夏風邪と
新型コロナウイルス感染症の
違いとは?

急な発熱、のどの痛み、下痢……夏に起きる体の不調。一昔前なら「夏風邪かな?」と少し様子を見ればよかった悩みも、今日では大きな不安の種になってしまっているのではないでしょうか。夏風邪の症状は新型コロナウイルス感染症と区別しにくい点も多く、判断に悩む方も多いはず。そこで今回は、夏風邪とはどのようなものか、その特徴や新型コロナウイルス感染症との違いを解説します。

2021年8月18日作成
2024年8月8日更新
(一部、最新情報に基づき、当社で追記更新を行っております)

監修:品田 純 先生(しなだ呼吸器循環器クリニック 院長)

そもそも夏風邪って? 特徴的な症状

夏風邪とは、夏によく見られるウイルス性の感染症のことをいいます。夏にかけて流行する夏風邪は、いわゆる普通の「風邪」(風邪症候群;急性気道感染症)とは原因となるウイルスや症状がやや異なります。

夏風邪の原因となるウイルスは主にエンテロウイルス、アデノウイルスと呼ばれる2つのグループに属するものです。これらのウイルスは1年を通して活動していますが、高温多湿の環境を好む性質があり、特に夏場に流行するとされています。例えば、小さな子どもの病気として有名なヘルパンギーナ※1、手足口病、プール熱(咽頭結膜熱)などはこれらのウイルスによるもので、子どもの夏風邪の代表格としてよく知られています。主な症状は発熱やのどの痛みといった一般的な風邪の症状に加え、ウイルスの種類によっては口の中・のどの入り口付近や手足の発疹、さらには腹痛・下痢といった症状が出ることがあります。

こうしたエンテロウイルスやアデノウイルスによる感染症には子どもがかかることが多いのですが、大人も油断はできません。家庭内で子から家族へ感染することが多いほか、室内外の温度差や湿度からくる体の不調によって免疫力が低下している場合などには、大人でも発症してしまう 可能性があり、高熱、頭痛、のどの痛みを伴うものや、下痢などの消化器症状がみられることもあります。

※1 : 夏のほか、冬流行の報告もある。

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夏風邪と冬の風邪、新型コロナウイルス感染症は何が違う?

原因となるウイルスが違っても、類似した症状が多い

夏風邪と冬の風邪、そして新型コロナウイルス感染症の間には、どのような違いがあるのでしょうか。3つの感染症の特徴を表にまとめました。
一般に感染症は原因となる病原体(ウイルスや細菌など)によって引き起こされ、病原体によって症状もさまざまです。ところが、夏風邪・冬の風邪・新型コロナウイルス感染症の間には共通した症状が現れることが少なくありません。

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夏風邪・冬の風邪・新型コロナウイルス感染症の比較

夏風邪 
エンテロウイルス感染症 アデノウイルス感染症
病原体 エンテロウイルス属 アデノウイルス
感染経路 飛沫感染、接触感染、経口感染 飛沫感染、接触感染、経口感染
感染力 強い 強い
症状の続く期間 数日~7日間程度 数日~7日間程度
特徴的な症状 高熱が出ることがある 高熱が出ることがある
発熱
のどの痛み・咳 伴う場合がある ・のどの痛みを伴う
・咳を伴う場合もある
鼻水・鼻詰まり 伴う場合がある ほとんどない
下痢 伴う場合がある 1週間以上続くことがある
その他特徴的な症状 ・のどや手足に水ぶくれのような発疹が生じ痛みを伴う場合がある。
・食欲不振なども現れることがある
・頭痛や食欲不振などが現れることがある
・眼の充血や痛みなど結膜炎の症状が現れることがある
冬の風邪*1 新型コロナウイルス感染症*5
病原体 ウイルスがほとんど*2。細菌が原因となることもある 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)
感染経路 飛沫感染、接触感染 飛沫感染が主体、接触感染もある
感染力 強い 強い*3
症状の続く期間 7~10日程度 7~10日前後*4
特徴的な症状 38~39℃の高熱が出現することもある 37.5℃以上の発熱がある
発熱
のどの痛み・咳 伴う ・のどの痛みを伴うことがある
・途切れず続く乾いた咳を伴うことが多い
鼻水・鼻詰まり しばしば見られる 頻度は低い*6
下痢 ほとんどない 伴うことがある(20%弱)
その他特徴的な症状 高齢者でのRSウイルス感染症(入院治療を要した症例)はインフルエンザと同等の致命率を引き起こすことが示唆されている ・筋肉痛・頭痛の症状が現れることがある
・肺炎を合併すると息苦しさ、呼吸困難など起こることがある
・嗅覚・味覚の異常が現れることがある*7

