監修
井上 雄一 先生 (睡眠総合ケアクリニック代々木(医療法人社団絹和会) 理事長、アジア睡眠医学会 前理事長)

体内時計とは、体の状態に周期的な変化を起こすための基になる仕組みのことです。この仕組みは、動物か植物かにかかわらず地球上の大半の生物に備わっていると考えられています。
なぜ、生き物の体内に時計のような仕組みがあるのか、と不思議に思うかもしれません。これは、体の状態を地球の自転に合わせて最適な状態にするために、進化によって獲得されたのではないかと推測されています。
体内時計と同じ意味として理解されがちな言葉に、1日約24時間の周期を刻む「概日リズム(サーカディアンリズム)」という言葉があります。体内時計は、この概日リズムを作り出すだけではなく、日照時間の変化などを基に1年を通じた季節に応じたリズム(季節性リズム)も作り出しているのではないかと考えられています。
人の体の中にある時計「体内時計」は、実は一つではありません。肝臓や肺、腎臓、腸などの内臓や筋肉をはじめ、さまざまな場所(体の末梢)に存在していることがわかっています。「末梢時計」と呼ばれるそれらの時計は個々にリズムを刻んでいて、環境や生活パターンの影響を受け、ズレが生じやすいこともわかっています。
一方、脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)と呼ばれる場所には、「中枢時計」と呼ばれる時計があります。この中枢時計は、全身の末梢時計に向けて時刻の信号を送っていて、末梢時計の互いのズレを補正するように働いています。
体内時計の正確さは、環境や生活パターンに左右されます。具体的には、①光、②食事、③運動の3つが重要な要素です。
これらのうち、①光は中枢時計に強い影響を及ぼし、②食事のタイミングや内容は末梢時計に影響を及ぼして、③運動のタイミングは中枢時計と末梢時計の両方に影響を及ぼすと考えられています。
詳しくは後ほど解説しますが、ここではまず、中枢時計と深い関連のある「メラトニン」というホルモンについて触れておきます。
メラトニンとは、脳の中にある松果体(しょうかたい)という部分から分泌されているホルモンです。メラトニンは「睡眠ホルモン※」と呼ばれることもあります。これは、メラトニンに眠りを誘うような作用があるためです。
※ホルモン:臓器や器官から分泌され、血流を介して全身に作用する物質のこと
メラトニンの分泌量は1日の中で変化することがわかっています。通常、朝は少なく、夜に多くなります。そして、このようなメラトニン分泌の日内変動も、体内時計が作り出す概日リズムによるものです。体内時計にズレが生じて概日リズムが乱れると、メラトニンの日内変動も不規則になり、夜になっても眠くならないといったことが起きてしまいます。
先ほど少し触れたように、中枢時計は光の影響を受けて変化します。これをもう少し詳しく解説してみましょう。

強い光を目の奥の網膜で感知すると、その情報は脳内の視交叉上核に届きます。すると、中枢時計の時刻のズレが調節(リセット)されるという仕組みが働きます。このリセットが起こるとともにメラトニンの分泌は少なくなり、眠気が減って覚醒度が高まります。そして、リセットされた中枢時計に従って全身の末梢時計も、新たに1日の概日リズムを刻み始めます。やがて十数時間たち夜になると、松果体からはメラトニンの分泌が増え、それによって眠気が生じてきます。つまり、朝、光を浴びていないことが体内時計の乱れにつながり、夜の睡眠に影響を及ぼしてしまうということです。
なお、メラトニンの分泌量は、年齢を重ねるとともに減ってくることがわかっています。このような加齢にともなうメラトニン分泌の低下が、高齢者に中途覚醒(睡眠中にたびたび目が覚めるという症状)などが多い一因と考えられています。
それでは、改めて体内時計に影響を与える因子について詳しく説明し、体内時計の乱れが体にどのような影響を及ぼすのかを解説します。

