一般的に、体温の上昇(37.5℃以上)もしくは個人の日常的な正常値を超えた体温上昇を発熱といい、38℃以上を高熱といいます。高熱が出たときはウイルスや細菌による急性の感染などが疑われます。なお、考えられる原因はさまざまで、ここで紹介しているものはごく一部です。心配な場合には必ず医療機関を受診してください。
監修
勝木 美佐子 先生 (かつき虎ノ門クリニック院長 博士(医学)、日本内科学会総合内科専門医、労働衛生コンサルタント、日本産業衛生学会指導医)
高熱の原因としては、まず感染性、腫瘍性、炎症性(膠原病など)の3種類に大別されます。今回は、頻度が最も高い「感染性」を中心に解説をしていきます。ウイルスや細菌の感染が原因で高熱が出た場合、インフルエンザ、おたふくかぜ、水痘、麻疹、風疹、扁桃咽頭炎、肺炎などが考えられます。
※以下の疾患は、医師の診断が必要です。
下記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
<高熱の原因となる主な感染症一覧>
主な疾患 | 主な症状等 |
---|---|
インフルエンザ | 38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、全身倦怠感等の症状が比較的急速に現れる。 全身症状のほか、のどの痛み、鼻汁、咳などの症状もみられ、小児ではまれに急性脳症を、高齢者や免疫力の低下している人は二次性の肺炎を伴う等、重症になることもある。 |
おたふくかぜ (流行性耳下腺炎) |
耳下腺の腫脹・圧痛、嚥下痛 など。 |
水痘(みずぼうそう) | 発疹発現前の発熱、発疹、水疱、膿疱 など。 |
麻疹(はしか) | 発熱、咳、鼻水といった風邪のような症状が現れる。 2~3日熱が続いた後、39℃以上の高熱と発疹が出現する。 |
風疹 | 発熱、発疹、リンパ節の腫れ、関節痛 など。 |
扁桃咽頭(へんとういんとう)炎 | 咽頭痛、嚥下困難、頸部リンパ節腫脹、発熱 など。 |
肛門周囲膿瘍(のうよう) | 痛み、皮膚が赤く腫れる、発熱 など。 |
肺炎 | 発熱(多くは38℃以上の高熱)、咳、たん(黄色や緑色)、息切れ、胸の痛み など。 |
乳腺炎 | 高熱、乳房の症状としては、紅斑、硬結、圧痛、疼痛、腫脹、触れた際の熱感など。 |
インフルエンザウイルスの感染によって起こります。38℃以上の高熱が出るとともに、筋肉痛や関節痛、頭痛、全身倦怠感などの全身症状が突然現れ、咳、鼻水、くしゃみ、のどの痛みなどの上気道症状がこれに続き、約1週間で軽快するのが典型的なインフルエンザです。いわゆる「かぜ」に比べて全身症状が強く、とくに、高齢者や持病のある方、免疫機能が低下している方は重症化するリスクが高いので注意が必要です。また、小児では中耳炎の合併、熱性痙攣や気管支喘息を誘発することもあります。
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ムンプスウイルスの感染によって起こります。2~3週間の潜伏期(平均18日前後)を経て、耳下腺の腫脹・圧痛、嚥下痛、発熱を主症状として発症し、通常1~2週間で軽快します。小児に多くみられる疾患で、3~6歳で約60%を占めています。特異的な治療法はなく、解熱鎮痛薬などの対症療法が行われます。
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水痘とは、いわゆる「みずぼうそう」のことで、水痘帯状疱疹ウイルスというウイルスによって引き起こされる発疹ができる病気です。主に小児の病気で、9歳以下での発症が90%以上を占めています。空気感染、飛沫感染、接触感染により広がり、潜伏期間は感染から2週間程度です。発疹が発現する前から発熱が認められます。発疹は紅斑(皮膚の表面が赤くなること)から始まり、水疱、膿疱(粘度のある液体が含まれる水疱)を経て、かさぶたになり治癒していきます。
麻疹は、麻疹ウイルスによって引き起こされる急性の全身感染症です。「はしか」とも呼ばれています。感染経路は、空気感染、飛沫感染、接触感染で、感染力は非常に強く免疫を持っていない人が感染すると、ほぼ100%発症します。感染すると約10日後に発熱や咳、鼻水といった風邪のような症状が現れます。そして、2~3日熱が続いた後、39℃以上の高熱と発疹が出現します。 肺炎、中耳炎を合併しやすく、患者1,000人に1人の割合で脳炎が発症すると言われています。