*1:インフルエンザを除く
*2:冬はコロナウイルス(新型を除く)やRSウイルスが多いとされていたが、近年はRSウイルスが 7 月頃から増加傾向となっている。成人のRSウイルス感染症は風邪様症状で自然軽快すると考えられていたが、近年高齢者での重要性も注目されている
*3:変異株では武漢など初期の株より感染力が増しているとの報告がある。デルタ株はアルファ株と比較し感染性と入院リスクが高い可能性があるとされている。また、オミクロン株はデルタ株より感染性が高い可能性があると示唆されている
*4:重症化例では数週間に達することもある
*5:新型コロナウイルス感染症は、これまで多くの変異株が報告され、初期症状や経過も流行によって変化し続けている。 2024年春以降は、オミクロン株から派生した変異ウイルスKP.3株の感染が増加傾向。KP.3株は、感染力が強く、ワクチンや過去の感染による免疫を逃れる新しい傾向がみられる
*6:インフルエンザや普通感冒と比較して、鼻汁・鼻閉は少なく、嗅覚・味覚障害の多いことがCOVID-19 の特徴と考えられてきたが、オミクロン株流行以降は、ウイルスが上気道で増殖しやすい特性に伴い、鼻汁、頭痛、倦怠感、咽頭痛などの感冒様症状の頻度が増加したとされている
*7:オミクロン株流行以降は、嗅覚・味覚障害の症状の頻度が減少したと報告されている

夏風邪と新型コロナウイルス感染症の見分け方

症状だけですぐに見分けることは難しい

夏風邪・冬の風邪・新型コロナウイルス感染症の間には共通した症状が多く、症状から見分けることは難しい場合が多いのですが、夏風邪・新型コロナウイルス感染症には冬の風邪とはやや異なる点も見られます。
例えば夏風邪ではインフルエンザのようにのどの痛みを訴える前に発熱だけが見られる場合があります。ほかにも、高熱が1週間近く続くことや下痢や嘔吐など消化器系の症状が見られることがあります。
新型コロナウイルス感染症も、初期症状は風邪によく似ているため区別が難しい場合が多いのですが、以下のような特徴が存在します。

①インフルエンザの症状に似ており、筋肉痛・頭痛を伴う場合が多く、鼻症状を訴える人は少ない
②嗅覚または味覚(あるいは両者)異常を伴うことがある※2
③下痢や嘔吐などの消化器症状を伴うこともある

ただし、どちらもこうした特徴的な症状を伴わない場合があり、自分で見分けることは大変難しいといえます。ある感染症にはあまり見られない症状が出ているからといって、「自分はその感染症にかかってはいない」と判断しないようにしましょう。

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発症した人の8割程度は軽症のまま快方へ向かう

夏風邪の多くは1週間程度の間に自然と症状が治まるとされており、新型コロナウイルス感染症についても、発症した人の約80%が軽症のまま1週間以内に快方へ向かうとされています(約20%は酸素吸入が必要とされています※3)。ですから、自分の体調に異変や不安を感じたら、まずは外出や人との接触を避けて様子を見るのがいいでしょう。状況に応じて解熱剤や風邪薬などで症状を和らげることを考えるのも可能です。ただし、もし数日たっても症状が改善しない場合は注意が必要です。

※2:オミクロン株流行以降は、嗅覚・味覚障害の症状の頻度が減少したと報告されている。
※3:2021 年末に流行株が、感染・伝播性が非常に強いオミクロン株に置き換わって以降、アルファ株やデルタ株が主体の流行と比較して、酸素療法や人工呼吸管理を必要とする患者の割合が低下していることも報告されている。