光は、中枢時計に影響を与える最も強力な因子で、朝の光は中枢時計を早め、夜の光は遅らせます。そして、中枢時計を介して末梢時計の正確性にも、光がかかわってきます。
ところで、体内時計(概日リズム)の周期は、実は1日24時間ちょうどではなく、理由はよくわかっていませんが、平均すると15分ほど長いことが知られています。このズレは、毎朝起床後に日光を浴びることでリセットされるのですが、朝遅くまで寝ているとリセットされず、ずれたまま時を刻み続けてしまいます。
一方、夜に入ってからの光は体内時計を遅らせるように働くため、夜間に強い照明を浴びたりスマホ画面を見つめたりすることもまた、体内時計の乱れにつながると考えられています。
光が主に中枢時計に影響を及ぼすのに対して、食事は主に末梢時計に影響を及ぼします。
3食の中でも特に朝食が重要です。朝食を食べることが、末梢時計をリセットするように働きます。
また、インスリン(血糖値を下げるホルモン)の分泌を刺激する食品、具体的には糖質を多く含む食品は、末梢時計をリセットする効果が高い可能性が報告されています。
一方、夜間などの不規則な時間帯の食事は、末梢時計をずらす原因となります。それにより末梢時計と中枢時計との差が生まれ、体の中で時差ぼけが生じたような状態になってしまいます。このような不自然な状態が日常的に繰り返されると、やがて体調不良や病気のリスクを高めてしまうのではないかという考え方もあります。
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運動は、中枢時計と末梢時計の両方に影響を及ぼすことがわかっています。ただし、前述の光や食事と体内時計との関連に比べると、運動と体内時計の関連はまだあまりよくわかっていないことが多いのも事実です。一般的には、日中の適度な運動は体内時計を整え、夜間の激しい運動は体内時計を乱すのではないかと考えられています。
起床時刻や就床時刻、睡眠時間、平日と休日の睡眠時間帯などの変化が激しいほど、体内時計が乱れやすくなります。例えば、海外出張による時差ぼけや交代制(シフト)勤務などによる昼夜逆転生活なども体内時計の乱れにつながります。
体内時計が乱れてしまった結果として睡眠に問題が起こることがありますが、そればかりでなく、逆に睡眠習慣が乱れているために体内時計の乱れが引き起こされ、それによってさらに睡眠の問題が大きくなってしまうということもあり得ます。
「睡眠ホルモン」と呼ばれるメラトニンの分泌量は、加齢とともに低下します。それが体内時計のズレに関係したり、高齢者に起こりがちな睡眠の問題に関係することもあるようです。
また、カフェインやアルコールなどは睡眠に影響を及ぼしますが、それとともに体内時計のズレも引き起こすことがあります。

体内時計が乱れたときに最も影響を受けるのが、睡眠の時間や質です。
例えば、なかなか寝付けない「入眠困難」、睡眠中に目覚めてしまう「中途覚醒」、起きるべき時刻よりも早く目覚めてしまう「早朝覚醒」、睡眠時間は足りているはずなのに、よく眠れたという感じがしない「熟眠障害」などを生じてしまうことがあります。
また、睡眠障害のために日中の倦怠感や眠気が強くなったり、集中力が低下したりといった、時差ぼけのような症状が現れることも。それによって仕事・作業のミスや事故のリスクが生じてしまうこともあるようです。
体内時計の乱れが、肥満や高血圧、脂質異常症、糖尿病、それらによる心臓や血管の病気など、生活習慣病と呼ばれる病気のリスクの高さと関係があることがわかってきています。さらに、乳がんや大腸がんなど、一部のがんのリスクとの関連も、報告されています。
ここまでに取り上げた体の病気や不調の他に、体内時計の乱れは、メンタルヘルスの不調とも関係し、抑うつや不安などが高まりやすくなると考えられています。また、認知機能の低下との関連を示唆する研究結果も報告されています。
体内時計の仕組みとズレが生じる原因、ズレの影響という順に話を進めてきました。ここからは、体内時計のズレを直して正しい時刻にリセットする方法についての話です。朝すべきこと、日中、あるいは夕方から夜にかけてすると良いことという順に解説していきます。
朝は、体内時計のリセットにとって、1日で最も重要な時間帯です。前の晩の就床時刻が遅かったから、よく眠れなかったからといって、いつもよりも遅くまで寝ていると、体内時計のズレが補正されないまま時を刻み、メラトニン分泌の日内変動もずれてしまうことに。
寝不足気味のときにも、起きる時間はなるべく変えないようにしましょう。睡眠不足のために日中のパフォーマンスが上がらないと感じた場合は、夕方になるまでの時間帯に適度の昼寝をするなどして対処しましょう。

