監修
伊藤 剛 先生 (北里大学北里研究所病院漢方鍼灸治療センター、北里大学客員教授)
便秘の症状に対し、ツボ押しを行うことで症状の緩和が期待できます。
東洋医学には経絡(けいらく)という考え方が存在します。経絡は五臓六腑(ごぞうろっぷ)が調和を保ち、それぞれの機能が正常に働くためのエネルギーが循環する通路です。その通路にある、特別に反応の強い場所がツボ(経穴)です。
WHO(世界保健機関)が位置や名称を統一しているツボの数は361種(760カ所)に上り、押すツボによって見込める効果は異なりますが、ツボ押しで再び経絡の流れを回復させることにより、さまざまな症状の緩和につながると期待されています。
経絡はそれぞれの臓器と深いつながりがあるため、異常のあるツボを詳しく調べることによって、どの臓器に変調があるかを知ることができます。また、そのツボに刺激を与えることで、異常を起こしている臓器に自律神経などを介し影響を与え、機能を正常に戻すこともできるとされています。
便秘も例外ではありません。ツボを押すことによって血行促進が図られ、便秘の解消につながりやすくなるといわれています。ツボ押しは自分でもできる体にやさしいおすすめのセルフケアといえるでしょう。
ツボの位置はそれを示す人体図などを見て探すことが多いです。しかし、人によって誤差があるため、あくまでも目安と考えてください。人体図でツボのだいたいの位置を見つけたら、そのあたりにある自分のツボを探す必要があります。
おおよその位置の見当がついたら、親指、もしくは人差し指と中指で押してみて、鈍痛をともなうような感じ(圧痛)のあるところが異常のあるツボです。さらに圧を強め、押している指先にこりやしこりを感じたら、そこがよく効くツボになります。
手のひら、親指、親指以外の4本の指を使って体の表面を圧迫する方法が一般的なツボの押し方です。通常は2~5㎏くらいの圧力(判子を押す程度)で押します。体重計に親指の腹をあててみて、力の入れ具合を確認すると良いでしょう。
押して気持ちがいいと感じるのが適切な強さといえます。体の中心に向かって押すようにし、5秒かけて徐々に力を加えた後、ゆっくり力を抜いていくようにするのがコツです。これを3~5回繰り返します。押してみて、痛みや硬さ、こりやしこりなどを感じるときは経絡の流れがとどこおっているサインですので、ツボを強めに押すようにしてスムーズな流れを取り戻すようにしましょう。
手や指以外にも、指圧棒など道具を用いて押す方法もありますが、押しすぎると皮膚や筋肉を痛める場合があるので気をつけましょう。背中・腰・臀部など背部のツボにはソフトボールを用いたツボ押しが効果的です。最初は少し痛気持ちいいと感じる程度に押すと良いでしょう。
ツボの位置を示すときには「寸(すん)」や「分(ぶ)」という単位が使われます。これは尺貫法でいう寸や分とは異なり、ツボ療法独特のものです。このツボ療法独特の単位は個人個人、身長や体格が異なるのと同様に、ツボの位置もその人の体格に応じて若干異なることから用いられています。ツボに関する書籍では「目印から何寸」というように寸や分で示していることもあるので覚えておきましょう。
親指の太さ(指幅が一番広いところ)が1寸で、その半分が5分
人差し指と中指を合わせた幅が1寸5分
人差し指から薬指までの幅が2寸
人差し指から小指まで指4本の幅が3寸
次から便秘に効くといわれるツボを見ていきます。
乳頭から真っすぐ下に引いた線と、へそから真横に引いた線の交点から1寸3分(指の幅2本分より少し短い)下がったところにあります。便の停滞を改善するツボといわれています。
へそから左右2寸(指の幅3本分)のところにあり、便秘だけでなく、お腹をこわして下痢をしたときなどにも効果が期待できます。
天枢から2寸(指の幅3本分)下がったところにあります。生理異常や便秘の特効穴といわれており、その他下痢や腎炎、不妊症、坐骨神経痛などにも効くとされています。
ウエストラインの下、骨盤の骨の上縁(腸骨稜上縁)の位置で、背骨から左右に1寸5分(指の幅2本分)のところにあるツボです。大腸の働きを整える他、じんましん、足やひざの疲れからくる痛み、ぎっくり腰などにも有効とされます。
大腸兪の位置からおよそ3寸(指の幅4本分)下に下がった仙骨部にあります。この第1仙骨から左右1寸5分(指の幅2本分)のところにあるツボが小腸兪です。小腸を整える働きに加え、女性の生理痛や生理不順に効果があるとされています。
背中のツボの場合、自分で正しい位置を押すのは容易ではありません。誰かに押してもらうか、自分で行うときはソフトボールを背中と壁との間に挟んでツボを刺激したり、ベッドの上に置いてその上に体を乗せたりしてツボを刺激すると良いでしょう。
