監修:花輪 壽彦 Toshihiko Hanawa(北里大学東洋医学総合研究所 教授)
現代社会はストレス社会といわれ、体の不調として症状がでることもあります。
例えば、のどの不調というと風邪を思い浮かべがちですが、のどがつかえているようで、なんとなく調子が悪いという場合はストレスが原因のこともあり、漢方薬で症状が改善できるかもしれません。
そこで今回は漢方の専門医・花輪壽彦先生のもとへ相談におとずれた患者さんとの会話から、具体的な症状や不調を改善するポイントを読み解いていきましょう。
登場人物紹介
<患者プロフィール>
Aさん:42歳 女性
大学を卒業したのち生まれ故郷への貢献を夢見て地方公務員になったが、もっと自分に合った仕事があったのではないかと、時々考える。
そんな折、他県で起きた地震の被災者の支援要請が職場にきたため現地へ赴き、自然災害の恐ろしさを目の当たりにした。
それ以来、体調がすぐれず風邪気味。仕事にも集中できない日が続いている。
Aさん:
かかりつけ医の診察をうけましたが異常はないといわれ、家族も怠け癖が出たのでは、と相手にもしてくれないのです。
精密検査でも異常がなかったにもかかわらず調子が戻らないので上司に相談したら、漢方のクリニックに行ってみたらといわれました。それで、うかがった次第です。
Aさん:
それに、急に心臓がどきどきしたり、肩凝りも以前よりひどくなったような気がします。
花輪先生:
「気」とは、元気、やる気などの気とお考え下さい。漢方では、この「気」が全身を巡っており、それが停滞するといろいろな病気の原因になると考えられています。
薬用植物フォトライブラリー 半夏厚朴湯
花輪先生:
この表を見て下さい。今Aさんがおっしゃった症状以外にも、この中に思い当たる症状がありますか。
表1 半夏厚朴湯の効果が得られやすい症状など
Aさん:
映画館や電車の中などにいると、今地震が起きたらどうしようと強い不安感に襲われるようになりました。何か警報のような音が聞こえると、居ても立ってもいられない気持ちになります。
花輪先生:
それでは落ち着いた生活ができませんよね。
半夏厚朴湯は、気持ちを穏やかにさせて、不安や緊張感を和らげる作用もあるとされています。しばらくのんでみて下さい。
※漢方医学による診断:実際の診察では会話のような問診のほか、望診(顔色や舌などを見ることによる診断)、切診(脈やお腹など手で触れる診断)、聞診(聴覚、臭覚による診断))の四診を行う。
Aさん:
それから、夜寝るときに心臓がどきどきすると、心臓が止まるのではないかと不安で、よく眠れなかったのですが、最近は心臓の音もあまり気にならなくなり、よく眠れるようになりました。不思議ですね。来週は、家族で久しぶりに映画を観に行こうかと計画しているところです。
花輪先生:
被災地の惨状をご覧になって、心も弱ってしまったのかもしれませんね。Aさんは少し敏感に反応していろいろなことを悲観的に考える傾向もあるようですから、今後も調子が悪いなと思われたときは、半夏厚朴湯をまずのまれてはいかがでしょう。常備薬にしてもよいかもしれませんよ。