新型コロナウイルス感染症が疑われる場合には、まずはあわてずに、症状や常備薬をチェックしたり、国が承認したキットを用いてチェックしてみましょう。受診をする際には、医療機関に連絡をして、感染対策を行うことが大切です。特に、以下のような条件に当てはまる方はすぐに医療機関に相談するようにしてください。

  • 息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合
  • 重症化しやすい人※4で、発熱やせきなど比較的軽めの風邪の症状がある場合
    ※4:高齢者、糖尿病・心不全・呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患等)などの基礎疾患がある人、透析を受けている人、免疫抑制剤や抗がん剤などを使用されている人を指します。妊娠中の方も念のため、上記の人と同様に早めの相談が必要です。
  • 上記以外の人で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合
    (症状が4日以上続く場合には必ず相談するようにしましょう。また、症状には個人差があるため、自分の判断で症状が強いと思う場合にも相談が必要です。加えて、解熱剤などを飲み続けていないと発熱がおさまらないという方も同様に相談が必要とされています)

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夏風邪の予防法は新型コロナウイルス対策と同じ

新型コロナウイルス対策は夏風邪予防にも効果が期待できる

夏風邪予防に必要なのは、何にもましてウイルスに感染するのを防ぐことです。夏風邪を起こすウイルスの主な感染経路は3つあります。

  • 感染者の咳や発声によって生じるつばや小さなしぶきを吸い込んだりすることによる感染(飛沫感染)
  • そうしたしぶき等に触れた手で口や鼻などに触れたりすることによる感染(接触感染)
  • 何らかの理由(例えば調理する人の手にウイルスが付着していた場合など)でウイルスに汚染されたものを食べてしまったりすることによる感染(経口感染)

そのため、ウイルスを含んだ飛沫やしぶきに接触しないこと、またそれが極力体内に入り込まないようにすることが大切です。換気を行うことや、マスクの着用、手洗いによって手指に付着したウイルスを洗い流すといったことが、感染対策の基本となります。

こうしたことは新型コロナウイルスに対する感染予防策とほぼ同じです。実際、新型コロナウイルス感染症が蔓延して多くの人が予防対策した2020~2021年にかけての冬には、インフルエンザはほとんど流行しませんでした。
国や自治体から案内されている感染対策を徹底することが、夏風邪予防にもつながります。

夏風邪は飛沫感染以外にも経口感染などにも注意

夏風邪の原因であるエンテロウイルスやアデノウイルスでは、飛沫・しぶきによる拡散だけでなく、感染者の糞便から長期間にわたってウイルスが排泄され続けるという特徴があるため注意が必要です。例えば、症状が改善した後でも、長いものでは1カ月以上にわたって便からウイルスが検出されることがあり、経口感染も十分に警戒したいところです。従って、タオル等の使い回しは避け、かつ、トイレの後や多くの人が触れるものに接触した後などには石鹸で念入りに手を洗うようにしましょう。
エンテロウイルスやアデノウイルスはその性質上、消毒用エタノール(アルコール類)が効きにくいという特徴がある点に注意が必要です。これらのウイルスが手指に付着した場合の対策においては、新型コロナウイルス対策と同様に手洗いが重要となることを意識しましょう。

マスクの着用・取り扱いにも注意する

また、マスクの着用が奨励されている昨今※5ですが、適切に着用することはもちろん、使用中・使用後のマスクの取り扱い方にも気を配りたいものです。使用済みマスクの表面にはウイルスが付着している可能性があります。自分や周囲の方がウイルスを取り込んでしまうことがないように、マスクは1日に1回交換し、使用済みのものは袋に密閉して捨てるなど適切に処理するようにしましょう。また、布マスクのような繰り返し使えるタイプを使う場合も、やはり1日1回の洗濯が推奨されています。
コロナ禍でのマスク生活では、多くの方がマスク着用中に頭痛を感じた経験があることがわかっており、「マスク頭痛」という新たな言葉も聞かれるようになりました。マスク頭痛の要因は多岐にわたります。マスクによる不快な頭痛を軽減するために、生活習慣の工夫を含めたさまざまな対策を組み合わせて対処していくとよいでしょう。

