空腹時の胃痛(みぞおち周辺の痛み)の原因とは?対処法や改善のための習慣を解説

空腹時の胃痛(みぞおち周辺の痛み)の原因とは?対処法や改善のための習慣を解説

空腹時になぜ胃痛が起こるのでしょうか。「お腹が空いてくるとみぞおちの辺りがシクシクする」「何かを食べると落ち着く」。そのような症状は胃の調子が良くないことをあらわしているのかもしれませんし、胃とは別のところに異常が起きているのかもしれません。空腹時の胃の辺りの痛みについて、考えられる主な原因と対処法、改善のために意識したい生活習慣を解説します。
内藤 裕二 先生

監修

内藤 裕二 先生 (京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座教授/一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会理事長/日本酸化ストレス学会副理事長)

空腹時に起こる胃痛の原因

まず初めに、「胃が痛い」という症状のなかでも、特に「空腹のときに、胃が痛い」という場合に、可能性が高いと考えられる原因を挙げます。

空腹時に胃痛が起こる原因として最も考えられる疾患は、胃または十二指腸の潰瘍(かいよう)です。「潰瘍」とは、粘膜や皮膚の表面が炎症を起こして、えぐれたようになった状態を指します。胃や十二指腸の粘膜に潰瘍ができる原因として、強力な酸性の消化液である「胃液(胃酸)」の影響、ピロリ菌感染の影響などが挙げられます。

なお、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の症状には大きな差はなく、どちらも空腹時の痛みが特徴的です。しかし個人差も大きく、痛み症状よりもむかつき、膨満感だけのこともあり、突然の吐血や下血で発症することもあります。

「空腹のときに、胃が痛い」という場合に考えられるその他の疾患は、「胃食道逆流症(GERD)」です。これは胃の内容物(食べた物や胃液)が食道へ逆流してしまう病気です。胸やけ(みぞおちの上の焼けるようなジリジリする感じ、しみる感じなど)や呑酸(どんさん:酸っぱい液体が上がってくる感じ)などの不快な自覚症状を感じます。

空腹時だけでなく、胃痛(みぞおち周辺の痛み)が起こる原因はさまざま

ここからは空腹時の胃痛も含めて、胃痛の原因について、幅広く解説していきます。なお、食事から何時間後の胃痛が「空腹時の胃痛」なのかという定義のようなものはありませんが、一般的に胃の内容物が少なくなってくる食後3~5時間が経ってから、次の食事の前までに生じる胃痛を指すと考えて良いでしょう。

胃痛の原因はまだ正確にはわかっていないことが少なくありませんが、胃酸により胃の粘膜が刺激されていることが原因の一つとされています。みぞおちの辺りの痛みのことを「心窩部痛(しんかぶつう)」と言いますが、心窩部痛の原因としては胃の病気以外にも、食道や心臓などの疾患も含まれます。実際、「胃痛」で医療機関を受診される患者さんを診察すると、胃以外の痛みの原因が見つかることも。ここでは代表的な原因を解説します。

喫煙習慣やストレス

胃痛の症状は、病気以外が原因となることもあり、喫煙やストレスなどはその代表例。喫煙は、胃の粘膜の血流を低下させたり、胃酸の分泌を高めたりする可能性も指摘されており、いずれも胃の粘膜に負担をかけてしまいます。

ストレスについては、自律神経のバランスの乱れを介して、胃の不調をきたす可能性が想定されています。自律神経とは、循環器、消化器、呼吸器などの活動を調整するために、常に働き続けている神経のことです。自分が意識しなくても、自律的に働いており、体が活動しているときに活発になる「交感神経」と、安静時に活発になる「副交感神経」があります。この、主として心身を活発にするように働く「交感神経」と、反対に心身を落ち着かせるように働く「副交感神経」がバランスを保つことにより、全身を最適な状態に維持しています。

例えば、何かしらのストレスを受けたときは交感神経が活発化し、緊急事態での生存に適した状態に対応できるように働き、心拍数や血圧は上昇する一方で、胃腸の消化活動などの働きは抑制されます。軽度のストレスであってもそれが慢性的に続いていると、胃の働きが常に停滞しがちになり、不快な症状があらわれやすくなると考えられます。

食べ過ぎ・飲み過ぎなどの胃酸に関わる食習慣

「胃」という内臓は、口から入った食べ物・飲み物を消化する最初の臓器です。アルファベットのJのような袋状の形になっており、飲食した物と胃液をかきまぜて粥状(じゅくじょう。おかゆのような状態)にして、少しずつ十二指腸へと送り出しています。食べ過ぎたり飲み過ぎたりすると、このような胃の作業量が増えて負担がかかり、それが胃の痛みとなってあらわれることがあります。

胃痛をともなう疾患(病気)

※以下の疾患は、医師の診断が必要なものもあります。
症状が続くなど心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