ひざのお皿の下から3寸(指の幅4本分)下にあたる、すねの骨の外側にあるくぼんだところにあります。体力増強のツボとされ、便秘を含むお腹まわりの症状全般の他、肩こりや頭痛、めまいなどあらゆる症状に使用されるツボとして知られています。
足の人差し指の外側にあります。胃腸の疲れがあると指圧した際に痛みを感じます。便秘の他に、むくみにも効果があります。
手の甲側、手首の関節にできる横ジワの中間点から、ひじに向かって3寸(指の幅4本分)のところにあります。便秘の改善ツボとして有名ですが、それ以外に、痔や頭痛、めまいなどにも効果があります。
手のツボは位置を覚えやすく、いつでも押しやすいので、気づいたときに刺激すると良いでしょう。
ツボは押すだけでなく、身近なものを使って刺激を与えるさまざまな方法があります。ここでは家庭でも取り入れやすい方法を紹介します。
疲れやこりの部分や冷えを感じる部分を温めて刺激する方法です。タオルをお湯に浸し、よくしぼってからツボを中心に周辺も含めてあてます。血液の循環が良くなり、疲れやこりなどもやわらぐでしょう。お湯はやけどをしない程度の温度に調整してください。
便秘を改善するにはまず規則正しい食生活を心掛けることが大切です。腸のぜん動運動※を盛んにするため、食物繊維を多く含む食材を意識して摂るようにしましょう。海藻類、寒天、こんにゃく、サツマイモ、おから、果実などは便通をよくする働きがあります。その際、水分を十分に摂るようにしましょう。
排便を促す胃腸の働きは朝に最も強く起こります。朝食前の空腹時にコップ1杯の水や牛乳、炭酸水を飲むと胃腸が刺激され、便秘改善に役立ちます。
ただし、朝食を食べない習慣は便秘を悪化させるのですが、自律神経が乱れやすい人が無理に朝食を押し込むと下痢や体調不良の原因になりかねません。そのような方は水だけでも摂るようにしましょう。
さらに、毎日決まった時間にトイレに座る排便習慣をつけることも便秘解消には大切です。また、便意を感じたときはそれをのがさないように、できるだけトイレに行くように心掛けましょう。
このように生活習慣を整える他にも、マッサージやウォーキング、体操などで腸に刺激を与えることも排便を促す上で有効です。
※ぜん動運動:腸が伸びたり縮んだりを繰り返して、腸内の内容物を移動させ体外へ排出する動き。
・便秘解消記事
https://alinamin-kenko.jp/navi/navi_kizi_benpikaisyo.html
便秘の症状が長い間おさまらない場合は、市販の便秘薬を適切に使用することも一つの方法です。
便秘薬には主に“刺激性”と“非刺激性”の2つのタイプがあります。刺激性の便秘薬は腸に直接働き、効果を感じやすいことから、数日間排便がないなど一時的な便秘に使用されます。しかし、長期間使用したり多用したりすると腸管が麻痺して薬に反応しなくなり、効果が落ちることがあるので注意が必要です。一方、非刺激性の便秘薬は、便を軟らかくして自然な排便を促すため、コロコロした硬い便の人に向いています。
便秘薬には、漢方薬もあります。大黄甘草湯、潤腸湯、麻子仁丸、大柴胡湯、桃核承気湯など、さまざまな種類があり、患者さんの症状や証に応じて適切に使い分けていくことで効果を高めることが期待されます。
また、酪酸菌や乳酸菌が配合された整腸薬は腸内のバランスを整える効果があり、便秘の改善だけでなく、腸内環境を整えて便秘の予防につながることも期待できます。
便秘薬を選ぶ際には便秘の状態や体質、生活習慣などを考慮して、自分に合ったものを選ぶことが大切です。例えば日本人の便秘で最も多いといわれているのは、ぜん動運動の働きが低下して起こる便秘(弛緩性便秘/しかんせいべんぴ)です。特に高齢者によく見られる便秘なので、その点を踏まえて薬を選ぶようにしましょう。そして、市販薬を使用する場合は用法・用量を守り、適切に服用していくことが大切です。
便秘に効果があるといわれるツボを中心に紹介しましたが、特に日本人に多いといわれる弛緩性便秘にはツボ押しがおすすめです。また、多くの便秘は、偏食、不規則な食事や排便習慣、運動不足などが原因となるので、生活習慣の改善に努めながら、ツボ押しなどのセルフケアを試してみていただきたいと思います。しかし、それでもなかなか便秘の症状がおさまらなければ、他の病気が原因になっていることも考えられます。そのような場合は専門の医療機関(消化器科)を受診するようにしてください。
■参考文献
伊藤剛「最新版 カラダを考える東洋医学」,2021
主婦の友社編「家庭の医学」, 主婦の友社, 2018
坂井正宙「図解入門 よくわかる 便秘と腸の基本としくみ」, 秀和システム, 2016
武谷雄二他監「大安心最新版 健康の医学大事典」, 講談社, 2008
三輪洋人他「慢性便秘・ガス腹・過敏性腸症候群 便秘外来と腸の名医が教える最高の治し方大全」, 文響社, 2021
教科書執筆小委員会「東洋医学臨床論〈あん摩マッサージ指圧編〉」, 医道の日本社, 1997