朝、起きたらまず太陽の光を浴びましょう。普通に暮らしていても体内時計は少しずつ遅れていくものですが(24時間より15分ほど周期が長いと考えられています)、その遅れが朝日を浴びることによってリセットされます。
なお、太陽の光は人工的な照明より照度がはるかに強いため、冬季の寒さや夏季の暑さをがまんしてまで外出する必要はありません。窓際に移動しカーテンを開けるだけでも効果的です。
食事は主に末梢時計に影響を及ぼします。そして、1日の中で早い時間帯の食事は末梢時計を進め、遅い時間帯の食事は末梢時計を遅くするように働くことが示唆されています。
健康のために毎日朝食を欠かさないことが大切ですが、体内時計を正しい時刻にリセットするという点からも、朝食は重要と考えられます。
なお、後段で説明しますが体内時計に関連する可能性のある栄養素としてビタミンB群があり、その摂取が不足しがちな場合、例えば食べる量が少ない人などでは、栄養を補うためにビタミン剤などを活用するのも一つの方法といえるでしょう。
また、朝食については、食べる時刻とともに、「何を食べるか」も大切です。
「体内時計が乱れる原因」の項で少し触れたように、インスリンという血糖値を下げるホルモンは、末梢時計に働きかける作用ももっています。またインスリンは、体内時計の遺伝子である「時計遺伝子」の発現を変えることもわかってきています。
このインスリンの分泌を高めるには、食べた後に血糖値を上げるように働く食品、具体的には糖質を多く含む食品が適しています。ただ、肥満や糖尿病の予防・治療という点では、糖質の過剰摂取は避けたほうが良いのも事実。ですから、まずは五大栄養素(炭水化物〈糖質と食物繊維〉、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル)を過不足なく摂ったうえで、肥満や糖尿病の心配がない人であれば、朝食に少し糖質を多く摂るという工夫が良いかもしれません。

