胃食道逆流症(GERD)
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胃食道逆流症(GERD)

胃食道逆流症(GERD)とは、食後に胸やけを起こしたり、胃酸が喉に上がってきて気持ち悪くなったりするような、不快な症状がある病気のことを言います。胃食道逆流症は中年男性や高齢の方に多く、何度も胸やけが起こる場合には長期的な治療が必要な場合もあると言われています。ここでは、胃食道逆流症の原因や症状、対処法について解説します。

木下 芳一 先生

監修

木下 芳一 先生 (兵庫県立はりま姫路総合医療センター 院長)

胃食道逆流症とは?

胃食道逆流症(GERD:Gastro Esophageal Reflux Disease)とは、日本人の10~20%の人がかかっていると言われていて、患者数はとても多く、一般的な病気です。たくさん食べたり、脂っこいものを食べた後に、たびたび胸の前のあたりが熱くなったり(この症状を「胸やけ」と言う)、酸っぱい胃酸が喉に上がってきて(この症状を「呑酸(どんさん)」と言う)、気持ちが悪くなる経験をしたことがある方もいるのではないでしょうか。このような状態で不快感が強いものを胃食道逆流症(GERD)と呼んでいるのです。

胃食道逆流症は中年男性と高齢の方に多い病気で、若者には少ない病気です。胃食道逆流症は、胃酸を減らす薬を飲めば症状はすぐに良くなりますので、ほとんどの方は一時的な対応で済むことが多いとされます。しかし、何度も胸やけが起こるという場合には、長期的な治療が必要な場合があります。心当たりがある場合は、病院や診療所を受診して消化器内科の医師に相談するようにしましょう。

胃食道逆流症は3つのタイプに分けられる

胃食道逆流症は、大きく3つのタイプに分けることができます。「非びらん性胃食道逆流症」、「軽症型逆流性食道炎」、「重症型逆流性食道炎」の3つです。
この中で、胸やけなどの症状だけが起こる非びらん性胃食道逆流症が50%ほど、傷が小さく合併症を起こしにくい軽症型逆流性食道炎が47.5%ほど、傷が大きく出血などの合併症が起こりやすい重症型逆流性食道炎が2.5%ほどを占めています。それぞれについて詳しく紹介していきます。

非びらん性胃食道逆流症

非びらん性胃食道逆流症では、胸やけ症状はよく起こりますが、病院を受診して内視鏡検査を受けても、食道にも胃にも傷などの異常は見つかりません。このタイプは胃食道逆流症の半分(50%)ほどを占めており、最も多いとされています。
非びらん性胃食道逆流症は、困った合併症を起こすこともほとんどありませんので、不快な胸やけ症状をどのように起こらなくするかが大切です。

軽症型逆流性食道炎

軽症型逆流性食道炎では、胸やけを繰り返す場合に内視鏡検査をしてみると、食道下部の最も胃に近い部分に、小さい傷ができています。傷が小さなものであるため、出血などの合併症を起こすことはほとんどありません。また、経過を何年も見た研究でも、だんだんと傷が大きくなって重症になっていくわけではないとされています。つまり、軽症のものは何年経っても軽症のままであることが多いことが分かっています。胃食道逆流症の中の50%ほどを占めている、食道に傷がある逆流性食道炎の中で95%ほどは軽症型逆流性食道炎に当てはまります。
つらい症状が起こらないように、また起こってしまった場合には、すぐに良くなるように治療することが大切です。

重症型逆流性食道炎

重症型逆流性食道炎は、胃食道逆流症の中の2.5%ほどであり、幸いにも有病率が低いタイプです。逆流性食道炎の中では、5%ほどがこの重症型に当てはまります。重症型逆流性食道炎では、出血や食道狭窄(しょくどうきょうさく:食道の一部が狭くなり、食べ物や飲み物が通りにくくなる状態のこと)などの合併症を起こしやすく、病院や診療所で治療を継続して受けることが必要と言われています。