胃の疾患

  • みぞおちの辺りの痛みや不快感がある場合・・・「胃・十二指腸潰瘍」が考えられます。空腹時の胃痛の原因として、可能性が高い病気です。ピロリ菌感染や胃酸による胃粘膜への刺激、または胃粘膜の脆弱性(胃酸などの刺激に対する防御力の弱さ)などのために、胃・十二指腸の粘膜がダメージを受けて潰瘍ができ、痛みを生じます。空腹時に症状があらわれやすい原因は、胃が空になると胃の粘膜が胃酸にさらされやすいためと考えられています。
  • 胸やけをともなう場合・・・「胃食道逆流症(GERD)」が考えられます。胃酸や食べた物が食道に逆流してくる病気です。
  • その他・・・胃痛の原因として、胃がんも考えられます。その他に、検査を受けても器質的な原因(構造的な異常)を特定できない胃痛も少なくありません。そのような場合は消化管の構造ではなく、胃の血流の悪さやぜん動運動(胃の収縮運動)の低下などの影響で機能に問題があると考えられ、「機能性ディスペプシア(FD)」と診断されます。

胃以外の疾患

みぞおちの辺りが痛いと「胃が痛い」と思いがちですが、検査を受けてみると、原因は胃でなかったということもあります。

  • 息苦しさをともなう場合・・・心臓や肺の疾患が考えられます。特に、急激に症状があらわれた場合は、心筋梗塞などの緊急治療が必要な状態の可能性も。
  • 背中のほうにも痛みがある場合・・・肝臓や胆嚢、膵臓の疾患の可能性が考えられます。
  • 痛む場所が下腹部に移動してきた場合・・・みぞおちの痛みが下腹部、特に右下腹部に移動してきたという場合、虫垂炎(いわゆる盲腸)である可能性が高くなります。
  • 触ると痛い場合・・・肋骨(ろっこつ)が折れている可能性もあります。

【プチメモ】胃酸過多の日本人が増加している?

ここまでの解説で「胃酸」という言葉をしばしば使いました。実際、胃痛を語るとき、胃の粘膜にダメージを与える「胃酸」は、キーワードとなる重要な因子です。

日本人の胃酸の分泌量は、かつては欧米人より少なかったと言われています。ところが20世紀後半になると、胃酸分泌を阻害する(低下させる)ピロリ菌の感染者率が低下してきたことや、食生活が欧米化したことによって、日本人の胃酸分泌も徐々に増加してきたことが報告されています。そのような変化によって、日本人の胃痛の原因も変化してきています。
みぞおちの辺りの不快感の原因として、胃食道逆流症(GERD)を取り上げましたが、これは胃酸分泌の影響が強い病気です。ですから、ピロリ菌感染者率の低下と食習慣の欧米化と歩調を合わせるかのように、胃食道逆流症の患者数が増加してきました。

ただ、近年の研究では、日本人の胃酸分泌量は欧米人のレベルまでは増えていないと報告されています。この事実は、胃の痛みの原因として、胃酸過多以外の因子、例えば生活習慣やストレスなどの影響も、相対的に多くなってきていることを示唆していると理解することもできます。また、胃の知覚過敏と呼ばれるような、食べた物や胃酸に対する胃粘膜の知覚が敏感になり過ぎている状態が、胃痛に関係していることもわかってきています。

空腹時に胃痛があるときの対処法

食事による対処

空腹時だけ痛む、または空腹時に痛みがより強まるという場合、胃の内容物が少ないために、胃粘膜が胃酸にさらされやすくなっていることも考えられます。

そのような胃痛の際の一次対応として、胃の中に何か入れる、つまり、食事を取ることによって、胃酸による粘膜への負担を軽くするという方法もあります。空腹になる時間帯をなるべく少なくするため、回数を増やして少量の食事を取ると症状が軽くなることもあるかもしれません。

また、時間がないからといって朝食を食べないと、前夜から当日の昼まで、実に十数時間も、胃に何も入らない状態が続き、その間、胃の粘膜が胃酸にさらされ続けてしまいます。朝、時間がなくても、例えばバナナや牛乳などを軽く口にするようにしましょう。

市販薬を活用した、胃酸への対処も可能

市販の胃薬を活用する方法もあります。胃痛の原因として胃酸分泌が関係していることも多く、胃酸分泌を抑える薬は、処方薬だけでなく市販薬としても販売されています。自分の症状に合った胃薬が見つからない場合は、薬剤師や登録販売者に相談すると良いでしょう。

注意点として、市販薬で症状が一時的に良くなっても、服用しないと症状がぶり返してしまうようなつらい状態が続いている場合や、服用しても症状が改善されない場合は、医療機関を受診しましょう。