既に何度か取り上げた、睡眠に重要なメラトニンというホルモンは、トリプトファンというアミノ酸を基に体内でセロトニンが作られて、それが変化してメラトニンになるという経路で作られています。
摂取したトリプトファンがメラトニンになるまでにかかる時間は、半日程度。このことから、朝食にトリプトファンが豊富な食品を摂取しておくことが、夜になってからメラトニンの分泌が高まることにつながります。
また、トリプトファン以外では、グリシンというアミノ酸も睡眠に関与することが知られています。
トリプトファンやグリシンは、たんぱく質を構成しているアミノ酸です。朝食に、豆類、乳製品、肉、魚などのたんぱく源を意識して加えましょう。
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上記したセロトニンの合成には、トリプトファンの他に、ビタミンB群に含まれるビタミンB6も必要とされます。また、ビタミンB12は、体内時計のリセットに関する感受性を高めるように働くのではないかと考えられています。さらに、ビタミンB群に含まれるナイアシンも、体内時計に対して影響を及ぼす可能性が示唆されています。
この他にビタミンB1は、糖質の代謝に必須であり、糖質がインスリンの分泌を刺激して体内時計の調節にかかわることは既に解説したとおりです。
このようにビタミンB群は、さまざまな経路で体内時計の調節に関係しています。
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食物繊維(特に水溶性または発酵性の食物繊維)が、腸内細菌のエサとなって分解される過程で発生する「短鎖脂肪酸」という物質も、体内時計や概日リズムの調整に関係している可能性が示唆されています。
また、食物繊維は便通改善をはじめとして、健康に良いさまざまな働きがあります。それにもかかわらず、多くの日本人に不足している栄養素でもあります。朝食に限らず、1日を通して積極的に食物繊維を摂るようにしましょう。
届出表示:本品にはユーグレナグラシリス由来パラミロン(β-1, 3-グルカンとして)を含みます。ユーグレナグラシリス由来パラミロン(β-1, 3-グルカンとして)には、睡眠の質(眠りの深さ、すっきりとした目覚め)を改善し、起床時の疲労感を軽減する機能、作業時の一時的なストレス(イライラ感、緊張感)を緩和する機能が報告されています。
運動は、末梢時計をリセットするように働くとともに、光よりは弱い作用ながら、中枢時計をリセットするようにも働きます。実際、時差ぼけの解消に運動が有効という報告もみられます。
ただし、運動による体内時計調節のメカニズムは、光や食事などに比べて不明点が多く残されています。体内時計への影響の観点以外にも、そもそも日中に適度に体を動かしておくことが適度な疲労感を生み、夜になってから眠りにつきやすくなるという効果も期待できます。
一方で夜になってからの高強度運動は、交感神経(体を活発にする自律神経)を刺激することなどにより、眠りを妨げてしまうことがあるため、運動は日中に行うと良いでしょう。
朝食を食べることの重要性を解説した際にも述べましたが、食事は主に末梢時計に影響を及ぼし、朝食(早い時間帯の食事)は末梢時計を進めさせて1日のリズムを整える一方、夕食・夜食(遅い時間帯の食事)は末梢時計を遅らせてしまうため、体内時計の乱れにつながりやすくなります。このことから、夕食を遅い時刻に摂ると体内時計が遅れてしまう可能性が考えられます。
また、夜遅い時間帯に食事を摂ることは、消化活動の影響により睡眠の質を低下させます。他にも、食べたもののエネルギーが睡眠中にはあまり利用されないために、脂肪として蓄積されやすく、肥満のリスクを高めたりすることも知られています。すなわち、夕食は早めに、適量を摂るのが良いでしょう。
なお、前述のとおり、ビタミンB群が体内時計に関連する可能性のある栄養素であったり、アミノ酸であるグリシンが睡眠に関わることが知られています。例えば夕食の内容が偏っていたり、食事量が少なくなる際などには、栄養を補うためにビタミン剤などを活用するのも一つの方法といえます。
光は、体内時計、特に中枢時計に最も強い影響を与える因子です。そして「睡眠ホルモン」と呼ばれるメラトニンの分泌を抑制して、覚醒度を高めるように働きかけます。このような光のもつ特徴は、朝には体内時計のリセットに最適な効果を発揮する一方で、夜には逆に体内時計を遅らせるように働いてしまいます。
ですから、夜になったら煌々とした照明の中で過ごしたり、スマホなどを見つめたりするのはできるだけ避けたほうが良いでしょう。スマホの画面の光はそれほど強いものではないものの、目に近づけて凝視すること、そしてメラトニンの分泌を抑制しやすいブルーライト(短波長光)であることから、睡眠への影響が強いと考えられています。
繰り返し解説しているように、食事は主に末梢時計のズレをリセットさせるように働きます。特に、夜遅い時間帯の間食を避け、朝にしっかり食事を摂ることで、このリセット作用はより安定すると考えられます。よって、朝食による体内時計リセット効果を高めるために、前日の夕食以降はあまり食べ物を口に運ばずに、起床後に適度な空腹感を感じているようにすることが望ましいといえます。
とはいえ、これは理想で、実際には避けらない夜の予定があったり、家事や仕事の都合で夜遅くに食べることもあるでしょう。そんなときは、気持ちを切り替え、翌日はいつもどおりの時間に起きて朝日を浴び、なるべく規則正しい生活パターンに戻すようにしましょう。

家の中や街中にはいくつもの時計があり、1日に何度も目に入ります。すべての時計はだいたい同じ時刻を示しているはずです。しかし、もしもそれらの時計がてんでばらばらの時刻を示していたらどうなるでしょう。誰もどの時刻が正しいのかわからず、社会は成り立ちません。体内時計が乱れるとは正にそのようなことで、各臓器や器官が協調せずに万全な機能を発揮することができなくなってしまいます。体調不良や病気のリスクが高まるのも当然かもしれません。メラトニン分泌を整える光、食事(特に朝食)、そして運動という3要素を意識しながら、ぜひ、体内時計が正しい時刻を刻んでいくような生活習慣を意識してみましょう。