ヒロハセネガ
(英名:Senega ラテン名:SENEGAE RADIX) Polygala senega Linné var. latifolia Torrey et Gray
日本で医薬品として利用される植物素材は、日本に昔から自生するもの、中国原産のもの、中国原産のものによく似たものを日本国内に生育するものの中に探し代用するようになったものなど、東アジア原産のものが多い。その中で、セネガは北米原産であるという点でユニークな生薬である。また、日本薬局方に収載されている生薬類は、漢方薬として利用されるものが大多数を占める中で、セネガはシロップ剤の形でいわゆる近代医薬品と一緒に処方されるものであって、漢方処方には配合されない。
薬用部位は根で、刺激性去痰薬として使われる。即ち、気管支や気道を刺激して痰を出やすくする薬である。調剤室の水剤の棚に、透明なセネガシロップとしばしば一緒に並んでいるものに茶色いオウヒ(桜皮)エキス(商品名:ブロチンシロップ)があるが、両者は同様の目的で使われるものの成分的には異なっており、セネガはサポニンを豊富に含み、オウヒはサポニンではない配糖体が豊富に含まれる。
セネガに含まれるサポニン成分についての構造研究や薬理活性研究は日本人研究者による成果が多く、毛生え薬の効果や、腫瘍細胞に栄養を与える血管の新生を阻害する効果などが動物を使った実験で確かめられている。サポニンはサボン(=石鹸)のように水に入れて振りまぜると泡立つ成分で界面活性剤のような働きをするが、生薬に含まれるサポニンには多様な構造があって、生物活性も多様で面白い。このセネガのサポニンについても、分子構造はひと昔前に明らかにされていたが、薬理活性についての発見は動物や細胞を使った実験方法が豊富になった近年のことで、論文中でも「再発見」という表現で紹介されている。
植物の姿は茎が細く、葉も小さめで、白い小さな花をつける(上記写真)。北米には同属の植物が約60種あり、日本で薬用にする種のような地味な外見のものから、観賞用にできるほど大型の華やかな花をつけるものまで多岐にわたる。乾燥気味の草原地帯などに多く生え、湿潤な日本の気候は生育環境としてあまり適さないのかもしれないが、セネガは国内栽培が行われており、日本で年間5〜6トン使用される、その100%が国産で賄われている生薬である。他方、セネガと同属(Polygala属)の植物を基原とする日本薬局方収載の生薬としてオンジ(遠志)があるが、こちらはユーラシア東部原産で、人参養栄湯や帰脾湯などの汎用漢方処方に配合され、日本での使用量の100%を中国からの輸入品に頼る生薬である。
解説:伊藤美千穂(京都大学大学院) 撮影場所:京都薬用植物園