監修
塚原 清彰 先生 (東京医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科分野 主任教授)
のどに何か張り付いているような感じは、以下のような感覚に言い換えることができます。
食べ物などが引っかかったり詰まったりしている場合や、風邪などでのどが腫れていたり、のどにたんなどが絡んでいたりする場合などに、上記のような症状が生じることがあります。また違和感に加えて痛みがあると、つばが飲み込みにくいこともあるでしょう。
このようなのどの違和感にはいくつかの原因が考えられ、以下でそれぞれの原因のご紹介と簡単な解説をします。ただし、違和感が長く続いてつらい場合は、医療機関の受診を検討しましょう。
のどに何かが張り付いたような感じがする違和感の原因は、異物の存在、鼻やのどの炎症、アレルギー、胃酸の逆流、のどの腫瘍、鉄欠乏性貧血などの全身的な原因、ストレスなどの精神的原因に大きく分けられます。
※以下の疾患は、医師の診断が必要なものもあります。
症状が続くなど心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
魚の骨やエビの殻の一部、お菓子のかけらといった食べ物の一部などの小さな異物がのどに詰まったり引っかかったりしていると、のどに痛み、または何かが張り付いたような違和感を覚えることがあります。認知機能が低下した高齢者では、義歯が異物になっていることもあります。
「風邪(かぜ)症候群」、一般的に「風邪」と呼ばれるウイルス感染によって、急性の咽喉頭症状が生じることがあります。のどがイガイガする感覚が生じる他、なかには、のどが腫れて気管や食道といった空気の通り道が狭まり、何かが引っかかっているような感覚になることも。
また、のどに流れ込んだ鼻汁が違和感につながることもあります。
急性咽頭炎とは、アデノウイルスなどのウイルスや、A群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)などの細菌によって起きる、のどの炎症のことです。発熱やせきの他、のどの痛み、つばなどを飲み込むときの痛み(嚥下痛)といった、のどの違和感が主な症状です。
ウイルスや細菌の感染が口蓋扁桃(こうがいへんとう:のどの奥両側に存在するリンパ組織の集まり)におよぶと急性扁桃炎、さらに周囲に広がると扁桃周囲炎(扁桃炎より激しいのどの痛みが特徴)や扁桃周囲膿瘍(のどに膿がたまる病気)を発症することも。
いずれも発熱をともなうことが多いですが、のどの違和感や痛みがきっかけで発症に気付く場合もあります。
花粉症などのアレルギー症状が、口の中やのどにも現れることがあります。イガイガしたのどの違和感とともに、かゆみなどの症状がある場合、喉頭アレルギーの可能性があるかもしれません。また、花粉と食物との関連も指摘されています。果物や生野菜を食べた後に、口やのどに違和感が現われることがありますが、これは花粉のアレルゲン(アレルギー原因物質)と、果物や野菜に含まれるアレルゲンが似ているために起こります。
また、口の中の違和感だけではなく、口の中の腫れ、のどのかゆみ、締めつけられる感じ、声のかすれ、激しいせき込みやゼーゼーする呼吸をしている、血圧低下や意識障害があるといった場合は、食物アレルギーの緊急性の高い状態で、アナフィラキシーを起こしている可能性が考えられます。アナフィラキシー自己注射薬の使用と救急車の要請など迅速な対応が必要となるため、医師の診断と日ごろの定期的な受診が大切です。
良性腫瘍には、声帯ポリープ、ポリープ様声帯、声帯結節、喉頭肉芽腫(こうとうにくげしゅ)などがあります。
ポリープなどのできものがある場合、声がれの他、のどの奥に何かが引っかかって取れないようなもどかしさを覚えることもあります。
鉄分が不足し、赤血球がつくられにくくなる鉄欠乏性貧血が続くと、食道が狭まり、のどのつかえ感や飲み込みづらさなどの違和感を覚えることがあります。「プランマービンソン症候群」と呼ばれる状態です。
女性の場合、更年期に女性ホルモンの分泌量が変化するタイミングでのどの症状を訴える人もいます。
その他、何らかの原因で自律神経がバランスを崩したことが、のどの違和感につながることもあります。
ストレスは体や心にさまざまな症状を生じさせます。強いストレスを感じると、特に身体的な問題はなくても、のどに違和感が現われることがあります。
のどにできるがんのうち、咽頭がんや声門上部にできる声門上部がんは、のどのイガイガ感や異物感、食べ物やつばなどを飲み込んだときの痛みなどの症状をともないます。これらは風邪による症状と似ているため気付きにくく、発見が遅くなることがあり、要注意です。
胃食道逆流症は、主に胃酸が食道へ逆流することにより、胸やけや呑酸(どんさん:酸っぱい液体が上がってくる感じ)などの不快な自覚症状を感じたり、食道の粘膜がただれたり(食道炎)する病気です。
