チョウジ
フトモモ科 Myrtaceae(生薬名: 丁子・丁香、Syzygium aromaticum Merr. et Perry)
開花後
蕾
チョウジ、あるいは、料理やお菓子作りが好きな方にはクローブと言ったほうが通りがいいかもしれないが、この生薬には特徴的な甘いにおいがある。日本の在来植物には同じようなにおいをもったものはないし、チョウジは大きさが小さい生薬(長さ1センチ程度)であるにもかかわらず強烈ににおうので、さらには価格も高いので、一度お目にかかるとなかなか忘れない生薬である。
香辛料として販売されているクローブは、多くの場合粉末状でとてもしっとりしている。そのしっとり感は含まれる精油によるもので、においや味も精油に由来するところが大きい。最も多く含まれる精油成分はオイゲノールで、常温常圧で液体であり、揮発しやすく、味は甘い化合物である。
このオイゲノールのにおいは、実はかなりたくさんの方がご存知のにおいであると予想される。どういう場面でご経験済みかというと、歯科治療である。歯科治療ではオイゲノールと酸化亜鉛粉末を混合したものを局所麻酔や鎮痛等の目的でしばしば使用するのだが、これが強くにおうのである。においのもとは、オイゲノールである。ただし、歯科分野ではこの化合物のアルファベット表記(eugenol)をオイゲノールではなく、ユージノールと読み、くだんの歯科治療用材は “酸化亜鉛ユージノールセメント” というものだそうである。
チョウジ(丁子)という名前は、形が釘に似ているため釘を表す「丁」の字を使い、これにタネや核が使用部位である生薬にしばしば使われる文字である「子」が組み合わされている。実際の丁子は花の蕾を乾燥させたものであるが、昔の人はタネを使っていたのだろうか。開花後に種子ができた姿は、若干太めではあるが、形は蕾によく似ている。
チョウジは生薬として、女神散や柿蔕湯、治打撲一方などの処方に配合されるほか、香辛料としても重宝されてきたものである。ホールのチョウジ(クローブ)を厚切りのハムや塊肉に何本か差し込んでオーブンで焼いたり、粉末をハンバーグやクッキー・ケーキ類を作る時の香辛料として加えたりして使う。新年を祝う酒に浸す屠蘇散にも加える。くだんの歯科治療とは、使用濃度が違うからか、はたまた単一化合物(オイゲノール)ではなく化合物の混合物(チョウジ)として使用するからか、生薬・香辛料として使う場合のチョウジのにおいは特徴的ではあるが、甘く優しいものである。
解説:伊藤美千穂(京都大学大学院) 撮影場所:京都薬用植物園