※5 : 令和5年3月13日以降、マスクの着用は、個人の主体的な選択を尊重し、個人の判断が基本となりました。本人の意思に反してマスクの着脱を強いることがないよう、配慮が必要となります。ただし、周囲の方に感染を広げないために、受診時や医療機関・高齢者施設を訪問するとき、通勤ラッシュ時など混雑した電車・バスに乗車するときは、マスク着用が推奨されています。また、ご高齢の方、基礎疾患を有する方、妊婦の方など重症化リスクの高い方が感染拡大時に混雑した場所へ行くときは、マスク着用が効果的とされています。

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夏風邪になってしまったら。早く治すための対処法

水分を多めにとる

夏風邪は下痢が起きることも多く、症状が続いて水分を多く排出しすぎると、体が脱水症状を起こしてしまうおそれがあります。また発熱がある場合では、汗をかくことによってナトリウムなど体の機能を維持するのに必要なミネラル分が不足してしまう可能性があります。
市販の経口補水液・スポーツドリンクなど、水分やミネラルなどが体に取り込まれやすいものを活用して、こまめに水分補給をするようにしましょう。おかゆや野菜スープなど胃腸にもやさしい食事もおすすめです。
特に高齢者はのどの渇きに気づきにくいので、1時間に1回程度、定期的に水分補給するよう心がけてください。

下痢が起きても、自己判断で下痢止めを使わない

腹痛や下痢などの症状が出ている場合には、夏風邪を含めてウイルス性や細菌性の腸炎にかかっている可能性があります。このとき起こっている下痢は、体が自身にとって有害な異物(ウイルスや細菌)を体外に追い出そうとしている結果生じるものです。そのため、下痢止め(止瀉剤)で下痢を抑え込んでしまうことは、病原体を体内に留めてしまうことにつながるおそれがあります。ただし、下痢の症状が重かったり長引いたりしている場合には、体力の消耗や脱水症状の心配があるため注意が必要です。
夏風邪の疑いがある下痢への対処法としては、やはり不足しがちな水分を補うためのこまめな水分摂取が考えられます。もし生活に影響するほどに症状がひどい、または長引いているような場合には、医療機関を受診しましょう。

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下痢

食事や休養をしっかりとって体力を養う

ウイルス性の風邪に対しては一部を除いて特効薬がなく、治すためには体自体に備わっている免疫力に頼るほかありません。市販の風邪薬や医療機関で出される処方薬というのは風邪に伴う症状をやわらげるための薬であり、風邪の原因であるウイルスをどうにかしてくれるものではありません。
風邪を早く治すために必要なのは、自分の体が本来持っている免疫力を十分に発揮してくれるように体をサポートすること。安静にし、水分や栄養の補給を通して体力を養うことが大切です。
夏風邪の症状が出てしまったら、まずはゆっくり体を休めながら水分・栄養分をしっかりとり、症状がつらければ自分の症状に合った市販の風邪薬なども活用するとよいでしょう。数日経っても快方に向かわない場合には医療機関の受診を検討するようにしましょう。

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参考文献

  • 厚生労働省Webサイト「新型コロナウイルス感染症について」
    (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html)
  • 新型コロナウイルス感染症の″いま″に関する11の知識(2023年4月版)
    (https://www.mhlw.go.jp/content/000927280.pdf)
  • 国立感染症研究所Webサイト「感染症情報」
    (https://www.niid.go.jp/niid/ja/)
  • 国立感染症研究所Webサイト「アデノウイルスによる感染性胃腸炎」
    (https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2538-related-articles/related-articles-494/10295-494r05.html)
  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第10.1版
  • 日本感染症学会・日本化学療法学会 JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会:JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015――腸管感染症.日本化学療法学会雑誌64(1):31-65,2016.
  • 加野・鈴木:臨牀と研究96(7):759-762,2019.
  • 長崎・下野:臨牀と研究96(7):770-774,2019.
  • 南波・和田:耳鼻咽喉科展望.51(6):456-461,2008.
  • 細矢:日本環境感染学会誌.32(6):344-354,2017.