風疹は、風疹ウイルスによって引き起こされる急性の発疹ができる感染症です。感染経路は、飛沫感染で、強い感染力があります。感染すると約2~3週間後に発熱や発疹、リンパ節の腫れなどの症状が現れます。風疹の症状は、子どもでは比較的軽いのですが、まれに脳炎、血小板減少性紫斑病などの合併症が生じることがあります。また、大人がかかると、発熱や発疹の期間が子どもに比べて長く、関節痛がひどいことが多く子どもより重症化することがあります。風疹に対する免疫が不十分な妊娠20週頃までの女性が感染すると、眼や心臓、耳等に障害をもつ(先天性風疹症候群)子どもが出生することがあります。
扁桃咽頭炎は、ウイルス性の疾患で、一般的な風邪の原因となるウイルス(アデノウイルス、ライノウイルスなど)によって起こることが多いのですが、約30%は細菌性で、A群β溶血性レンサ球菌(GABHS)が最も一般的です。のどの違和感や痛み、食べ物をのみ込むときに痛み(嚥下痛)があることが特徴で、耳に関連痛が生じることもあります。細菌性の場合はA群β溶血性レンサ球菌が最も一般的であり、この場合、発熱、リンパ節腫脹、口蓋(こうがい)の点状出血などがウイルス性扁桃咽頭炎と比べ、よくみられます。
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肛門周囲膿瘍は、肛門を少し入ったところにある小さな穴から大腸菌などの細菌が入って肛門周囲が化膿する疾患です。膿は自然に皮膚をやぶって外に流れだしたり、病院で切って膿を出してもらうと、トンネルが残った状態になります。これが痔ろうです。肛門周囲膿瘍は痛んだり、皮膚が赤く腫れたり、発熱の症状があります。痔ろうは炎症が治まっていれば痛みはなく、しこりを触れたり、分泌物が出たり、かゆみなどの症状が出ます。痔ろうが再び化膿して、肛門周囲膿瘍になり痛みが生じることもあります。
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ウイルスや細菌が肺に侵入し、炎症を起こします。主な症状は、発熱(38℃以上の高熱)、咳、たん(黄色や緑色)などで、風邪とよく似ていて、症状から見分けるのは難しいですが、まったく異なる病気で大きな違いは感染が起こる部位です。風邪は、主に鼻や喉といった上気道に炎症を生じますが、肺炎は、主に肺の中の感染症であり、肺胞という部位に炎症が起こります。また、風邪をひいたことがきっかけで二次感染を起こし、合併症として肺炎を引き起こすこともあります。息切れや胸の痛みなどの症状が現れることもあり、重症の場合は入院が必要になります。特に、抵抗力の弱い子供や体力が落ちている人、免疫力の弱い高齢者はリスクが高いので注意した方がよいでしょう。
乳腺に炎症が起こる疾患です。乳房のしこりや皮膚の赤み、痛みから始まり、熱感を伴い、さらに発熱、悪寒(寒気、ぞくぞくする)などの全身症状がみられるようになります。一般的な乳腺炎には、授乳期に乳腺に母乳が溜まって起きる急性うっ滞乳腺炎と、細菌感染による急性化膿性乳腺炎があります。急性化膿性乳腺炎は、細菌が乳頭部から乳管を通って乳管や乳腺組織内に広がって炎症を起こします。黄色ブドウ球菌が原因となることが多いです。
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※以上の疾患は、医師の診断が必要です。
上記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
ウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入すると、病原体を排除しようと免疫を活性化することで、発熱することがあります。いわゆる普通の風邪でも発熱は起こりますが、38℃くらいまでのことが多く、38℃以上の高熱の場合はインフルエンザウイルスなどが疑われます。
細菌やウイルスなどの病原体をはじめ、やけどや放射線などの物理的な刺激、薬物などの化学的な刺激、アレルギー反応などによって有害な刺激を受けたときに、体の防御反応として炎症が起こります。発疹や熱感、腫れ、痛みなどが起こりますが、全身症状として発熱が起こることもあります。そして炎症部分に原因菌が増殖して、化膿性の炎症を起こして膿が溜まると、さらに高熱が出ることがあります。
