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ハッカ

シソ科 Labiatae(生薬名:薄荷、Mentha arvensis Linné var. piperascens

ハッカ
ハッカ

 口中清涼剤、ガム、練り歯磨きなどハッカ由来の香料が添加される製品は四季を通じて身の回りにたくさんあるのだが、そのハッカがミントと同じ仲間であるということを説明すると、意外な表情をされる方が案外多い。どうやら、ハッカは”薄荷”と漢字で書くことができるし、ハッカ飴や薄荷脳など、和風のイメージが強いのに対し、ミントは西洋ハーブのイメージがあるのだそうである。厳密に言えば、ミントという名称で表される植物には多くの種類があり、ハッカはそのうちのひとつで、日本で栽培されていた歴史がある種類のことである。
 ハッカはその乾燥葉が生薬として加味逍遥散カミショウヨウサン川芎茶調散センキュウチャチョウサンなどの漢方処方に配合されるほか、ハッカ油やメントールを抽出する原料植物でもある。おなじみのスーッとした香りは、主に精油に含まれるメントールによるものである。
 メントールは基本骨格が炭素10個でできた低分子化合物(モノテルペン類)で、精製すると常温常圧で角柱状の綺麗な結晶になる。モノテルペン類は植物精油に多く含まれる化合物群で、リモネンやゲラニオールなど常温常圧で液体であるものが非常に多いのだが、メントールはその化学構造に特徴があって、固体なのである。固体であっても他のモノテルペン類と同様、気体になりやすく、固体から直接気体になるので“昇華する”と表現する。香料として汎用されるだけでなく、医薬品としての用途もあり、皮膚に触れると清涼感があって鎮痛作用や鎮痒作用があるため、湿布や軟膏、虫さされ用の塗り薬などの外用剤に配合される。
 メントールはハッカを蒸留して得られる精油の中で、その結晶をゆっくり成長させることで精製される。筆者の記憶では、小学生時代の理科実験で、飽和食塩水を作って放置し、その中で塩化ナトリウムの結晶が成長して大きくなっていく様子を数週間かけて観察したというのがあるが、それと同じ原理である。いささか原始的な方法ではあるが、メントールの結晶性の高さをうまく利用しており、添加物等を加えないでもほぼ純粋な化合物が得られるため、現在でも天然メントールと称されるメントールは工業的にこの方法で製造されている。

ハッカ

 大きな結晶を作ることで純度を高めるという方法で工業的規模でメントールが製造できてしまう理由には、メントールの結晶性の良さと、もうひとつ、ハッカから得られる精油のメントール含量が非常に高いということが挙げられる。この目的に特化して育種されたのが、日本のハッカ、いわゆるニホンハッカ(和種ハッカ)である。ニホンハッカを蒸留して得られるハッカ精油には、メントールが60~70%も含まれている。
 江戸から明治時代そして第二次世界大戦前あたりまで、岡山県や北海道を中心に日本の各地でニホンハッカが栽培され、天然メントールの結晶が生産されて輸出されていた。日本産天然メントールは品質が高いことが評判で輸出は非常に好調だったというが、第二次世界大戦後は日本国内のハッカ栽培は衰退し、主産地はブラジルに移された。時代がくだるとともに主産地はブラジルから中国へ、さらに現在ではインドに移転している。インドのミント栽培地域では、米作りの裏作としてミント栽培をする農家が多く、ニホンハッカのみならず、ペパーミントやスペアミントなどのいわゆる西洋ハッカも大規模に栽培されているようである。

解説:伊藤美千穂(京都大学大学院) 撮影場所:京都薬用植物園

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