タンジン
シソ科(生薬名:丹参) Salvia miltiorrhiza Bunge(Lamiaceae)
中国東北部の向陽地に自生する、高さ30〜80cmの多年草。湿潤な砂地を好む。株全体が黄白色の柔毛および腺毛で密に被われる。茎は四角形で直立し、表面に浅い溝がある。根は細長い円柱形で、外皮は朱赤色。葉は3〜5枚の奇数羽状複葉で、対生する。5〜8月頃、総状花序を頂生あるいは腋生し、青紫色の唇形花を3〜5個輪生する。小堅果は4つで楕円形、黒色を呈する。安徽、河北、山西、四川、江蘇省などで生産栽培されるが、四川産のものが品質最良である。
晩秋から初春に収穫した根を乾燥したものが生薬「丹参」で、『神農本草経』の上品に収載されている。味は苦く、薬性は微寒。根が朱紅色を呈することから、名医別録には「赤参」の別名で記載されているが、李時珍は「五参はその五色がそれぞれ五臓に配するもの」として五行説を述べ、そのなかで「丹参は心に入るから赤参という」としている。伝統的に心臓、循環器系の疾病に有効で、特に心臓や肝臓の過剰な熱を取り除く作用の強いことが知られている。さらに、『婦人明理論』には「四物湯は婦人の病を治すもので、産前・産後、経水多少のいずれを問わず、すべてに通用するものであるが、ただ一味の丹参散の主治はその四物湯と同一である。ただし、丹参は能く宿血を破り、新血を補い、生治を安んじ、死胎を落とし、崩中、帯下を止め、経脈を調える功力が大いに当帰、地黄、芍薬、川芎に類似しているからである」とある。すなわち、主要な薬効は婦人の血流のよどみを解消する作用で、血液浄化、調経、消腫、鎮痛薬として月経不調、腹痛、閉経や産後の悪阻腹痛、リウマチなどに応用されるのである。ただし、鬱血のない者および妊婦は理由なく服用してはならない、とされている。
成分としては、タンシノン(tanshinone Ⅰ、Ⅱ-B)、クリプトタンシノン(cryptotanshinone)、タンシノール(tanshinol)などが知られている。近年の科学的研究により、タンシノンは冠状動脈の循環に絶大な効果があり、狭心症などの症状を緩和し、心機能を改善することが確かめられた。中国では、単離された成分よりも生薬全体を、心臓発作から回復しつつある患者に使うことが多いらしい。臨床的には、予防薬として用いるほうがより効果的とされる。
解説:渡辺 斉(京都薬用植物園 園長) 撮影場所:京都薬用植物園