突然高熱が出た場合は、ためらわず救急車を呼びましょう。高熱以外に、激しい頭痛・腹痛、意識障害、ふらつき、痙攣、嘔吐、呼吸困難などが現れる場合、重大な病気の可能性もあります。一部の疾患の紹介をします。
※以下の疾患は、医師の診断が必要です。
下記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
尿路(腎臓から始まり、腎臓にて作られた尿を集めて尿管にそそぐ腎盂、尿管、膀胱、尿道まで)に細菌が感染して起こります。症状は、悪寒と戦慄(ふるえ、歯がガチガチする)を伴う高熱、わき腹が痛む、腰が痛む、はきけ、嘔吐などがあり、全身症状が強く出ることが特徴です。尿路感染症は、尿道が短い女性で多くみられます。
急性胆管炎は、胆汁の細菌感染に加えて、総胆管結石などにより胆汁がうっ滞して胆管内の圧力が上がることの両方がそろったときに起こります。急性胆管炎が起こると、39℃以上の高熱が出て黄疸が出現し、右季肋部痛※(みぎきろくぶつう)が起こります。症状が進行すると、意識が混濁したりショック状態になることもあります。
※右の一番下のあばら骨の裏側の痛み
肝臓病の原因にはウイルス、薬剤、アルコールなどがありますが、急性肝炎の多くは肝炎ウイルスの感染によるものです。感染初期の前駆症状としては、発熱やのどの痛み、頭痛など風邪に似た症状が出ます。この時点での急性肝炎の診断は難しく、風邪薬を処方されることもあります。自覚症状の中でいつもと違うと感じる特徴的な症状は黄疸で、白目や皮膚の色が黄色くなったり、褐色尿(ウーロン茶のような色をした尿)が出ます。この時期には食欲不振、全身倦怠感、吐き気などの症状も出現します。
腹部の内臓や腸をおおう腹膜に炎症が起きる疾患です。多くの場合、消化管に穴が開いて内容物がお腹の中に漏れて広がって起こります。腹痛、嘔吐、下痢、発熱などが主な症状で、多くの場合、緊急手術が必要になります。
ウイルスなど感染によるものではない、悪性腫瘍が原因で起こる発熱を腫瘍熱といいます。37.8℃以上の発熱が 1 日 1 回以上、発熱の期間が長期間(2週間以上)であることが多いです。
※以上の疾患は、医師の診断が必要です。
上記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
高熱が出たときは、できるだけ早く医師の診察を受けましょう。なお、病院へ行くときは、初期の熱の出方や症状が診断の重要な情報になるので、いつから、どのくらいの熱が出て、どう続いているか、また熱以外にどのような症状が出ているかを説明できるようにしておきましょう。
暑いと感じたら布団を薄手のものにしたり、寒いときは厚着をするなど体温の調節をはかりましょう。また、高熱が出たときには脱水を起こしやすいので、こまめに水分をとるようにしましょう。
頭部や脇の下や首の周り、足の付け根など脈がふれる場所を、氷枕や保冷剤などで冷やすと体温を下げる効果があります。また、ぬるま湯を浸して絞ったタオルで全身を拭くのも効果的です。ただし、熱が上がっていくときには寒気があるので、冷やすのは逆効果になってしまいます。
高熱が出た場合、医師の診察を受けることが望ましいですが、難しい場合や時間がかかる場合は市販の薬を活用するといいでしょう。一時的に高熱を和らげるためには、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどを配合した解熱鎮痛薬や、喉の痛みや咳などその他の風邪症状がある場合は、かぜ薬を選びましょう。
高熱の主な原因は、細菌やウイルスによる感染症です。感染症の予防には家に帰ったらうがい、手洗いをする習慣をつけることや、入浴で全身をしっかり洗って病原体を寄せ付けないことが大切です。また、栄養バランスの良い食事をとり、睡眠を十分にとることで体の抵抗力を高めることも効果的です。
体温は個人差が大きく、人によって平熱が異なります。健康なときに検温して知っておくようにしましょう。体温計には、脇の下で測る腋下(えきか)式、口の中で測る口腔(こうくう)式、耳の中で測る耳式などがあります。脇の下で測る場合は、汗をよくふいて、体温計の先を脇の斜め下からくぼみに当ててはさみ、反対側の手で腕を押さえて測ります。入浴後や運動後は体温が上昇しているので、体温測定は避けましょう。