ヤマザクラ
バラ科(生薬英名:Cherry Bark) Cerasus jamasakura H.Ohba(Rosaceae)(局Prunus jamasakura Siebold ex Koidzumi)
宮城県以南から四国、九州ならびに朝鮮半島の南部まで分布する落葉高木で、野生のサクラの代表的な種として展葉と同時に開花する特徴があり、奈良県吉野山のサクラはほとんどが本種である。サクラの仲間は中国やヒマラヤにも数種あるが、日本では種類が極めて多く、日本古来の植物の一つで、国花に指定されている。奈良時代まで「花」といえばウメを指していたが、平安時代以後はサクラの雅が見直され、紫宸殿(京都御所)の正面のウメが「左近の桜」として植え替えられ、以後名実ともに日本を代表する花木へと発展して「お花見」の対象となった。
サクラは切り口が塞がりにくく、しばしば病原菌が進入して本体を枯らしてしまうことがあるので、昔から『サクラ切る馬鹿、ウメ切らぬ馬鹿』といってサクラの枝を切ることは戒められてきた。やむを得ず枝を切る場合は、切り口を滑らかにしたうえで雨水が浸入しないよう処置する必要がある。
本種あるいはカスミザクラC.verecunda H. Ohba(局P.verecunda Koehne)の樹皮を6~8月に採取して乾燥したものが生薬「桜皮」で、解毒、鎮咳、去痰作用などが知られており、華岡青洲が考案した十味敗毒湯に配合され、化膿性皮膚疾患、じんましん、湿疹、皮膚炎、水虫などに適応されている。また、桜皮エキスは現在でも鎮咳・去痰薬として多くのせき止めやたん切りのシロップ剤に配合されている。成分としては、フラボノイド類のサクラニン(sakuranin)、サクラネチン(sakuranetin)などが含まれる。
この生薬(桜皮)は江戸時代から民間療法として、じんましん、腫れ物などの皮膚病の治療、魚の中毒、解熱、せき止めなどに利用されており、その基原植物もすべて日本に自生する数少ない日本育ちのものである。この生薬がいろいろな皮膚疾患に用いられることを考えた時、古来、常に身につける衣服の染色にサクラの皮の煎出液を用いた先人の創意は、単にその色のみならず、この生薬が持つ皮膚炎予防の効果と無縁ではないように思われる。
サクラ(桜)の色や香りは多くの人に好まれ、その他に種類は異なるものの、八重ザクラの花は桜茶、オオシマザクラの葉は桜餅に、ヤマザクラおよびカスミザクラの樹皮は秋田の工芸品「樺細工」として有名である。
解説:尾崎 和男(京都薬用植物園) 撮影場所:京都薬用植物園