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新型タバコだから大丈夫?~基礎知識編~

新型タバコだから大丈夫?~基礎知識編~

〈話し手〉 松崎 道幸 Michiyuki Matsuzaki(道北勤医協旭川北医院 院長/日本禁煙学会 理事・受動喫煙対策委員会委員長)

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、受動喫煙防止対策に関する話題が報道される機会が多くなってきました。
 一方、最近「加熱式非燃焼タバコ(以下、新型タバコ)」*に注目が集まり、喫煙者の中には従来のいわゆるタバコと呼ばれる紙巻タバコから新型タバコへ切り替える人や、紙巻タバコと新型タバコをTPOに応じて使い分ける人も増えています。この背景には、“無煙で有害性を90%低減”するとの情報から「紙巻タバコより新型タバコのほうが安全」、「禁煙できる」、「受動喫煙がない」など間違ったイメージの広がりがあります。
 そこで、新型タバコに関する基礎知識や、「そろそろ禁煙したほうがいいかな」と思っている人の背中をどのように後押しするのが効果的か、喫煙に関する問題に長く関わってきた松崎道幸先生に伺ったお話を2回に分けてご紹介します。

※本記事は、武田薬報webに掲載していた当時の記事になります。

新型タバコの基礎知識

 新しく登場したタバコ製品について用語の定義がされないまま、加熱式非燃焼タバコ、加熱式電子タバコ、加熱式タバコ、電気タバコ、ベイパー、電子タバコなど色々な名称で呼ばれており、またそれぞれの名称の指す製品は一定していません*。基本的な分類として、使用する原料によって大きく3つに分類できます。1.葉たばこを使用した製品、2.ニコチン非配合リキッドを使用した製品、3.ニコチン配合リキッドを使用した製品です(図1)。
 日本で製造販売されている新型タバコは1.の葉たばこを使用した製品で、バッテリーで葉たばこを300℃程度に加熱し、気化したニコチン(沸点:247℃)を蒸気と一緒に吸煙する仕組みになっています(図2)。加熱式非燃焼方式で火を使って燃やさないため煙や臭いがほとんどなく、有害物質が軽減されているといわれています。

*一般的に医薬関係者がいう「新型タバコ」は、この「加熱式非燃焼(heat not burn:HNB)タバコ」を指しています。なお、記事中使用する用語として、新型タバコは加熱式非燃焼タバコ、電子タバコはそれ以外を指しています。

新型タバコ・電子タバコの分類

図1 新型タバコ・電子タバコの分類

新型タバコの構造例

図2 新型タバコの構造例

葉たばこを使用した新型タバコの特徴

紙巻タバコと同程度のニコチン摂取

 葉たばこを使用した新型タバコの喫煙によるニコチン摂取量は紙巻タバコの約8割程度とされています。ただし、喫煙者はニコチンの血中濃度が一定に達し満足感が得られるまで吸煙を続けるため、結果的に体内に摂取するニコチンの量は紙巻タバコと同じです。したがって、新型タバコでもニコチン依存症を起こします。

禁煙のつもりが、かえってニコチン依存を助長

 「新型タバコで禁煙できる」といった誤解があるようですが、これを支持するデータは今のところありません。逆に、日本や諸外国での調査では、紙巻タバコと比較して新型タバコを使っている人のほうが、かえって喫煙から離れづらくなっているという調査結果があります1-2)
 また、禁煙した人が使用した医療用医薬品の禁煙補助剤「バレニクリン」(ニコチン依存症の症状を緩和させる作用を持つ)の使用量を比較したところ、新型タバコを使っていた人のほうがより多く必要としたという結果が示されています2)

他の有害成分

 燃焼しない新型タバコでは、一酸化炭素についてはほとんど出ず、また高沸点温度のタール成分の発生は抑えられています。ただし重金属やホルムアルデヒドなどの有害物質は製品によって異なり、紙巻タバコより少ないものから同じ程度のものもあると報告されています3)。その他の成分について製造メーカーは全てを公開しているわけではありません。なかにはホルムアルデヒドなどの発がん性物質が蒸気中に紙巻タバコの場合と同様に含まれる(表1)ことがわかってきました4)。新型タバコを長期に摂取した場合の有害性はまだ確認されていないのが現状です5)