英語表記のGastroEsophageal Reflux Diseaseの頭文字を取って、GERD(ガード)とも呼ばれています。
胃食道逆流症のうち、逆流した胃酸によって食道粘膜にただれが生じた状態を、逆流性食道炎といいます。
GERDでは、胸が詰まるような痛みや慢性的なせき、のどの違和感が症状として現われることがあります。
なお、胃内容物や胃酸の逆流が食道を越えてのどにまで達し、のどの粘膜が刺激されて、せき払いや慢性のせき、のどの詰まり感などの違和感が生じることを咽喉頭酸逆流症(laryngopharyngeal reflux disease: LPRD)と呼ぶこともあります。LPRDは、欧米諸国において耳鼻咽喉科外来患者の10%を占めるともいわれる、比較的頻度の高い疾患でもあります。
のどに違和感があるにもかかわらず、診察や検査をしても異常が認められない場合、咽喉頭異常感症と診断されることがあります。
なかには後日、原因が見つかるものもありますが、詳しい診察や検査をしても明確な異常を見いだせないもの(真性の咽喉頭異常感症)も少なくありません。
統計によると、のどの違和感を訴えて受診する人は年々増加傾向にあります。男女比では4:6で女性に多く、男性は30代、女性は50代がそれぞれ最も多くなっています。
咽喉頭異常感には精神的な要因が影響していることがあるので、ストレスなどがある場合は医師に伝えるとともに、のちほど紹介する対処法を参考に、ストレスを緩和することが大切です。
また、胃食道逆流症が原因の咽喉頭異常感も増えているといわれます。普段の生活では、過度のせき払いを控え、喫煙も避けましょう。さらに過度のアルコール摂取や就寝前の過食も避けて、胃酸の逆流を防ぐことも重要です。
食べ物の一部など、異物がのどに詰まったり引っかかったりしている場合は、異物を取り除くと、のどに何かが張り付いたような違和感をなくすことができます。
のどの異物で多いのは魚の骨です。口の中を覗いて異物が確認できることもありますが、傷つける危険があるため、耳鼻咽喉科を受診して取り除いてもらいましょう。
なお、「のどに魚の骨が引っかかった場合はごはんを丸のみすると良い」といわれることもありますが、より深く刺さってしまうリスクもあるので、のどに異物があっても、ごはんは丸のみしないようにしましょう。
鼻水がのどに流れる症状は後鼻漏(こうびろう)と呼ばれます。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎でよくみられる症状です。鼻汁がのどにかかって違和感になっている場合は、鼻水を改善することでのどに張り付いたような感覚がやわらぐことがあります。
鼻水の緩和につながる対処法をいくつかご紹介します。
生理食塩水による鼻の洗浄(鼻うがい)が鼻づまりの改善に効果的なこともあります。ただし、洗浄液の温度、食塩水の濃度、やり方などを間違えると、鼻の粘膜や耳を痛める可能性も。耳鼻咽喉科医による指導の下で行いましょう。
アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎、または風邪などの疾患が原因で鼻水・鼻づまりが起きている場合は、原因となっている疾患を治療しましょう。それがのどの違和感の改善につながることもあります。
風邪などでのどに炎症が起きている場合は、市販薬の使用の他、以下のような方法も参考にしてみてください。
声を出すのがつらいのどの炎症の場合、できるだけ使わずに休ませることが大切です。無理な声の出し方をしたり、大声を出したりせず、声帯を休めましょう。
のどあめをなめると楽になることもありますが、糖質の過剰摂取やそれによる口の渇きが発生する可能性や、あめをのどに詰まらせてしまうことがあります。注意しましょう。
加湿器を使ったり、湿ったタオルを部屋に置いたりして、室内の湿度を保つと、のどの乾燥防止になり、のどの違和感が軽減することがあります。
花粉症の場合は、晴れた日や風の強い日の外出をなるべく控え、外出時にはマスク、めがねを着用すると良いでしょう。日ごろから規則正しい生活をして体調を整えておくことも大切です。
また、果物や生野菜によって花粉症と同じような症状が現われる食物アレルギーの場合は、原因となる食べ物を医療機関で確認することが大切です。食物負荷試験で症状誘発の閾値(いきち:最小量)を確認し、ごく微量から増量していく経口免疫療法などがあります。専門の医療機関を受診しましょう。
鉄欠乏性貧血への対策として、まずは食事の見直しが必要です。鉄欠乏性貧血は、偏食や欠食などで鉄分の摂取量が不足したり、その他の造血に必要な栄養素(タンパク質、ビタミンB6、B12、葉酸など)が不足するときに起こりやすい貧血です。栄養バランスの良い食事を心がけましょう。
<栄養バランスの良い食事の参考になる記事はこちら>
栄養失調は現代でも増えている!? 新型栄養失調の症状とその改善方法とは?
