シオン
(キク科/生薬名:紫菀) Aster tataricus Linn.f.(Asteraceae)
中国東北部、モンゴル、シベリア東部、朝鮮半島などに分布する多年草。『本草和名』(918年)などにその古名がみられることから、古い時代に中国あるいは朝鮮半島から薬用を目的に導入・栽培されたものであろうが、花が美しいことから観賞用として栽培され現在に至っている。
本州の中国地方と九州の山地に野生化したものがみられるが、近年絶滅危急種に指定されている。草丈1~1.5mで、茎は直立し上部で枝分かれする。短い根茎から細長い根を多数叢生するが、根の外面は紫赤色で折れにくい。秋風が吹き始める9~10月頃、一重で淡紅紫色の頭花を多数咲かせる。澄みきった青空によく映える花で、長い花柄を有する散房花序である。よく殖えるため、庭先にかたまって咲いていることが多い。
和名は、中国名の紫菀を音読みしたもの。また平安の頃には秋の名月をこの花の間から眺めたのか、「十五夜草」の別名がある。花言葉は「追想」。
10~11月頃、掘り取った根および根茎を乾燥したものが生薬「紫菀」で、『神農本草経』の中品ならびに『日本薬局方外生薬規格』に収載されている。特異の匂いがあり、舐めるとわずかに甘く、後に苦味が出てくる。漢方では杏蘇散、射干麻黄湯、紫菀散などに配合され、鎮咳・去痰薬として慢性気管支炎や肺結核などに用いられる。最近の研究では、エールリッヒ腹水がんに対する抗がん作用のあることが見出されている。
成分としては、シオノン(shionone C30H50O)などのシオンサポニン(astersaponin)、ケルセチン(quercetin C15H10O7・2H2O)などのフラボノール、その他アネトール(anethole C10H12O)などからなる精油、脂肪酸などが知られている。
本種は丈の高い野菊で、『古今和歌集』(905年)以来多くの詩歌や物語に登場するが、長谷川等伯画の京都智積院の襖絵にみられるように、室町時代以降の障壁画にも多く描かれた。また秋の季語にもなっていて、正岡子規は「さびしさを猶も紫菀ののびるなり」と詠んだ。
日本では、本州の川岸や湿った草原に生育するヒメシオン(A. fastigiatus Fisch.)が分布する。頭花は白色で、直径1cm未満とごく小さい。また熊本県の阿蘇高原で見つかったヒゴシオン(A. maackii Regel)は、草丈60cmほどのやや小型で、花数も少ないが、赤紫色の花の直径は3.5~4cmと大きい。
解説:渡辺 斉(京都薬用植物園 園長) 撮影場所:京都薬用植物園