食をしたり、にんにく、唐辛子など刺激の強い食べ物を過剰にとると、胃が痛むことがあります。また適量を超えた毎日のアルコールやタバコ、香辛料、果汁、炭酸飲料も胃酸の分泌を促進して胃の粘膜に炎症を起こし、胃痛の原因になります。

腹痛の原因となる主な疾患

急性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、大腸の炎症性疾患、腸閉塞などの胃腸の疾患はもちろん、膵臓や腎臓、胆のうの疾患でも、腹痛を起こすことがあります。内臓の疾患の中でも、盲腸炎としても知られる虫垂炎では、上腹部から下腹部にかけて痛みが生じます。また、サルモネラ菌やノロウイルスに代表される食中毒や、さばやあじ、いかなどの近海ものの魚介類に潜んでいるアニサキスという寄生虫によるアニサキス症でも、上腹部や下腹部の中央に激しい腹痛があらわれます。

おへそのあたりやみぞおちなど腹痛が起こっている部位ごとに考えられる疾患

※以下の疾患は、医師の診断が必要です。
下記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

みぞおち(図①)に痛みが起こる疾患

みぞおちに痛みを感じ、吐き気や嘔吐をともなうようなときは、急性胃炎や逆流性食道炎が考えられます。また、みぞおちがキリキリ、シクシクと痛み、とくに食後に痛むときは胃潰瘍、空腹時に痛むときは十二指腸潰瘍が疑われます。また、急性虫垂炎の初期には、みぞおちに痛みを感じます。胃腸の疾患以外では、急性膵炎でもみぞおちの中央から左側にかけて激しい痛みがあらわれます。さらに、その痛みが背中や肩にまで及ぶこともあります。

この疾患・症状に関連する情報はこちら。 みぞおちの痛み

右手側のみぞおち(図②)に痛みが起こる疾患

みぞおちの右側が痛んだときに、まず考えられるのが胆嚢炎、胆石症、胆管炎などの疾患です。とくに胆石症では発作性の激しい腹痛が起こり、さらには右の背中や胸、肩が同時に痛むこともあります。また、腎臓の中の組織である腎盂(じんう)が炎症を起こす腎盂腎炎でも、みぞおちを始め腰背部に鈍痛を感じます。

左手側のみぞおち(図➂)に痛みが起こる疾患

左の肋骨の下辺りの痛みは、主に急性膵炎などの膵臓の疾患が考えられます。急性膵炎は、みぞおちの左側から中央にかけて痛み、さらには左胸や左背部、左肩の方にまで痛みが広がることが大きな特徴です。他には、胃の上部に起こった胃潰瘍や急性胃炎などでもみぞおちの左側に痛みを感じることがあります。

おへその周辺(図④)に痛みが起こる疾患

おへそ周辺の痛みの大部分は急性小腸炎、急性大腸炎、潰瘍性大腸炎などの腸の疾患が原因になりますが、腎臓や尿管にカルシウムの結石ができる腎結石、尿管結石も疑われます。とくに尿管結石では、冷や汗をかくような激しい痛みが主に明け方に起こります。腎結石の痛みは鈍痛で、おへその周辺と背中に痛みがあらわれます。

下腹部(図⑤)に痛みが起こる疾患

下腹部が痛むときは、痛み方の他にあらわれている症状を確認してみましょう。下痢が何週間も続いたり、下痢と便秘を繰り返すようなときは過敏性腸症候群が疑われます。排尿時に痛みがあらわれ、頻尿や残尿感をともなうときは前立腺炎や膀胱炎などの疾患が考えられます。

右手側の下腹部(図⑥)に痛みが起こる疾患

盲腸炎としても知られる虫垂炎は、腹部右下周辺に激しい痛みを感じる疾患です。発症数時間はみぞおちに痛みがあらわれ、痛みが増しながら段々と右下に移動します。その間痛みは治まることなく持続し、痛みが右下腹部に行きつくころには、患部が化膿し、胃や肝臓などの臓器を包む腹膜も刺激するようになって、体を動かすのも大変なほど強く痛むようになります。