しかし、栄養バランスに気をつけていても、妊娠・出産・授乳期や月経のとき、成長期には鉄の必要量が増加しているために、鉄欠乏性貧血を起こすことがあります。鉄を含む食材や造血に必要な栄養素を多めに摂取することを基本に、必要に応じて、ビタミンB6、B12、葉酸などを含むビタミン剤(ドリンク)や、漢方薬なども活用できると良いでしょう。
なお、妊娠・出産・授乳期には、その期間の服用が可能かどうか、普段以上に用法・用量をしっかり確認してから服用するようにしてください。
ストレスに気付いたら、できるだけ早めに対処しましょう。まずはストレスをため込まないことが大切です。
一人で抱え込まず友人や家族に話してみる、気分転換になる趣味をもつ、何もせずにゆっくり休むなどの対処をして、ストレスを軽減させましょう。
精神的に不安定な状態が続く、何もする気になれない、すぐに疲れてしまう、眠れないというときは、たまったストレスに心が折れてしまっているのかもしれません。精神科、心療内科の医師やカウンセラーなど、心の専門家に頼ってみるのも良いでしょう。
病気が原因の場合は、症状に応じた治療を行い、のどの違和感の改善を目指します。
のどにできた腫瘍が病理検査の結果、良性腫瘍だとわかったら、薬物療法などの保存的治療を検討します。それが難しい場合は手術を検討します。ポリープなどの腫瘍が小さければ日帰り手術が可能ですが、大きいと入院が必要です。
また、胃酸の逆流によって喉頭肉芽腫ができている場合は、食事の取り方の指導を行うこともあります。
貧血で医療機関を受診した場合は、鉄剤の処方が検討されます。鉄剤を服用すると不足している鉄分が補われ、貧血の改善につながります。内分泌や自律神経に異常がみられる場合は、異常の原因となっている病気や症状を治療します。
胃食道逆流症の場合、胃酸の分泌を抑える薬が有効なことがあります。
医療機関を受診した場合は、胃酸の分泌を抑える標準的な薬であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)やヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)、より強力に胃酸の分泌を抑えられるカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)のいずれかが処方され、胃酸の逆流を防ぎます。
胃酸を中和したり、粘膜を保護したりする薬、胃の内容物の逆流を抑えるための薬(消化管運動改善薬や漢方薬)が一緒に使われることもあります。
また、過度のせき払いや食べ過ぎ・早食いを避ける、消化の良いものを食べる、食後に休息を取り規則正しい食事をする、禁酒・禁煙をする、正しく・負担のかからない姿勢を心がけるなどの対処も有効です。
胃酸の逆流がのどの違和感につながっている場合には、H2ブロッカーなどの胃酸を抑える市販薬で、症状がやわらぐこともあります。
胃酸を抑える薬では思うような効果が得られなければ、胃の動きを良くする薬(アコチアミド)や六君子湯などの漢方薬を使うこともあります。こうした市販薬を活用するのも一つの方法です。
また、鉄欠乏性貧血がのどの違和感の原因になっている場合、市販の鉄剤を服用することでも違和感が解消されることがあります。
のどに何か張り付いているような違和感がある場合は、耳鼻咽喉科を受診しましょう。
耳鼻咽喉科は、耳、鼻、のどなど、大切な感覚器を専門に診察する診療科です。
のどの違和感の原因はさまざまで、のど以外に原因がある場合も少なくありません。しかし、のどを実際に診察することは違和感の原因究明に、非常に有用です。まずは耳鼻咽喉科を受診して、感じている症状を相談してみましょう。
問診や内視鏡による視診で、口腔、咽喉頭などに異常がないかを確認します。
視診だけでは診断を絞りこめないときや、重症度を正確に把握する必要があるときは、採血(血液検査)、首の超音波(エコー)やCTなどの放射線検査、喀痰 検査(たんを採取して感染症やアレルギー、がんなどの可能性をみつける)、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)などが行われます。
のどの違和感の原因として胃食道逆流症や咽喉頭酸逆流症が疑われる場合には、「PPIテスト」という診断方法が行われることがあります。
これは、診断的治療と呼ばれる方法の一つです。胃食道逆流症の治療薬であり胃酸の分泌を抑制する「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」という薬を試しに投与して、それで症状が改善したら「胃食道逆流症」を疑い、上部消化管内視鏡検査を検討したり、内服治療を継続することもあります。
のどに何かが張り付いたような感じがする違和感の原因は、異物の存在、鼻やのどの炎症、アレルギー、のどの腫瘍、鉄欠乏性貧血などの全身的原因、ストレスなどの精神的原因など、さまざまです。また、胃酸の逆流などが原因となっている場合もあります。なかには、がんが原因のこともあるため、違和感を我慢しすぎないよう注意しましょう。
また、胃酸の逆流が、のどの違和感を生じさせている場合は、胃酸を抑える薬や胃の働きを良くする薬などを使うと改善されることもあります。
のどに何かが張り付いたような感じがあったら我慢せず、早めに対処をしましょう。