サネカズラ
(マツブサ科/生薬名:南五味子) Kadsura japonica Dunal(Schisandraceae)
小倉百人一首の「名にしおはば 逢坂山の さねかづら…」で世に知られる。和名のサネは実、カズラはつるの意。また
「滑り葛󠄀」の意味からつけられた古名のサナカズラから音転したという説もある。さらに、本種の樹皮には粘液質のキシログルクロードを含むので、つるを水に浸すと粘液が出て、それを武士が整髪に用いたことから『美男葛󠄀』の別名がある。英名は「scarlet
kadsura」。このように、学名を含む本種の名前は「つる植物の日本代表」という様相を呈している。
関東以西から南西諸島、朝鮮半島南部などの暖帯林に分布する、常緑のつる性木本。古い茎は柔軟な厚いコルク質の外皮を持ち、低木に覆い被さって生育する。光沢のある葉は、長さ4〜10cm、幅3〜5cmの長楕円形、有柄で互生する。葉の裏面はしばしば紫色を帯びる。7〜8月頃、径2cmほどの黄白色花を葉腋につけ、花柄によって垂れ下がる。多くは単性花であるが、稀に両性花をつける。秋に、径5mmほどの多数の赤い果実が果托に着いて、径3cmほどの丸い集合果を形成する。常緑の葉と赤い集合果との対比が美しいので、庭園や生垣によく植栽され、斑入りなどの園芸品種も育成されている。
果実を収穫し、天日乾燥したものが「南五味子」で、神農本草経の上品に収載される正品「五味子」(後述)の代用として、滋養強壮、疲労回復などに応用する。苦味が強いので、蜂蜜や砂糖で調味して用いる。また民間では新鮮な葉を切り傷に用いる。
本種の繁殖は、実生、挿し木、株分けによる。耐寒性はやや弱いが、土性もあまり選ばず、樹勢が強くてどこでもよく育つので、強く整枝したほうが実着きも良くなる。
「五味子」について、中国の本草学者・蘇敬は『果皮と果肉は甘酸っぱく、核の中は辛苦い。全体は塩味で、五味が具わる』と記している。中枢神経系の興奮作用、鎮咳・去痰、利尿、消炎、胃液分泌抑制、利胆、血圧降下作用などがあり、漢方では鎮咳、止瀉、滋養強壮薬として、小青竜湯、青暑益気湯、人参養栄湯などに処方される。種子油の成分として、リグナン系のシキサンドリン(schizandrin)、ゴミシン(gomisin)A〜Oなどが知られている。
『中国薬典』に収載された「北五味子」は、チョウセンゴミシ(Schisandra chinensis Baill.)の成熟果実を乾燥したもの。つる性の落葉木本で、享保年間(1716〜1735年)に薬用として朝鮮半島から導入されたが、明治になってから日本の北海道や本州中北部の山地にも自生することがわかった。現在の主産地は中国の黒竜江・吉林・遼寧省である。一方、「南五味子」の中国産は、カチュウ(華中)ゴミシ(S. sphenanthera Rehd.et Wils.)を基原とし、日本産とは全く異なるものである。
解説:渡辺 斉(京都薬用植物園 園長) 撮影場所:京都薬用植物園