センダン
センダン科(生薬名:苦楝皮、苦楝子) Melia azedarach Linn.(Meliaceae)
沖縄、四国、九州、小笠原など暖地に分布する落葉高木。中国大陸やヒマラヤ地方にまで分布する。樹皮が縦に裂ける特徴がある。葉は2~3回羽状複葉で、5〜6月頃に枝梢の葉腋から大形の複集散花序を出して淡紫色の美しい花を開く。秋に黄熟する果実を多数つける。本種は比較的果実が小さく、通常は5室である。和名は、深津正著『木の名の由来』(東京書籍)によると、「千団子」からきているらしい。
本種の果実を「苦楝子」、樹皮を「苦楝皮」と称し、『神農本草経』の下品に「楝実」の名で収載されている。前者は鎮痛作用が強く、後者は主に回虫などの駆虫薬として用いられる。味は苦く、薬性は寒。また枝葉も殺虫剤として利用される。樹皮にはタンニン7%を含み、その有効成分はワニリン酸(vanillic acid C8H8O4)である。他に、フェノールのニンビオール(nimbiol C18H24O2)、アルデヒドのワニリン(vanillin)、桂皮酸(cinnamic acid)、タンニンのカテキン(dl-catechin C15H14O6)などを含む。材は建材や家具材に用いられ、また楽器材ともなる。
一方、近縁のトウセンダン(var. toosendan Makino)は、直径2.5cmの核果の中に6~8室がある。四川省に多産し、その果実を「川楝子」と呼び、腹痛薬などに使う。
日本では古くからなじみのある木で、古名を「アフチ」といった。花色の淡藤に由来するらしい。万葉集にある「妹が見し
棟の花は散りぬべし 我が泣く涙いまだ干なくに」は、山上憶良が夫人の死を哀悼したもので、アフチを「逢ふ」に掛けて恋愛歌などに使われることが多かった。平安時代には5月の節句にショウブなどとともに飾ったが、中世になると一転して不浄の木と見なされるようになった。平家物語によると、三条河原のセンダンの木に源義朝や木曽義仲、平宗盛、清宗らの首をかけて曝したという。江戸時代には鈴ヶ森の処刑場の周囲に植えられた。棺桶の木と呼ぶ地方もあり、火葬の薪としても利用された。
滋賀県三井寺の護法善神堂に祭られる御本体は千人の子供を持つ鬼子母神で、毎年5月15日から3日間にわたって行われる祭礼には子供達のために千個の団子を供えるところから、その法会を俗称で“千団子祭”と呼ぶ。本種の枝々に群がりつく核果の姿を表したものと解される。またインドや中国ではこの木に邪気を退ける霊力があるという俗信があり、それが日本に伝えられて中世以来本種の材が獄門台に使われるようになった由。
ところで、「栴檀は双葉より芳し」の諺でいうセンダンは、ビャクダン科の「ビャクダン(Santalum album Linn.)」のことで、材に芳香があって薫香料とされるが、本種には全然そのような香りがない。
解説:渡辺 斉(京都薬用植物園 園長) 撮影場所:京都薬用植物園