左手側の下腹部(図⑦)に痛みが起こる疾患

急性大腸炎、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群などの大腸の疾患が主なものですが、女性の場合下腹部に子宮があるため、生理痛で多くは左下腹部に痛みを感じます。その他、子宮内膜症や卵管炎、子宮がんなどの疾患が痛みの原因になります。また、膀胱炎、尿道炎などの疾患でも左下腹部に痛みを感じます。

腹部全体(図⑧)に痛みが起こる疾患

腹部全体に感じる激しい痛みは、原因として腸閉塞(イレウス)や急性腹膜炎、腸間膜動脈血栓症などの疾患が疑われます。その他、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の進行によって胃に穴があいたり、子宮外妊娠の破裂によっても腹部全体に激痛があらわれます。これらの疾患では、ショック症状をともなうような激しい痛みが起こることもあるので、注意が必要です。比較的軽い痛みは過敏性腸症候群が疑われます。

※以上の疾患は、医師の診断が必要です。
上記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

ストレスからくる一時的な腹痛は市販薬で対処、激しい痛みが長く続く場合は病院へ

市販の薬を使う

便秘や下痢、ストレスからくる胃腸の痛みなど、腹痛の原因はさまざまなので、薬を選ぶときは薬剤師や登録販売者に相談しましょう。

痛む場所や度合いを正しく伝える

お腹が痛いときに薬局や病院で適切な処置を受けるためにも、腹痛を訴えるポイントを押さえておきましょう。大切なことは痛む場所、次に痛み方と痛みの度合いです。その他に、腹痛以外の症状があるかどうかです。下痢や嘔吐など、思い当たることがあれば必ず伝えるようにしましょう。

病院で診察を受ける

「お腹が痛い」という症状は誰もが一度は感じたことがあるはずです。それだけに、「そこまで痛くないから大丈夫」「そのうち治まるはず」などと考えてしまうことも少なくありません。しかし、激しい痛みの場合はもちろん、鈍い痛みでも持続的に起こるようなときは重大な疾患が隠れていることがあります。必ず主治医や内科、胃腸科などの診察を受けましょう。

日常的にストレス解消や生活習慣の改善で腹痛を予防しよう

規則正しい食生活を送り、嗜好品を控える

1日3食を規則正しく、適量を守って食べる。当たり前のことのように思えますが、こんな心構えが腹痛の予防には一番大切です。スムーズな排便を促す食物繊維を意識してとると便秘の予防になります。また、アルコールやタバコ、刺激の強い食べ物などの嗜好品は控えめにして、胃腸をいたわりましょう。

体を冷やさない工夫をする

エアコンの効いた室内では、上着を羽織ったり膝かけをしたりして体温調節を行うといいでしょう。また、暑い日はついつい冷たい飲みものを飲みたくなりますが、体を内側から冷やさないためにも冷たい飲み物の飲みすぎは控えましょう。

精神的なストレスを解消する

心にかかる重圧や悩みごとは、体の健康にも大きく影響します。好きな本を読む、ゆっくりとお風呂につかる、友人とおしゃべりを楽しむなど、簡単にできる自分なりのストレス解消法のレパートリーを複数持っておくと、毎日のストレスを溜め込みにくくなります。

プチメモ温めたら腹痛が悪化!?自己判断の危険な落とし穴

温めたら腹痛が悪化!?自己判断の危険な落とし穴

よく「お腹が痛いときは温めるといい」といいますが、これは大きな間違い。虫垂炎や腹膜炎など、炎症を起こしている場合は温めることでさらに痛みが増す場合があります。腹痛はポピュラーな症状だけに、ついつい自己判断をしたり、放置しがちですが、必ず薬局で薬剤師や登録販売者に相談をしたり、病院で診察を受けるようにしましょう。