胃食道逆流症の原因

胃食道逆流症の原因は、塩酸とペプシンというタンパク質を分解・消化する酵素をたくさん含んだ胃液が食道の中に逆流し、長い時間食道の中にとどまることです。酸度の高い胃液が食道の粘膜を刺激して胸やけ症状を起こし、食道粘膜に傷をつけ逆流性食道炎が発症することになります。

食道と胃の間には弁のような部分があります。この弁により、食べ物は口から胃へ通過しますが、反対に胃から食道へは逆流しないようになっています。ただし、この弁は残念ながら完全ではありませんので、時々胃液が食道内や喉のところ、さらに口の中まで逆流することがあるのです。健康な方でも、1日24時間のうち1時間ほどは胃液が食道に逆流して滞留していますが、これぐらいの時間であれば、症状も食道粘膜の傷も起こりません。弁の調子が悪くなると、胃液の食道内への逆流が増えてしまいます。それにより食道粘膜が長い時間胃液にさらされると、胸やけ症状が起こったり、食道に傷ができてしまうのです。

食道と胃の間にある逆流防止弁の働きは、太っている方や高齢の方では弱っています。また、一度にたくさん食べたり、脂っこいものを食べたり、お酒やたばこで一時的に働きが悪くなることもわかっています。このため、胃食道逆流症は生活習慣病であるとも言えます。

胃食道逆流症の症状

胸やけ

食後に起こる胸やけが、胃食道逆流症の最も特徴的な症状です。一般的には、1週間に2回以上胸やけ症状が起こるような場合に、胃食道逆流症と診断されます。たくさん食べたとき、脂っこいものを食べたとき、お酒を飲んだときに胸やけが起こりやすいのも特徴のひとつです。

その他の症状―呑酸、胸痛、胸につかえる感じなど―

胸やけ以外にも、酸っぱい酸が喉のところにまで上がってくる呑酸、胸痛、食べ物を食べるときに時々胸につかえる感じが起こることもあります。
重症型では、食道粘膜の傷から出血が慢性的に起こり、貧血になることもあります。

胃食道逆流症の対処法

胃酸の分泌を抑える薬を服用する

胸やけや呑酸の症状が起こると、その不快感から生活の快適性が低下したり、食事がおいしく食べられなかったり、仕事の効率が低下したりします。そこで、まずは胸やけなどの症状をできるだけ早くなくすことが大切です。

胃酸の分泌を抑える薬をのむと、胃液の中の酸の量が減ります。ペプシンという胃液の中のタンパク質消化酵素は、強い胃酸がないと働きませんので、胃酸の分泌を少なくするとペプシンの消化力も自動的に弱くなります。このため、最近では胃食道逆流症の患者さんに対しては、効果が確実で短期間に十分な効果が得られる、胃酸分泌を低下させる薬が病院でも診療所でも第一選択治療として使われています。

胃酸の分泌を低下させるためにはいろいろな薬剤が使用されますが、一部の薬剤は、病院や診療所での長い使用実績に基づいて、今では医師の処方箋なしで薬局で薬剤師と相談しながら購入できるものもあります。

胃食道逆流症の特効薬は「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」

胃酸の分泌を減らす薬の中で、胃食道逆流症の治療に世界で最も使用されている薬剤は「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」と呼ばれるものです。この薬は、胃酸が多い人の胃酸分泌を強く抑制し、胃酸が少ない人にはそれほど効果が出ません。つまり、酸分泌抑制力に自己調整能があります。1日1回の内服で効果があり、食後の胃酸分泌を低下させる力が強いため、食後に起こりやすい胸やけ症状に効果的です。また、長く薬剤を連用しても効果が低下することもありません。何年間にもわたって服用し続けていると、胃酸が減ることで鉄分やカルシウムの吸収が悪くなり、貧血や骨粗しょう症を起こしやすくなるとする意見もありますが、2週間程度の短期の服用ではそのような副作用も起こらないと言われています。この薬は、胃食道逆流症の特効薬と考えても良いでしょう。

