チャノキ
ツバキ科(生薬名:細茶) Camellia sinensis (L.)Kuntze (Theaceae)
中国の西南地域を原産とする暖地性の常緑低木で、ツバキやサザンカと同じ仲間である。日本には、延暦24年(805年)に最澄が薬木として唐から種子を持ち帰ったのが初めとされ、今では日本各地で栽培あるいは野生化している。特に本格的な栽培は九州で始まったとされ、茶の産地として有名な佐賀県嬉野には天然記念物指定の古木が残されている。建久2年(1191年)には建仁寺の僧・栄西が中国から茶の製法を修得して帰国するとともに、「喫茶養生記」を著して緑茶を普及させたといわれている。京都の宇治茶は有名であるが、栄西から種子を贈られた栂尾の明恵上人がこれを育て、後に宇治に移したのが始まりとされる。
本種の葉を乾燥させたものを生薬「細茶」と称し、性味は苦甘・涼で、中枢神経興奮、気管支拡張、強心、利尿作用などが知られている。漢方処方としてはかぜ、頭痛などを改善する目的で一般用漢方製剤の川芎茶調散などに配合されている。成分としては、カフェイン(caffeine)、テオフィリン(theophylline) 、タンニン類などが含まれており、抗酸化、止瀉、虫歯予防、口臭抑制、血糖降下、降圧、血栓形成阻害などの薬理作用が学会等で報告されている。
飲料としてのお茶は、摘採後の茶葉に含まれる酸化酵素(ポリフェノールオキシダーゼ)の働きをどの段階で止める(失活させる)かによって、不発酵茶(緑茶)、半発酵茶(烏竜茶)、発酵茶(紅茶)に大別される。
緑茶の酵素失活法は、蒸製と釜炒り製に大別され、日本では前者が圧倒的に多い。緑茶の種類は、原料茶葉の栽培法や製茶法により煎茶、番茶、かぶせ茶、玉露、碾茶などに分けられる。煎茶は4月下旬から5月上旬に摘採される新芽を蒸製して加工乾燥したものである。一方、製造法は同じでも、硬くなった葉や茎を原料にしたものが番茶である。この番茶を強火で炒って焙焼香をつけたのが焙じ茶、番茶に炒った玄米を混ぜたものが玄米茶と呼ばれる。栽培法が異なる玉露などは、よしずなどで日光を遮って栽培した茶の葉から製造するもので、旨味成分のアミノ酸(テアニン)を多く含み、苦渋味の成分であるタンニン(カテキン類)が少なく独特の香りを有するのが特徴である。また、碾茶を石臼で挽いて粉にしたものが抹茶である。
原産地の中国西南地域から東に向かって分化した系統は、耐寒性が比較的高く、葉は小型でタンニン含有量も少ない日本茶の品種や烏竜茶などに変化した。一方、南西に向かって分化したアッサム系統は、耐寒性が低く、葉は大型でタンニン含有量が多い紅茶などに変化した。
解説:尾崎 和男(京都薬用植物園) 撮影場所:京都薬用植物園