ヘリコバクタ―・ピロリ菌は、胃の粘膜表面の粘液層の中に棲んでいる細菌です。胃や十二指腸を守っている粘液の中に棲んでいるのです。粘液の中は上皮細胞が作るアルカリが胃酸を中和しているため、酸が少なく棲みやすいようです。
ヘリコバクタ―・ピロリ菌は5歳ごろまでに経口的に感染し、人の胃や十二指腸の粘液層内に棲み着きます。そして粘膜に炎症を引き起こして、粘膜上皮細胞を傷つけ粘液の分泌量を減らしてしまいます。私たちの免疫系は、子供のときに感染したヘリコバクター・ピロリ菌を殺すことは残念ながらできません。そこで、一度感染すると特別な治療(ヘリコバクター・ピロリ除菌治療)をしない限り、ほぼ一生私たちの胃や十二指腸に棲み続けます。
昔は日本人の70%以上がヘリコバクター・ピロリ菌に感染していました。このため、この菌の感染によって胃粘膜が傷つき、胃粘液分泌量が少なくなり、アルカリ分泌量も少なくなります。それにより粘膜の防御力が弱くなり、胃潰瘍や十二指腸潰瘍がたくさんできていたのです。潰瘍が薬物治療で治っても、ヘリコバクター・ピロリ菌が棲み続けている限り、また潰瘍ができてしまいますので、胃・十二指腸潰瘍は何度も再発を繰り返す病気であったわけです。
またヘリコバクター・ピロリ菌は、胃がんの最も重要な原因でもあります。この菌が胃粘液層内に棲み着いて胃粘膜に炎症を起こし、これが長く続いていると胃がんになりやすくなるのです。胃潰瘍は胃がんの原因ではありませんが、胃潰瘍も胃がんもヘリコバクター・ピロリ感染が重要な原因なのです。
幸いなことに、衛生環境の改善や除菌治療が広く行われたこともあって、日本人のヘリコバクター・ピロリ感染はずいぶん少なくなり、若い人たちでは感染率は10%以下になっています。このため、日本では胃・十二指腸潰瘍、胃がんが最近少なくなってきているのです。
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