日常生活でできる対処法―食習慣や生活習慣の改善―

一度にたくさん食べない、脂っこいものを食べすぎない、お酒やたばこを控える、太っていれば痩せるなど、食習慣や生活習慣の改善はすべて大切ですが、効果が出るのには時間がかかります。これらだけでは治療的な効果はあまり期待できませんが、症状が起こることを予防するには有効でしょう。

その他、水や牛乳を飲んで食道の中に逆流してきた胃酸を胃の中へと洗い流したり、中和することも有効ですが、いつでもできるわけではありません。また、チューインガムを噛むと唾液の量が5~10倍ほどに増えます。唾液は中性のため、胃酸を中和したり洗い流したりすることができます。脂っこいものをたくさん食べた後にガムを噛むと胸やけが起こりにくくなりますので、手軽にできる手段として試してみてください。焼肉店の退店時にガムをもらうことがあるのは、口臭予防に加え、このような効果が期待できるからとも言えるでしょう。

胃食道逆流症のタイプ別の対処法

非びらん性胃食道逆流症、軽症型逆流性食道炎

胃食道逆流症の大部分を占める非びらん性胃食道逆流症や軽症型逆流性食道炎では、困った合併症を起こすことはあまりないと言われています。また、これらの場合の胃酸の食道内への逆流は、たくさん食べたり、脂っこいものを食べた後の昼間の時間帯に起こりやすいことが分かっています。そのため、薬の服用とともに、大食や高脂肪食は避ける、お酒やたばこを控える、太っていれば痩せるなどの改善をすることが大切です。

重症型逆流性食道炎

胃食道逆流症の2.5%ほどに当てはまる重症型逆流性食道炎は、主に高齢の方に多く、食べ物が胸につかえるような症状を訴える方も多くいます。また、この場合の胃酸の食道内への逆流は食後にも起こりますが、むしろ夜寝ている時間帯に起こることが多いことが分かっています。このため夜間に胸やけや呑酸で目が覚めてしまい、睡眠障害を感じる方が多いと言われています。また、重症型逆流性食道炎であれば、合併症の出現を防ぐために長期的な薬剤の服用も必要になります。
高齢の方や貧血がある方、食べ物が胸につかえることがある方、睡眠中に症状がよく起こる方、睡眠中の症状のために寝不足になりがちな方などは、注意が必要です。このような方は、病院や診療所を受診して消化器内科医の診察を受け、必要に応じて内視鏡検査を受けるのが良いでしょう。
重症型逆流性食道炎の場合の対処法としては、薬の服用や食習慣・生活習慣の改善に加えて、寝ているときの食道内への逆流を減らすために、寝るときに頭側を少し高くしたり、左下側臥位(そくがい:体の左側を下にした横向き)で寝る方法も有効だと考えられています。

胃食道逆流症の治療後の経過と注意事項

胃食道逆流症は再発を繰り返しやすい病気です。さらに、生活習慣病としての特性も持っています。PPIなどの胃酸を減らす薬を服用すると、症状はすぐになくなり、食道粘膜の傷もすぐに治癒することが多いと言われています。ところが、薬の服用をやめると高頻度に再発し、胸やけ症状や食道の傷が再び起こってしまうのです。このため、食習慣や生活習慣を整えて、胃食道逆流症が再発しにくいようにしておくことが大切です。

胃食道逆流症の方は、合併症をおこしやすい重症型逆流性食道炎でなくても、胸やけ症状をたびたび繰り返す場合には、食道がんの発症危険因子である「バレット食道」ができている場合があります。長さが3cmを超えるような長いバレット食道は食道がんの危険因子です。薬の服用で胸やけ症状が一時的に収まっても、何度も繰り返す場合には、消化器内科医の診療を受けるようにしましょう。