新型タバコ1本中の蒸気と紙巻きタバコ1本中の煙に含まれる主な成分の比較

表1 新型タバコ1本中の蒸気と紙巻きタバコ1本中の煙に含まれる主な成分の比較

Auer R, et al. : JAMA Intern Med. 177(7): 1050-1052, 2017

新型タバコの法的規制

日本における新型タバコ製品事情

 新型タバコも含めてタバコ製品の規制については、日本では“葉たばこを使用しているかどうか”で法律が異なります。
 葉たばこを使った製品は、紙巻タバコと同様に財務省の管轄下で、「たばこ事業法」で規制され、安全性を確かめる長期の試験などが行われないまま販売されています。ただし、たばこ事業法とWHOの進めるFCTC(後述)によって新型タバコは紙巻タバコと同様に、テレビコマーシャルなどの宣伝はできませんし、未成年者喫煙禁止法によって未成年者に販売することもできません。

 一方、合成ニコチン*を配合した電子タバコを製造販売するには厚生労働省の認可が必要となり、「薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)」によって厳しく規制され、さまざまな安全性の試験をクリアしなければなりません。加熱用デバイスも医療機器として同法が適用されます。このカテゴリーに入る電子タバコは現在国内での製造販売はありません。

*合成ニコチン:医薬品として化学的に合成されたニコチン。植物であるたばこの葉を原料とした新型タバコと区別される。

禁煙トレンドへの影響

 日本では残念なことに、一部の自治体や店舗において、禁煙スペースでの新型タバコの使用を容認するケースがあり、混乱を招いています。そのため喫煙者の中には「喫煙可能な場では紙巻タバコ、禁煙の場では新型タバコ」、と両方をTPOに応じて使い分けるデュアルユーザーが増え、紙巻タバコ喫煙を減らすことにつながらないと懸念されています。

新型タバコのリスクを正しく知り、伝える

 「新型タバコは無煙無臭で紙巻タバコより有害成分が少ないから、禁煙の場でも使ってもよいのでは」という喫煙者がいますが、新型タバコはWHOのFCTC(タバコの規制に関する世界保健機関枠組条約:Framework Convention on Tobacco Control)で定義されているように紙巻タバコと同じ葉たばこを使用したタバコ製品に含まれ、本条約締結国であるわが国の受動喫煙対策においても、紙巻タバコと同様に規制される対象であることを覚えておいてください。
 これまでタバコ産業は、フィルター付きタバコは両切りタバコより害が少ない、低タール・低ニコチンのタバコは害が少ない、能動喫煙より受動喫煙の害は非常に少ないといった主張をしてきましたが、ことごとく覆りました。しかし、それらが社会通念となるまでに20〜30年もかかりました。今またタバコ産業によって、新型タバコは紙巻タバコよりも害が少ないとされていますが、新型タバコのリスクが科学的根拠で証明されるためには、同様に長い年数の追跡調査が必要と考えられています。
 新型タバコの長期にわたる調査結果がないなか、大切な視点として「たとえ有害物質やリスクが紙巻タバコの10分の1であるとしても、健康被害は免れない」ということを忘れないでいただきたいと思います。

 このように、新型タバコの使用者と周囲の人への安全性はまったく証明されていない現在、新型タバコの使用には慎重になることが重要であり、紙巻タバコを使用できない禁煙スペースでは当然新型タバコも明確に禁止される必要があります。
 また、新型タバコに切り替えても、結局紙巻タバコ喫煙に戻る方が多いことを覚えておきましょう。

 次号では、新型タバコの受動喫煙の害や、新型タバコを誤解している喫煙者へ禁煙の勧め方などを紹介します。

【参考文献】

1)Kalkhoran S, et al. : Lancet Respir Med 4(2):116-128, 2016

2)Hirano T, et al. : Int J Environ Res Public Health 14(2): 202, 2017

3)Visser W, et al.: The health risks of using e-cigarettes. [Internet]. Bilthoven The Netherlands: National Institute for Public Health and the Environment; 2015

4)Auer R, et al. : JAMA Intern Med 177(7): 1050-1052, 2017

5)電子タバコに関する世界保健機関報告書

[URL] http://www.who.int/fctc/cop/cop7/FCTC_COP_7_11_EN.pdf?ua=1(2017年11月22日アクセス)

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