ゴボウ
キク科(生薬名:牛蒡子 ) Arctium lappa Linn.(Asteraceae)
欧州原産とされる越年草。シベリア、中国にも分布する。日本への渡来は非常に古く、『本草和名』(918)に「技多伎須」と記されている。主根は土中に深く伸びて肥大し、長さ40〜150cmになる。葉は長い葉柄を持ち、葉身は径50cmほどの心臓形、葉縁には浅い欠刻(きれこみ)がある。茎および葉の裏側には白い綿毛が生える。一定期間の低温に遭遇した後、高温長日条件で花茎が伸びて高さ150cmほどになり、夏に赤紫色または白色の管状花を多数開く。総苞にはアザミのようなトゲがある。
漢方では果実を「牛蒡子」または「悪実(果実の形が悪く、釣り針状の刺が多いため)」と呼び、消炎、解毒、解熱、排膿などの作用があり、駆風解毒散、消風散、柴胡清肝湯などに配合されている。また2 年生以上の根を乾燥したものが「牛蒡根」で、新陳代謝機能促進、食欲増進、発汗、利尿、鎮咳などに用いられる。さらに、痰のつかえた時に生根の汁を飲むとか、毒虫に刺された時には葉や根の生汁をつけるとよいなど、民間薬としての利用も多い。
成分としては、リグナン系苦味配糖体のアルクチン(arctiinC27H34O11・H20)が約20%、パルミチン酸を主成分とする脂肪油が25~30%含まれる。また根に多く含まれる食物繊維は、消化吸収されにくい水溶性イヌリン(inulin)と、腸の運動を活発にする不溶性のヘミセルロース、リグニンなどで構成されている。
ゴボウの種子は発芽に光線を必要とする『好光性種子』なので、覆土はほとんど行わず、種子を軽く踏圧する程度でよい。発芽適温は25~28℃。本種の栽培において連作障害の主因である害虫のセンチュウは、果菜類や豆類によく寄生するので、輪作(違う種類の作物を組み合わせて順番に作付けする方法)にはイネ科作物との相性がよい。
ゴボウが蔬菜(野菜)として注目されたのは平安時代の後期からで、日本人の嗜好にあったためか江戸時代には全国各地に広まり、例えば千葉県匝瑳市大浦に産する「大浦ゴボウ」、京野菜を代表する「堀川ゴボウ」など、形や味、香りの違った多種多様の品種が作り出された。料理法もさまざまで、太ゴボウは中心部の空洞に挽肉を詰めて調理し、また茹でたゴボウを擂り粉木で叩き、ゴマ酢やゴマ醤油をかけた「叩きゴボウ」は、江戸時代から正月・おせち料理の一品に加えられた。さらに、ドジョウ料理などに欠かせない素材として親しまれているが、根を食用にする道を開いたのは日本人で、戦争中捕虜の食事にゴボウをつけたことが、後に木の根を食べさせたと問題になったと伝えられている。食文化の違いが思わぬ誤解を生んだ一例である。
解説:渡辺 斉(京都薬用植物園 園長) 撮影場所:京都薬用植物園