ヤマゴボウ
ヤマゴボウ科(生薬名:商陸) Phytolacca acinosa Roxb (Phytolaccaceae)
中国北部から朝鮮半島に分布する大型の多年草で、薬草として導入・栽培されていたが、現在では北海道南西部から九州の山野や人里近くに野生化している。茎は緑色多肉質で、高さ1m以上にもなり、6~9月頃、枝先には15cm位の直立した商総状花序を作り、白色の小花を多数つける。花穂は垂れ下がらず直立のままで、黒紫色に熟する腋果を多数つける。和名は根がゴボウに似て、山野に生える意味と考えられる。
本種の根の乾燥品を生薬「商陸」と称し、神農本草経の下品に収載されており、利尿薬として浮腫などに用いられる。漢方では『傷寒論』に記載が見られる牡蠣沢瀉散に配合されていたが、作用が強いことから現在ではほとんど利用されていない。成分としては、硝酸カリウム、フィトラクシン(phytolaccine)、サポニンなどが含まれる。特に根や果実に多く含まれるフィトラクシンは、作用性が強く、吐き気や下痢、溶血作用で粘膜の炎症を引き起こす。果実にはベタチアニン色素のベタニジン(betanidin)を含み、その色調から美味しそうに見えるが、食べることはできない。
近縁種には日本の関東以西、四国、九州の山地に自生するマルミノヤマゴボウ(P. japonica Makino)がある。花序が直立するなどヤマゴボウによく似ているが、葉先が鋭尖形になること、花が淡桃色で果実がほぼ球形を呈していることで区別する。また北アメリカに分布し、明治の初期に渡来した帰化植物のヨウシュヤマゴボウ(別名アメリカヤマゴボウ、P. americana Linn.)は繁殖力が旺盛で各地に雑草化している。茎の色が赤紫色で、花穂が垂れ下がるなどの特徴で識別できる。これらも本種と同様に有毒植物である。
一方、日本に分布するキク科植物のアザミの仲間は、花が美しいことから切花に利用されてきた。また、その根はゴボウと同様に食用とされ、本種と同じ呼び名のヤマゴボウ(山牛蒡)、キクゴボウ(菊牛蒡)などの名称で加工品が市販されている。その基原植物は、本州、四国、九州に分布するモリアザミ(Cirsium dipsacolepis Matsum.)などで、主に長野県、北海道、東北地方で栽培された若根を漬物などに加工したものを指している。
このようにアザミの仲間の根は山菜などを含む食品として利用されるが、植物種が異なるヤマゴボウの仲間はすべて有毒と認識して、誤食を避けるため両者を混同してはならない。特に雑草化して身近に生育するヨウシュヤマゴボウには注意すべきである。
解説:尾崎 和男(京都薬用植物園) 撮影場所:京都薬用植物園