ヨモギ
キク科(生薬名:艾葉、Asteraceae 局Compositae) Artemisia princeps Pamp.
北海道を除く日本各地の山野に見られる多年草で、茎の高さは50~100cmになり多数分枝する。葉の裏面には白色の綿毛が密生し、秋には淡褐色小形の頭花を多数つける。地下の根茎は横向きに走行枝を出して伸び、各所から芽を出して拡がることから「佳萌草=佳く萌える草」の名が、あるいは、もぐさに因み良く燃えることから「良燃草」の字をあてるともいわれている。属名はギリシャ神話の女神アルテミス(アポロンの妹で月の女神)が婦人病に賞用したことから、女性の健康の守護神といわれたことに由来する。同属のオオヨモギ(A.montana Pamp.)は別名ヤマヨモギと称し、近畿以北から北海道、南千島、樺太などの北方系に分布し、全体的にヨモギに比べて大形で茎の高さは150~200cmとなる。
6~7月に採取した葉および枝先を乾燥したものが生薬「艾葉」で、その基原植物はこれら二種である。艾葉は艾の葉を意味しており、第十六改正日本薬局方第一追補に収載され、味は苦・辛、性は温とされる。葉には精油が含まれ、その主成分はシネオール(cineol)、ツヨン(α-thujone)などである。止血、鎮痛作用などがあり、漢方では、『金匱要略』に収載が見られる「芎帰膠艾湯」に配合されている。これは貧血や冷え症治療の基本処方である「四物湯(当帰、芍薬、川芎、地黄)」に甘草、阿膠および艾葉を加えたもので、主に女性の不正出血、月経過多、痔の出血、皮下出血などに応用される。
一方、外用としてお灸に使う「もぐさ」は、それらの葉の裏の綿毛を集めたものである。主にオオヨモギの葉を5月頃に採取し、陰干しで乾燥してから臼でつき、粉末を取り去ると葉の裏の白い毛の部分が残る。良質のもぐさは葉脈や葉柄が混ざらず、白く柔らかい綿のようにしたもので、滋賀県の伊吹もぐさなどが有名である。もぐさの成分としては蝋分、トリコサノール(tricosanol)、カプリン酸(capric acid)、パルミチン酸(palmitic acid)、ステアリン酸(stearic acid)などの脂肪酸の混合物が知られている。日本語のもぐさがそのまま 「moxa」としてヨーロッパにも伝えられた。
その他、伊吹の御百草などの浴湯剤に配合され、腰痛や冷え症、湿疹などに効果があるといわれている。また、新鮮な葉をよく揉んで外傷に貼ると出血が止まることが知られている。さらには早春にヨモギの若葉を摘み取り、軽く茹でて餅や団子に入れると風味が豊かな草餅(よもぎ餅)になる。
解説:尾崎 和男(京都薬用植物園) 撮影場所:京都薬用植物園