フキ
キク科(生薬名:蕗の薹) Petasites japonicus Maxim.(Asteraceae)
日本の東北以南、朝鮮半島、中国などに分布する多年草で、比較的湿気の多い日当たりの良い土手や畦に生育する。植物学的には、ヒガンバナと同様に葉と花茎が別々に生育する珍しい特徴を有している。雌雄異株で、雄花は黄色い花粉を出しているので黄白色を帯び、あまり伸びずに役目を終えて立ち枯れる。雌花はやや小さく、白い柱頭が花冠(花弁[いわゆる「花びら」]の集合体)から突き出ているので、白く見える。花茎は30〜45cmに伸び、萼が変化した白く長い綿毛をつけた果実を飛ばす。
和名の由来については、「尻拭き」が略されたもので、葉が大きく柔らかく、トイレットペーパーの役目を果たしていたため、あるいは「フブキ」の略で、フブキとは茎を折った時、繊維が糸のように出てくることを指す、など諸説がある。なお、「蕗」と書くのは路傍や山道などに普通に見られるからといわれる。
栽培品種の「愛知早生フキ」は、促成栽培用の大型のフキとして市場に出荷されている。この品種は愛知県下で発見され栽培化されたもので、その株は種子ができない(不稔性)雌株であったことから、栄養繁殖で増殖されてきた。また大型のフキで有名なアキタブキ(P. japonicus Maxim. subsp. giganteus Kitamura)は、東北以北に自生し、葉柄の長さが2m、葉の直径が1.5mにもなるが、関東地方以南の暖地では小さくなり、フキとの区別が難しくなる。
フキの花蕾(蕾の集まり)を陰干しにしたものは、「蕗の薹」あるいは「和款冬花」と称して市販され、鎮咳・去痰・苦味健胃薬として咳止め、胃のもたれ、胃痛などに用いる。成分としては、ケルセチン(quercetin C15H10O7)やケンペロール(kaempferol C15H10O6)などのフラボノールや、カプロン酸(caproic acid C6H12O2)、アンゲリカ酸(angelic acid C5H8O2)、バッケノライド(bakkenolide) A(C15H22O2)~D(C21H28O6S)などを含む。なお、かつてわが国では、生薬「款冬花」の基原植物をフキに充ててきたが誤りで、本来は同じキク科のフキタンポポ(Tussilago farfara Linn.)の花蕾を乾燥したものであった。
春を告げる山菜として有名な「ふきのとう」と、佃煮などの加工品となる「ふき」は、全く別な種類の植物と思われがちであるが、両者は同じ植物の部位が異なるだけである。前者は花蕾を根ぎわから採取したもの、後者はその部分を切り取りアク抜きして調理したものである。
解説:尾崎 和男(京都薬用植物園) 撮影場所:京都薬用植物園