空腹時に胃痛(みぞおち周辺の痛み)が起こる人に。改善したい生活習慣

ストレスの多い生活

一般的に、ストレスは胃に良くないとよく言われますが、ストレスと胃痛の関連を示す信頼性の高い研究結果は多くありません。一方で、実体験として、ストレスを強く感じているときに胃の調子が悪くなったという経験のある人は少なくないことでしょう。

メカニズムとして、ストレスのために自律神経のバランスが乱れ、胃の血流が低下する、胃のぜん動運動が低下する、胃の粘膜の知覚過敏が起こるなどの影響が考えられます。胃の疾患のうち、機能性ディスペプシア(FD)は、ストレスの影響が強い疾患と考えられています。一方、空腹時の胃痛があらわれやすい胃・十二指腸潰瘍については、ストレスのみで潰瘍が発生することはほとんどなく、ピロリ菌感染などの複合的な要因によって発生するとされています。

ストレスを全く感じない生活を送ることは難しいと思いますが、趣味や散歩、サイクリング、時には、温泉旅行など、ストレスを溜め込まず、発散させるための自分に適した方法を見つけてみましょう。

暴飲暴食、早食い

暴飲暴食は胃の負担を強めます。また、短時間で食べ物をかき込むように食べると、食べ過ぎてしまうことが多いものです。
腹八分目を心がけ、よく噛んでゆっくり食べるようにしましょう。食べ物を口に入れるごとに箸を置くぐらいの感覚で食べるのが理想的でしょう。

消化の悪い食事

脂質の多い食べ物は、消化のために胃に長くとどまることから、胃に負担をかけやすい傾向があります。また、脂質は高カロリーなので少量でもカロリーオーバーになりやすく、一般的に「摂り過ぎ注意!」とされることの多い栄養素です。

一方、食物繊維も消化に時間がかかる栄養素です。しかし食物繊維は、腸のぜん動運動を助けて便秘解消にも役立ち、その他にも多くのメリットがあります。ですから、胃の調子が良くなったら、積極的に摂取したい食品とも言えます。

嗜好品(タバコ、アルコール、カフェインなど)

タバコは全身の血流を低下させます。そして、胃の粘膜への血流も低下させることから、胃の機能低下を招いたり、胃粘膜の防御機能を減弱させてしまうことがあります。胃に何らかの疾患がある場合には、進行・悪化させてしまう可能性もありますので、「タバコは百害あって一利なし」と考え、禁煙を心がけましょう。

また、アルコールは、胃腸の粘膜を直接的に傷害するという研究も報告されています。胃・十二指腸潰瘍のような疾患がある場合や、胃の調子が良くないときには、その症状や疾患が治るまでは、できるだけ禁酒を心がけましょう。そもそもがん予防などのためには、アルコールは飲まないことが原則とされています(NEJM 2023, 389: 2486.)。

寝不足

寝不足が続くと、自律神経のバランスが乱れやすくなります。自律神経は前述のとおり、血流や胃酸分泌、ぜん動運動をコントロールしている神経です。寝不足によってそれらのバランスの乱れが起こり、胃痛が起こりやすくなる可能性があります。また、寝不足が続くような生活は、ストレスフルな生活であることが多く、そのようなライフスタイルは、総じて胃の負担を増やしやすいと考えられます。

空腹時の胃痛に関するQ&A

空腹時に胃痛が起きた場合は、何も食べないほうが良い?

空腹時に胃痛があらわれたとき、何かを口にすることで痛みが一時的に軽くなることもあります。消化に良い食品を、試してみても良いでしょう。

<消化に良い食品を知りたい方は以下の記事をチェック>
胃腸にやさしい食べ物とは?胃の調子が悪い、食欲不振時におすすめの食べ物を紹介

空腹時の胃痛だけでなく、胸やけやげっぷも出やすい場合に考えられる病気は?

空腹時の胃痛だけでなく、胸やけやげっぷも出やすい場合、胃食道逆流症(GERD)の可能性も考えられます。胃酸が食道へ逆流することにより、胸やけや呑酸、胃痛などの不快な自覚症状を感じたり、食道の粘膜がただれたり(食道炎)する疾患です。

空腹時の胃痛には自己管理が大切。ただし、症状が長引いたら受診を

空腹時の胃痛症状で考えられる主な原因と対策についてお話ししました。原因として考えられる主な疾患は、胃や十二指腸の潰瘍が挙げられ、その他に胃食道逆流症(GERD)なども考えられます。ただ、みぞおちの辺りの痛みだからといって、それが「胃痛」とは限りません。まずは暴飲暴食を控えるなどの生活習慣の改善を心がけ、市販薬を使ってみたりといったセルフメディケーションを試みてみるのも良いでしょう。それでも改善しない場合は、医療機関を受診するようにしましょう。

参考文献

  • 患者さんとご家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイド2023
  • 保健同人社「食道・胃・十二指腸の病気」,2009