クチナシ
アカネ科(生薬名:山梔子) Gardenia jasminoides Ellis(Rubiaceae)
静岡県以西から沖縄、さらに台湾、中国南部、フィリピンに広く分布し、庭園樹としても多く植栽される常緑の低木である。葉は長さ5~11cmの長楕円形で光沢がある。双子葉植物(子葉が2枚の植物)の花の構造はほとんどが五数性(花葉の基本数が5であるもの)であるが、本種は萼片が6枚、花弁が6枚、雄しべが6本、果実には縦に6本の稜線(かど)があるなど六数性を示す。初夏には枝先に芳香の強い白色の大きな花をつけるが、種名の「jasminoides」は「ジャスミンのような」という意味がある。晩秋、黄紅色の果実を結ぶ。
和名の由来には諸説あり、一般的には果実が熟しても開裂せず、口を開かない“口無” に由来することが有名である。碁盤や将棋盤の脚はクチナシの果実を模っており、口出し無用の意味があるといわれている。そのほかには、萼片が一見すると鳥の嘴に見えるところから“嘴梨” が縮まった説。また、蛇は食べるが人間には食べられない粗野な果実という意味で“朽縄梨” が短く“ 朽梨”となった説などがある。
完熟した果実を乾燥したものを『山梔子』と称し、小形で丸く内部の赤黄色のものを良品とする。因みに、「梔」は生薬の形が中国の酒の容器に似ていることに起因している。味は苦く、薬性は寒で、神農本草経の中品に収載され、消炎、止血、利胆、解熱作用などがあり、漢方的にはイライラ感、のぼせ、不眠などを改善する目的で黄連解毒湯、温清飲、加味逍遙散などに配合される。成分としてはゲニポシド(geniposide)、ガルデノシド(gardenoside)、シャンジシド(shanzhiside)などのイリドイド配糖体やカロチノイド系色素のクロシン(α-crocin)などが含まれる。
色素としての利用は、飛鳥時代から布地を黄色に染める原料として用いられ、現在でも“栗きんとん”や“沢庵”など食品の着色料に用いられる。大分県臼杵市には、“ 黄飯”(オウハン、キメシ)と称する郷土料理がある。これは、山梔子を用いて黄色く染まった水で炊いた米のことであり、江戸時代に赤飯の代わりに慶事に出す料理として生まれたといわれる。名古屋市や静岡県東伊豆町にも同様の料理がある。
繁殖法としては、熟した果実から種子を取り出して直ちに播く、あるいは初夏に新しく伸びた枝を切り取って挿木する方法がある。本種の開花結実に関しては、雄しべと雌しべで成熟期が異なり、後者が2〜3日遅くなる性質(専門用語では「雄性先熟性」という)が知られている。害虫としてはオオスカシバが初夏から秋口にかけて発生する。また、大輪八重咲きをヤエクチナシ(var. ovalifolia Nakai)といい、熊本県に野生しているものが天然記念物に指定されている。
解説:尾崎 和男(京都薬用植物園) 撮影場所:京都薬用植物園